小宮友根・黒嶋智美 (編), 2023 実践の理論を描く: 相互行為のなかの知識・身体・こころ

目次と書誌

  • 344ページ
  • 4,180円(税込)
  • 発行日:2023/3
  • ISBN: 978-4-326-60357-2
  • 出版社: 勁草書房

私たちが知識、身体、こころを持つという経験は、相互行為の中でいかに理解可能にされているのか? 実践の論理の分析から描き出す。

目次

序章 実践の論理を描く[小宮友根]
第Ⅰ部 相互行為のなかの知識
ナビゲーション1
第1章 質問に対する2つ(以上)の応答──応える権利・義務の諸相[早野 薫]
第2章 職業訓練活動における雑談の組織化──利用者と支援者による話題展開と参加のプロセス[岩田夏穂]
第3章 合意形成における経験,知識,権利──住民座談会の事例をもとにして[黒嶋智美]
第4章 「科学」について実践学的に考える──論理文法分析を道標として[中村和生・水川喜文・五十嵐素子]
第5章 計画はいかにして修正されるのか──放射線量の可視化と空間の構造化[須永将史]
第6章 診療におけるアジェンダの協働的産出──大学病院における全人的医療の実践[串田秀也]
コラム 言語学とEMCA[早野 薫]
第Ⅱ部 相互行為のなかの身体
ナビゲーション2
第7章 再現身体と仮想身体──裁判員裁判の評議における身体の構造化実践[小宮友根]
第8章 サッカー指導場面での「身体的実演」に見られるコーチと選手の相互行為[林 誠・安井永子]
第9章 「学習の達成」に志向した教示作業のデザイン[五十嵐素子]
第10章 同一性と身体性──インストラクションとインストラクションを模倣すること[荒野侑甫]
コラム 哲学と実践の論理[山田圭一]
第Ⅲ部 相互行為のなかのこころ
ナビゲーション3
第11章 インターホンに対応する──救命救急センター病棟における知覚の編成[前田泰樹]
第12章 レッスンのなかで見るということ──哲学とエスノメソドロジーの交差点[山田圭一]
第13章 意思決定過程における感情表出について[川島理恵]
第14章 地域精神医療の実践の論理──カンファレンスの検討から[浦野 茂]
第15章 「もうゲームはおしまいなんだけど」──定型発達児と自閉スペクトラム症のある子どもによる定式化の交渉[高木智世]
コラム 社会学と実践の論理[前田泰樹]
おわりに[黒嶋智美]

本書から

私たちは家族と過ごし、新たに人と出会い、友人となり、恋人となりといった人間関係を築く中で、人間関係の構造を呑み込んできた。また誰かと挨拶を交わし、知らないことを尋ね、冗談を言い合い、怒られたり誤ったりしたりする中で、順番交代の仕方を呑み込んできたのである。そのようにして社会生活を営む中で馴染んできたものであるがゆえに、きわめて身近にありながら体系的な言語化を受けていない、そういう対象としての「相互行為の組み立て方」を本書では捉えたいと私たちは考えている。(p. 13)

本書は、私たちにとって(そしてもちろん読者にとっても)「新たな事実」を提示するという意味での経験的探求ではない。様々な活動の、他ならぬその活動としての理解可能性を支えるものの探求を概念的探求と呼ぶとするなら、実践の論理という表現は実践的活動の合理性の探求が概念的探求であることを表現している。(p. 13)

他方で、本書が「相互行為の分析」に焦点を絞るのには理由もある。それは、互いに言葉を交わすために人びとが用いている方法を描く技術が、その方法の特性をうまく捉えたものであるがゆえに、相互行為の分析は大きく発展してきたという事情があると思うからである。(p. 15)

著者に聞く ── 一問一答

本書を出版しようと思った動機やきっかけを教えてください. 書中でも言及しているように、西阪仰先生のご退職にあたり、先生のこれまでの研究と教育の意義を記念した書物を作り、薫陶を受けてきた者たちとして感謝の意を示したいというのが動機です。(黒嶋)
構想・執筆期間はどれくらいですか? 一番初めに勁草書房の伊從さんに出版の意向を連絡したのが2021年6月でしたので、編者間で構想し始めたのは2021年頃だったかと思います。完成原稿の締切は2022年10月でしたので、執筆期間は1年程度でしした。2023年の春出版という締切があったので逆算しても丸2年ですべてを完成させる必要がありました。(黒嶋)
執筆中のエピソード(執筆に苦労した箇所・楽しかった出来事・ 思いがけない経験など、どんなことでも可)があれば教えてください。 これも書中で述べていることですが、執筆中の1年ぐらいの間に、総勢17名の著者で各章の発表を行いフィードバックし合う研究会を3回行いました。パンデミックの最中でしたのでオンラインでしたが、ほぼ半日、社会学、言語学、哲学の著者が、それぞれの持つ視点や専門知識を活かしながらデータに向き合い、分析について意見交換をし続けた時間は今思っても大変貴重なものでした。(黒嶋)

