秋谷直矩・團康晃・松井広志編,2021,楽しみの技法:趣味実践の社会学

目次と書誌

  • 294ページ
  • 2,970円(税込)
  • 発行日:2021/6/11
  • ISBN-10: 4779515823
  • ISBN-13: 978-4779515828
  • 出版社: ナカニシヤ出版

私たちは「趣味」をどのように楽しんでいるのか。現代における多様な趣味のあり方を、様々な手法を駆使して社会学的に解明!

目次

はじめに
第I部 趣味の境界
第1章 趣味の集まりの中の活動時間と気晴らし
第2章 可視化される読者共同体
第3章 「やりがいのある仕事」にたどり着くこと
第II部 趣味の実践学
第4章 いかにして「異文化」のユーモアを理解するのか
第5章 「歌いたい曲がない!」
第6章 観光する時間と友人の時間
第III部 趣味のアルケオロジー
第7章 個人参加型フットサル
第8章 たまごっちは「暇つぶし」を超える
おわりに

本書から

本書『楽しみの技法』に収録されている論考はすべて具体的な趣味実践の事例、具体的なデータに強く依拠しています。このことは重要です。社会学はこれまで様々なかたちで、趣味を扱ってきました。たとえば「はじめに」で示したように、消費社会論であったり、ブルデューの理論のように、人びとの趣味のあり方から社会を説明してきました。それは昔から、そして今も、趣味をテーマに社会学をするときのひとつの重要なやり方でしょう。一方で、なんらかの理論的な知見を前提とせずとも、そこで経験されていることを記述すること、「楽しみの技法」を明らかにすることは非常に重要な社会学的な仕事になりえます。これは本書の論考の基本的なスタンスの一つです(p.16)

著者に聞く ── 一問一答

本書を出版しようと思った動機やきっかけを教えてください.  ナカニシヤ出版の編集者の酒井さんから、趣味的な実践を対象とした本が作れないか…というお声がけをいただいたのがきっかけです。わざわざ山口大学までご足労いただき、さまざまなアイディアについてやり取りをしました。そこで酒井さんから「たとえばロッククライミングを対象とした社会学研究はあるのですか」と聞かれたので、P. TolmieとM. Rouncefield編の“Ethnomethodology at Play”に収録されているロッククライミングのエスノメソドロジー研究をご紹介しました。このようなやり取りを経て、日本版の“Ethnomethodology at Play”を作ろうということになりました。とはいえ、研究者向けの専門書ではなく、趣味実践を対象とした研究に取り組もうとする卒論生や修論生を励まし、またお手本として座右に置けるような本作りを目指しました。ただ、このとき私(秋谷)は趣味実践を対象とした研究はしていなかったため、取りまとめや進捗管理は私がやるとして、内容的な充実を図るために共同編者が必要だと考えました。そこで、まさにご専門ど真ん中の團康晃さんに共同編者就任のお声がけをしました。また、趣味実践を対象とした社会学研究の論集としての広がりを持たせるために、メディア研究の文脈で趣味実践の歴史について素晴らしい研究実績を積まれていた松井広志さんにもお声がけをしました。(秋谷)
構想・執筆期間はどれくらいですか?  企画発足から出版まで約2年半です。非常に前途有望な若手研究者を世間に紹介したいという思いもありましたので、執筆陣はほとんど若手で構成されています(「ほとんど」と書いたのは、残念ながら本書制作中に文部科学省的定義による「若手」の資格を私が喪失したことによります)。致命的な原稿提出遅延もなく、比較的スムーズに本作りを進めることができました。(秋谷)
本書以前に執筆された著書(あるいは論文)との関係を教えてください。  本書は編著本なので執筆者それぞれの文脈があると思いますが、共通しているのはいずれも書き下ろしだということです。それまでのご研究との延長線上での書き下ろしもありますが、これまでとはまったく異なる研究対象・調査方法で取り組まれたものもあります。(秋谷)

オンライン小説投稿サイトというフィールドは本書がはじめてでしたが、過去にケータイ小説読書の分析(團2013)を行ったことがあり、そこで見ていたことは大きなヒントになりました。今回の論文では、読者達がどのようにして日常生活の中で、オンライン小説投稿サイトに誘われるのか、そのタイミングについても触れていますが、ソーシャルメディアのもたらした趣味活動への参加形式の問題は、学校の休み時間においても、投稿サイトにおいても、とても重要なテーマだと確信しています。また、読書という点では『社会にとって趣味とは何か』所収の「読者たちの「ディスタンクシオン」」(岡澤・團2017)で扱った特定読書ジャンルにおける読むことの意味という問題設定も執筆を進める上で重要なヒントになりました。(團)

