是永論・富田晃夫編,2021,エスノメソドロジー 住まいの中の小さな社会秩序 家庭における活動と学び:身体・ことば・モノを通じた対話の観察から

目次と書誌

  • 172ページ
  • 2,500円(税別)
  • 発行日:2021/10/20
  • ISBN-10: 4750352632
  • ISBN-13: 978-4750352633
  • 出版社: 明石書店

住まいの中で日々に営まれている活動を主に子どもと親の関係を中心に撮影したビデオデータを用いて、空間・感情・メディアという三つの観点から、身体・ことば・モノを通した家庭の人々の対話を中心に、研究者と住宅関係者が多面的な分析を展開する。

目次

まえがき
序章 家庭における活動への視点
第I部 家庭という空間
第1章 生活行動を通して発見する場所の意味
第2章 片づけはなぜ難しいのか
第II部 家族と感情
第3章 家族への配慮と家事労働
第4章 家庭内における遊びと感情の表出
第III部 家庭のメディア
第5章 家庭におけるテレビ視聴
第6章 「画面」がある家庭の光景
あとがき

本書から

本書は、多様な研究背景をもつ執筆者が、各自の関心だけから同じフィールド(注:観察現場である家庭)についての観察結果をただ書き記したものではなく、あくまで家庭にいる(いた)生活者の視点にしたがって、各自がフィールドについての知見を紡いでいく形でまとめられている。そのために、本書は、家庭での活動を空間・感情・メディアという三部に分けた上で、各章のテーマにしたがって、それぞれにおける身体・ことば・モノを通した家庭の人々の対話を中心に分析を展開するという構成になっている(p.2)

