研究会員である秋谷直矩さんが認知科学会の第9回野島久雄賞を受賞しました。
秋谷さんからコメントをいただいたので掲載します。
「第9回野島久雄賞(認知科学会)受賞に寄せて」
秋谷直矩
受賞の連絡をいただいたときは大変おどろきました。なにせ認知科学誌に論文が載ったのは2009年、2010年、2014年とけっこう前のことだったからです(同時に、読んでくれた人がいたんだ!という喜びもありました)。
私個人の受賞はともかくとして、社会学に由来をもつエスノメソドロジー研究が分野の枠を超えて認知科学分野で賞の対象となったということについて、少し雑感を述べたいと思います。
私が認知科学という言葉に初めて触れたのは、ゼロ年代はじめに武蔵大学社会学部で開講されていた皆川満寿美先生ご担当の講義「エスノメソドロジー」で上野直樹・西阪仰(2000)『インタラクション:人工知能と心』大修館書店で読んだときでした。当時は学問分野の違いなど皆目わからないので、「…本論で議論されている以上のようなテーマは、認知科学とエスノメソドロジー・会話分析のインタラクションから生まれたものです」(p.ⅳ)と書かれていてもなんのことやらという感じでしたが、それでも議論されている内容の面白さに感銘を受けたのを覚えています。
今から思えば非常に幸せだったのは、これは面白いとなったときに、次に読む本がたくさんあったということです。サッチマンの『プランと状況的行為』をはじめとして、産業図書から状況論や心の哲学の著作・翻訳がたくさん出版されていましたし、金子書房の『状況論的アプローチ』シリーズが出たのもこの頃だったと記憶しています。いい時期に学生時代を過ごすことができました。心理学・認知科学・社会学など分野横断的に編まれたこれらの書籍で展開されたさまざまな議論は、私のエスノメソドロジーへの入口でもありました。
こうした学習環境の整備は、複数の分野を横断して活動していた当時の状況論者やエスノメソドロジスト、自ら研究会を組織したり翻訳企画を持ち込んだりする編集者…といった人びとの熱心な研究・出版活動の上にあったと知るのは、大学院進学後しばらくしてからのことです。
何が言いたいかというと、認知科学分野でエスノメソドロジー研究に賞が与えられるという出来事は、先達が道なき道を切り拓いたうえで、後進が進む道を丹念に整備した結果としてある、ということです。ゼロ年代はじめに学生生活を送った私は、学部生の時期にその恩恵に与った最初のほうの世代と言ってよいかと思います。
未就学児2人を抱え以前のような研究活動ができなくなったうえに、感染症の世界的流行でどうにもならなくなり、今後研究活動をどうしようか考えているときに受賞の連絡をいただきました。この受賞は、私の来し方行く末について思いを巡らすよい機会にもなり、大変感謝しております。当時の先達の多くは40〜50歳というところでしょうか。私も40代(!)に突入しました。先達が私(たち)にやってくれたことを念頭に置きつつ、次代に何ができるかを考えながら、今後の研究活動を進めねばならないと思いを新たにしているところです。