去る2019年12月28日(土)、エスノメソドロジー・会話分析研究会様より助成いただき、首都大学東京秋葉原サテライトキャンパスにて『遺伝学の知識と病いの語り 遺伝性疾患をこえて生きる』(以下「本書」)合評会を開催しました。エスノメソドロジー研究者である前田泰樹会員と、日本の現象学的看護学の第一人者である西村ユミさんの共著書を、EMCAの立場、現象学の立場、医療社会学の立場から評してもらい、議論をすることで、EMCA研究の学術的な位置づけを再考することを目的としました。
第一評者の桑畑洋一郎さん(山口大学)からは、医療社会学者の立場から「本書」を評していただきました。桑畑さんによれば、現代の医療社会学においては医療者の素人的理解の軽視の反省から、逆に専門的知識の軽視があることを示唆します。そうした医療社会学的文脈の中で、専門的知識/素人的理解に対して重軽の重みづけをするのではなく、「遺伝学的知識が、ある時代の社会にどのようなインパクトを与え、それに対して、関係する人びとがいかにそれを理解しつつ対応してきたのか、という人びとの方法の歴史を、経験者の言葉を丁寧に掬い上げること」に、本書の意義を見出していました。また、論点として「フォーカス・グループインタビューの影響」「資源となる知識とならない知識」「非当事者との関わり」について、提示されました。(→桑畑さんの書評)
第二評者の小林道太郎さん(大阪医科大学)からは、現象学の立場から「本書」を評していただきました。小林さんからは、「ある経験における知識といっても、知識そのものが明示的な対象になっているとは限らないため、多様な経験と知識との関連を取り出すことが難しい場面があるのではないか」などの指摘がなされました。また、小林さんからは「本書」における普遍性の2つのバージョン、つまり「すべての人にかかわること」「AであるようなすべてのXは~であること」が示され、さらに「本書」(広くはエスノメソドロジー)にかかわる「方法の普遍性」について提示されました。小林さんからの「本書のような研究においては、方法やその普遍性を示すことだけが重要なのではなく、それがどのように具体化されるのを示すことが必要である。方法の実際の利用可能性は、例によってしか理解されないからである」という指摘は、「本書」だけでなく、エスノメソドロジー研究者にとっても重要な指摘であるように思います。この「普遍性」についての指摘は、フロアを巻き込んだ議論へと大きく発展しました。(→小林さんの書評)
第三評者の、三部光太郎会員(千葉大学大学院)からは、EMCA研究として「本書」を読んだときの読解が示され、現象としてのインタビューの扱い方に関する2つの論点「経験の構造と相互行為形式の関連について」、「語られた内容相互の関連づけについて」が提示されました。それぞれ敷衍すると、前者は「インタビュアーの発話との応接関係に着目することで、経験の構造をよりよく明らかにできるように思える箇所」があるのではないかという指摘、後者は、語り方の詳細な特定や、語りの関連付けが人びとの経験の関連付けであることを理解可能にするコンテクストの提示とともに記述されたほうが、より見通しがよくなるのではないかという指摘に、それぞれつながりました。(→三部会員の書評)
いずれの評者からも、たいへん豊かな議論へ発展する論点の提示があり、またこの論点を議論することで、「本書」に関することだけではなく、EMCA研究の学術的な位置づけを検討することができたように思います。助成いただきましたエスノメソドロジー・会話分析研究会様には感謝申し上げます。
文責:海老田大五朗(新潟青陵大学)