これまで模型(松井 2017)やゲーム(松井ほか編 2019)といったメディア文化の歴史研究を行ってきましたので、その延長線上でたまごっちというデジタルデバイスを扱いました。また、私が担当した第Ⅲ部は、直接的には近年のメディア考古学という研究動向に沿った問題設定となってますが、より広くは趣味や身近な文化も研究対象となってきた、ここ数十年の歴史社会学やメディア史の成果に基づいています。(松井)

執筆中のエピソード(執筆に苦労した箇所・楽しかった出来事・ 思いがけない経験など、どんなことでも可)があれば教えてください。  編者の醍醐味のひとつは、まだ世に出ていない論考を誰よりも早く読むことができるということです。さらに内容について著者と幾度となく議論もできます。編者としての仕事の大変さはあるのですが、役得とはまさにこのことだなと感じていました。個人的なことを言いますと、都市圏から離れたところに居住しているゆえに周囲に同業者はさほどおらず、さらには学会や研究会へのオフライン参加が難しい状況にあった私にとって、自身の関心に沿った研究の議論が出来る場の存在は非常に貴重でした(研究会や編者会議は基本遠隔で実施しました)。また、企画発足当初、私は取りまとめに徹し、論考を執筆する予定はなかったのですが、さまざまな事情によって書くことになりました。結果として研究の幅が広がったのでよかったと思います。(秋谷) 担当したオンライン小説投稿サイトの論文は、学部時代の友人(現在、編集者)との雑談がきっかけでした。そこから読者になり、(少しだけ)書き手になり、プラットフォームのユーザーとしてその環境を知り、そこに集う人たちを知り、というこれまでとは異なる楽しいフィールドワークを経験できました。それと編者として「はじめに」を初めて書けたのは良い経験でした。先行研究に対し、EMCAやメディア論の視座がどう寄与できるか、自分なりに考え直す良い機会でした。(團)

本書は基本的に若手が集まって研究会を繰り返してできた成果です。とはいえ(上でも示唆されているように)編者の方はどちらかというと「中堅に近い若手」で、他の執筆者は「本当の若手」という感じでした。そのため、私としてはほぼ同年代(同じくらいのキャリア?)である残りの編者二人のすごさ(狭義の研究能力だけではく、取りまとめや事務処理の能力)を実感しつつ、近い後進である残りの執筆者にはその優秀さや勤勉さに驚く(追い抜かされているのではと思う)ことが多かったです。(松井)

執筆中のBGMや気分転換の方法は?  この仕事が私にとっての気分転換でした。(秋谷)

コロナ禍真っ只中ということもあり、今思い出そうとしても、あまり思い出せません。何か不思議な感じです。(團)

研究対象でもある、ゲームや模型制作をしていました。とはいえ、その際も研究(論文)のことをどこかで考えているので、やはり労働と余暇の区別は失効しているようです。(松井)

執筆において特に影響を受けていると思う研究者(あるいは著作)があれば教えてください。 Peter Tolmie, Mark Rouncefield, eds., (2013), “Ethnomethodology at Play”, Farnham, Surey, U.K., Ashgate.(秋谷、團)北田暁大・解体研2017『社会にとって趣味とは何か:文化社会学の方法規準』河出書房新社(團)

エルキ・フータモ『メディア考古学:過去・現在・未来の対話のために』 NTT出版(と書きましたが、むしろ上記書の淵源でもあるフーコーやベンヤミンの著作の方が、本書の論文への影響も強いかもしれません)(松井)

社会学的(EMCA的でも可)にみて、本書の「売り」はなんだと思いますか?  最近、片岡栄美(2023)(「分野別動向:趣味〔テイスト〕の社会学」『社会学評論』74(2), pp.332-346.)を大変興味深く読みました。冒頭で「ホビー(hobby)の社会学」と「テイスト(taste)の社会学」がそれぞれ異なる研究潮流であることへの注意を促したうえで、注で前者に包含されるものが「人文学の文化分析や余暇・レジャー行動研究にルーツがあるようだ。そこに消費社会論やカルチュラル・スタディーズが加味されている場合もある」(片岡 2023, 342)とまとめています(なお、この分野別動向は「テイストの社会学」に焦点化したものとなっています)。本書も上記の分類に従えば「ホビーの社会学」と言えます(このことは團さんが書いた本書の「はじめに」でも明言しています)。本書は、片岡さんによる「ホビーの社会学」のまとめには含まれていなかった「趣味実践を対象としたエスノメソドロジー研究」の来し方も概説しているので、分野動向を把握するという点でも役立つ本になっている思います。本書と同時期に出版された宮入恭平・杉山昴平編『「趣味に生きるの文化論:シリアスレジャーから考える』ナカニシヤ出版や神野由紀・辻泉・飯田豊編『趣味とジェンダー<手づくり>と<自作>の近代』青弓社などと本書をあわせてお読みいただければ、「ホビーの社会学」の現代的動向がおおよそ掴めるかと思います。(秋谷)

