2022年度『「実践の論理を描く」研究会』開催報告

去る2023年4月16日(日)に、西阪仰先生の千葉大学ご退職を記念した論集『実践の論理を描くー相互行為のなかの知識、身体、こころー」(勁草書房)の出版記念研究会を、エスノメソドロジー・会話分析研究会の助成を受けて開催しました(後援:勁草書房)。

まず最初に、西阪仰先生にご退職記念のご講演をいただきました。続けて、論集の執筆者である、前田泰樹さん、早野薫さん(いずれもEMCA研究会会員)、山田圭一さん(ヴィトゲンシュタイン研究)に、それぞれご寄稿いただいたご論考での議論をご発表いただきました。

  • 西阪仰先生(千葉大学)退職記念講演「空間経験の組織: 場所の近接直示表現のいくつかの用法」
  • 前田泰樹(立教大学)「​​社会学と実践の論理――救命救急センター病棟における知覚の編成」
  • 早野薫(日本女子大学)「発話の権利・義務の主張に見られる実践と論理」
  • 山田圭一(千葉大学)「見ることのアスペクト転換 ―社会学と哲学との交差点―」

ご講演のあとには、「座談会」と題して、互いの論点に対して、登壇者、聴衆とともに、さらに議論を深める機会を設けました。

また、研究会に続けて交流会の場を持ち、西阪先生のご退職に際し、先生にゆかりの深い国内外の方々からお言葉を頂戴しました。

対面とオンラインによるハイブリッド開催で、延べ100名を超える方々にご参加いただきました。

研究会では、日本のエスノメソドロジー・会話分析研究を牽引して下さった、西阪先生が目下取り組まれている、空間知覚の経験に基づく相互行為実践について、退職記念講演としてお話くださいました。ご講演のなかで実演される形で示された、ストイックに人間理解に対する経験的記述を追求し続ける西阪先生の姿勢に、刺激を受ける形で3名の先生方からも、まさに西阪先生のご研究が多大な貢献を及ぼした、社会学、言語学、哲学のそれぞれの立場から論点をご提示いただきました。聴衆とともに、知覚(聴覚、視覚、触覚などをめぐる相対的な権利と帰属実践、アスペクト転換の能動性など)、知識や義務(認識的優位性と権利の分配の問題)、実践と理論の差異化、など個別の分析にかかわる論点から、民族誌的な前提知識に対する研究者の態度、研究意義の位置づけ、データの性質やその選択といった分析の背景に至るまで、「実践の論理を描く」研究方法論について深く議論する機会となりました。

コロナ禍で約3年間対面での議論をする機会が持てなかったこともあり、当日の議論は大変盛り上がり、西阪先生のご退職を記念するにふさわしい場の創設になっていればと願うばかりです。

なお、今回は、開催日程は2023年度でしたが、2022年度中に研究会助成の応募を行い、当該年度に助成の申請がなかったため、2022年度の助成として受理をしていただきました。このようなご高配を賜り、記して御礼申し上げます。

また、三部光太郎さん(EMCA研究会会員)には、協力者として本会の企画の段階から当日の運営や議論の記録に至るまでご助言・ご助力ををいただきました。深謝申し上げます。当日の研究会運営補助をしていただいた、小室允人さん、鈴木南音さん(いずれもEMCA研究会会員)にも重ねて御礼申し上げます。

文責:小宮友根(東北学院大学)、黒嶋智美(玉川大学)