完成原稿の提出~校正・出版までの期間は、幸運にも科研費でUCSBに滞在していました。EMCAの国際的な専門家たちの研究と教育に触れながら本書を完成させられたことで、あらためて本書の意義を確認することができました。(小宮)

執筆において特に影響を受けていると思う研究者(あるいは著作)があれば教えてください。 執筆者全員に確認したわけではありませんが、皆一様に、西阪仰先生であるというのは、本書が「概念分析としての相互行為分析」を実演するものになっている(と期待する)ことから明らかなように思います。(黒嶋)
社会学的(EMCA的でも可)にみて、本書の「売り」はなんだと思いますか? 社会学、言語学、哲学の専門家がそれぞれの強みを活かして、様々な「実践の論理」に対して「概念分析としての相互行為分析」によって肉薄している点に尽きると思います。EMCA研究という括りでは共通していますが、各章がそれぞれに分析している「実践」が、副題の「相互行為のなかの知識・身体・こころ」にもあるように多様であるのと、分析で論証している「論理」の水準も、順番交替組織、行為の構成と連鎖組織のような一般相互行為秩序にかんするものから、参与者の志向する互いの知識状態、責任、権利とその管理の仕方、知覚の相互行為上の意味、身体を用いた教示や理解の提示と実演、感情表明の論理など大変多岐にわたっています。それぞれの章が独立して読める構成になっているので、いろんな切り口から「実践の論理を描く」ことが何を意味するのか、お示しできていればと思う次第です。(黒嶋)
医療・教育実践の研究者および実践家に特に読んで欲しい箇所はありますか?またその理由を教えてください。 医療実践の研究者および実践家の方には、第6章、第11章、第13章、第14章を、また教育実践の研究者および実践家の方には、第4章、第8章、第9章、第10章、第12章、第15章をご覧いただきたいと思います。各章で着目している実践とそこで用いられる論理こそ異なっていますが、相互行為分析によって記述されていることが、各実践を思い起こさせてくれるリマインダー、あるいは具体的な手続きについてのインストラクションとしてもお読みいただけるのではないかと思います。(黒嶋)
哲学者に特に読んでほしい箇所はありますか?またその理由を教えてください。 哲学者には、ぜひヴィトゲンシュタイン研究の専門家である山田圭一さんが執筆された第12章を読んで欲しいと思います。山田さんに「相互行為分析」にご参加いただけたことは、EMCA研究においてさまざまな哲学者への言及がなされることが、単なる「枕詞」ではなく、研究の実質を形作る部分であることを示すエピソードとして貴重なものとなっています。(小宮)
EMCAの初学者は、どこから読むのが分かりやすいと思いますか?  また、読むときに参考になる本や、読む際の留意点があれば、教えてください。 各部冒頭に「ナビゲーション」を入れており、「知識」、「身体」、「こころ」の部に所蔵されている章でどのような議論が展開されているのかについて解説をしていますので、こちらを先に読んでいただくと以下の章をどう読めばいいのかのガイドとしてご使用いただけます。また、各部末には「コラム」を言語学、哲学、社会学と実践の論理をテーマにお示ししていますので、EMCA研究に馴染がない場合でも、これらの分野の研究者がどのように「概念分析としての相互行為分析」を捉えているのかが分かりやすく解説されています。また、『相互行為分析という視点』(金子書房)もなぜこのアプローチが重要なのかを知る上で欠かせない参考書であるといえます。(黒嶋)

『ワードマップ エスノメソドロジー』(新曜社)、『会話分析入門』(勁草書房)などとあわせて読んでいただけると、EMCA研究への理解が深まると思います。会話分析により深い関心があれば『会話分析基本論集1、2』(世界思想社)、会話の記録以外のマテリアルの分析にも関心があれば『概念分析の社会学1、2』(ナカニシヤ出版)へと進むのもおすすめです。(小宮)

本書で扱われていること ── キーワード集

経験、権利、身体、知覚、知識、感情、概念分析