社会学を専攻する学生さんの中には、様々な趣味や楽しみを研究したい、そういう関心をもって社会学に出会う人も少なくないと思います。そうした人たちに対し、「社会学はそういう学問ではない」とその可能性を断ち切るのではなく、「こういうやり方もある」という方向性を示す一つの仕事になれたら嬉しいと思っています。何気ない楽しみから、こういうかたちで「社会」学に触れられるのだ、と示せると思います。また、読んでみて、身近な例で考えてみたら、触れられている、という実感を得られると思います。ここを通過点としてメディア論やエスノメソドロジー・会話分析に関心をもってもらえるとより嬉しいです。(團)

大学生を教える仕事について約10年経ちますが、学術的な(多くの場合、抽象的な)概念から入る話がいっそう通じなくなってきているのが実感です。知識より実践が好まれること。それは批判的に捉える必要もあるでしょうが、別の視点からすると「実践」をそのまま扱うことを指向してきた領域(エスノメソドロジーはそのひとつと考えます)が重要になっていることも示しているとも思います。(松井)

認知科学者に特に読んで欲しい箇所はありますか?またその理由を教えてください。  本書に収録された論考のいずれも、思弁的に「楽しみ」について考えるのではなく、人びとが実際にやっていることに即した記述に立脚して「楽しみ」について考えるスタイルを採用しています。このことは、分析記述において、人びとと人工物や環境とのかかわりについての記述が含まれることが多くなるということでもあります。たとえばメディア機器に注目すれば、本書では「ポータブル音楽プレイヤーのイヤホン」(大西論文)や「カラオケのデンモク」(吉川論文)、「たまごっち」(松井論文)などのメディア機器が、それぞれの趣味実践の組織において非常に重要な役割をもって登場し、分析されていることに気づきます。認知科学における人工物をめぐるインタラクション研究や、科学技術社会論(STS)におけるテクノロジーの使用に注目した実践研究の文脈上でそれぞれの研究は進められているわけではありませんが、関連するものとして読むことができるはずです。(秋谷)
レジャー・スタディーズの研究者に特に読んで欲しい箇所はありますか?またその理由を教えてください。  レジャー・スタディーズ方面では、趣味実践を対象としたエスノメソドロジー研究の展開はあまりフォローされていないように思います。ぜひこれを機会に本書を手にとっていただき、レジャー・スタディーズの裾野を広げるための一助にしていただきたいと思います。(秋谷・團)
EMCAの初学者は、どこから読むのが分かりやすいと思いますか?  また、読むときに参考になる本や、読む際の留意点があれば、教えてください。  本書で言えば、概説としては第Ⅱ部趣味の実践学の「解説」を読むのがよいと思います。ただ、エスノメソドロジー研究は基本的にその記述において読者が再分析できる形式で書かれているので、その特性を利用してみるのもよいと思います。特に岡沢亮さんが書かれた「いかにして「異文化」のユーモアを理解するのか:コメディ映画鑑賞と字幕・吹替の技法」は、研究対象が映画であり、それを読者も視聴することができる点で、初学者にもとっつきやすくなっていると思います。実際に映画を見て、分析記述の内容を確認してみてください。分析の着眼点や分析方法、分析結果の記述の仕方など、多くのことを体験的に理解できるようになるはずです。(秋谷) 頭から一貫して読んでも良いと思いますし、各自の興味関心に合った章を読んでみて、各解説に飛ぶ、あるいは関連書(『ワードマップ エスノメソドロジー』等)に飛びながら、専門概念をより理解していく、という読み方も良いと思います。また「はじめに」でも大枠を書きましたが、各章毎に先行研究が整理され、それに対する本論での分析の位置づけが示されています。この手続きは、読者一人ひとりが本書のやり方で、自分の関心を論文として位置付ける際に役に立つと思います。(團)
次に書きたいと思っていることや今後の研究の展望について教えてください。  本書の制作をきっかけのひとつとして、自分自身の長年の「楽しみ」であったバレーボールのプレーや試合の鑑賞を対象に研究をするようになりました。研究を進め、趣味実践のなかでも「スポーツ」に注目した論文執筆や本作りができるようになることが今後の野望です。(秋谷) 今後も引き続き、趣味をテーマにした研究をやっていきたいと思っています。今度はもう少し歴史社会学、メディア論を意識して、雑誌メディア上での相互行為に注目した分析をやろうと思っています。(團)

本書ではモバイルメディアを扱いましたが、スマホやプラットフォームのUI、あるいは人々のその利用のしかたからは、メディアそのものを感じさせない方向に行っているように思います。そうした無化するメディアか、あるいは逆にそこでのノイズとなるモノを、何らかの具体的な対象に即して研究していきたいです。(松井)

本書で扱われていること ── キーワード集