著者に聞く ── 一問一答

本書を出版しようと思った動機やきっかけを教えてください.  (以下の回答はすべて文責者である是永個人の見解によるものです)直接のきっかけは、共編著者である富田晃夫氏をはじめとするミサワホーム総合研究所(以下ミサワホーム)の所員と、筆者の呼びかけにより参加した研究者で構成された「生活者行動観察研究会」による共同研究になります。筆者とミサワホームの関係やその経緯に関しては、本書の「プロローグ」や「あとがき」に詳しいので、そちらを参照いただきたいと思います。
筆者個人としては、専門の立場から家庭でのメディア利用について実態に即した研究をしたかったこともありますが、それ以上に、筆者には子どもがいないのですが、親類を通じて家庭での育児に(ほんの一部ですが)関わることがあり、そこで観察した出来事について、「チュートリアル」という、実践における固有の方法を明らかにするエスノメソドロジーの観点から家庭にアプローチできると面白いのではないかと考えていました。一方で、「子育て罰」などと言われるように、育児環境の改善がなかなか進まない現状を耳にしながら、そうした状況について家庭の当事者の方々に、筆者のような育児未経験者の立場からも貢献できることがあればとも考えておりました。
構想・執筆期間はどれくらいですか? 研究会の発足は2013年からで、研究活動としては10年ちかく経過していますが、実際に書籍としてまとめる方向で動き出したのは2019年からで、2021年の発行まで約2年といったところです。
本書以前に執筆された著書(あるいは論文)との関係を教えてください。  筆者個人としては、『ワークプレイス・スタディーズ』(水川喜文・秋谷直矩・五十嵐素子編、ハーベスト社)で行った配管工事現場のワーク研究が関連するものになります。研究を始めるにあたり住宅メーカーにアプローチしたのは、この研究で行った手法がどれだけ実際の現場の方にアピールできるものかについて確認する意図もありました。直接の結果としては本書の「プロローグ」にあるように、あまり理解をいただくことはできなかったのですが、観察による共同研究を始める動機としては活用いただけたように思います。 「あとがき」にも書きましたが、私のケースもその一つかもしれませんが、家庭の構成員以外の立場から育児に関わるなど、家庭環境が多様化する中で、統一した社会規範を安易に前提とすることができない状況に対して、それぞれの家庭で行われていることを、ある状況についてそのつどに組織化される対象としてとらえ直す、という発想はワークの研究から得られた大きな成果だったように思います。
執筆中のエピソード(執筆に苦労した箇所・楽しかった出来事・ 思いがけない経験など、どんなことでも可)があれば教えてください。  「あとがき」でも触れていますが、苦労した点としては、研究者の方が「若手」として抱える様々な環境上の問題から、定期的な研究会への参加を維持いただくことが難しく、本書の計画を進めるにあたっても、もっと研究会レベルで細かく議論できるとよかったのですが、出版の完遂を優先する中で、その余裕が取れなかったのは残念でした。 またそうした余裕のない状況で、家庭で収集した膨大な動画データを定期的に見て観察結果を報告いただくことの苦労もありましたが、何といっても、その中で繰り広げられている家族の方々による「固有の方法」が興味深く、貴重な場面を見させていただいたことは、楽しくかつ幸福な経験でもありました。
執筆中のBGMや気分転換の方法は? 編著のため割愛させていただきます。
執筆において特に影響を受けていると思う研究者(あるいは著作)があれば教えてください。  編著者としては、M.GoodwinさんとA.Cekaiteさんによる、アメリカとスウェーデンの家庭を対象としたビデオ観察の研究プロジェクト(M.Goodwin & A.Cekaite 2018 Embodied Family Choreography. Routledgeなど)が最も念頭に置かれていました。本書のデータが研究者不在の間に固定カメラで撮影されたのに対して、こちらのデータは研究者が現場にいながら細かく観察・撮影していたという差は大きいのですが。 Cekaiteさんには本研究会の研究について、Research on Children and Social Interactionへの投稿(https://doi.org/10.1558/rcsi.12420として掲載)を手引きいただくなど、実際に研究を通じた交流があったのも幸いでした。
社会学的(EMCA的でも可)にみて、本書の「売り」はなんだと思いますか?  同一の家庭における実際の活動の様子を長期にわたって観察した結果に基づいているところが大きいと思います。固定カメラによる観察で、当事者に確認できる機会も限られていたのですが、それでも対象者の行動の特徴や傾向などをある程度把握しながら観察することは可能で、こうした条件でも一定の研究成果を得ることができる例を示すことができたように思います。 ちなみに、本書はB5版という、研究書としては珍しい版型で、カラーページも入っているのですが、そのために会話の書き起こし部分や図版が見やすいという好評をいただくと同時に、費用的にも大きな問題はなかったようなので、こちらも参考になれば幸いです。
言語学者に特に読んで欲しい箇所はありますか?またその理由を教えてください。 遠藤智子さんによる4章の「家庭内における遊びと表出」では、発話のイントネーションとピッチの波形を用いた分析がなされており、言語学的な分析としても有用であると考えます。
実践家に特に読んで欲しい箇所はありますか?またその理由を教えてください。 家庭での実践という点では、森一平さんによる2章の「片づけはなぜ難しいのか」や須永将史さんによる3章の「家族への配慮と家事行動」といったものが、家事という直接の経験について理解しやすい箇所であると思います。「家庭にいる・いた者」として考えれば、あらゆる人が家庭に関しては「実践家」であるともいえますが、それだけでは個別の環境やその制約の中でしか考えられないこともあるので、その点で自分とは違う環境における実践の分析から「気づき」を得ていただけることに本書の意義があると考えます。
EMCAの初学者は、どこから読むのが分かりやすいと思いますか?  また、読むときに参考になる本や、読む際の留意点があれば、教えてください。  各章のテーマは、「あらまし」として分析上のポイントともに巻頭にまとめられているので、そちらで概要をつかむことができます。ワークやエスノメソドロジーの視点による観察など、本書における分析テーマの背景および方法の特徴については、本書以外の観察例も含めて序章で詳しく紹介しているので、まずそちらから読まれるとよいと思います。 実践家に向けた内容として、必要となる予備知識や、参考文献は最小に留めているので、EMCAとしては、基本書として当サイトなどで挙げられているものをあらかじめ読んでおいた方が本書の内容を活用しやすくなるかと思います。筆者個人としては、フランシス&へスターによる『エスノメソドロジーへの招待』(ナカニシヤ書店)がおすすめです。
次に書きたいと思っていることや今後の研究の展望について教えてください。  コロナ禍による中断もあり、今後の研究会の進行について検討中のため、それにしたがい、続刊などもまったく未定ではありますが、筆者個人としては、具体的な知見を蓄積するほど有用であることは間違いないため、研究会としてテーマを洗練しながら継続していければよいかと思っています。 また何よりも参加メンバーによって今後の展開が決まってくるものでもあり、研究会に興味のある方のご参加・ご見学はいつでも歓迎しておりますので、是永までご連絡ください。

本書で扱われていること ── キーワード集

エスノメソドロジー、家族実践、小上がり、住宅メーカー、しつけ、タイミング、トラブル、ホームコモンズ設計、気づき