2025年度 秋の研究大会

2025年11月2日(日)に、以下の通り、EMCA研究会秋の研究大会を開催します。午前は自由報告、午後はテーマセッション「実践の記述は誰のためのものか:実践的・分野横断的な示唆に向けて」が行なわれます。ふるってご参加ください。

【日程】2025年11月2日(日)10:45〜17:20(受付開始 10:15)

【会場】日本女子大学目白キャンパス百年館 206教室および207教室

・日本女子大学へのアクセス:https://www.jwu.ac.jp/unv/access/access.html
・大学キャンパスマップ:https://www.jwu.ac.jp/unv/access/campusmap/
・研究例会当日は食堂等の営業がございませんので、昼食は持参していただくか、大学近辺のお店をご利用下さい。
・大学周辺の飲食店マップ:https://mcm-www.jwu.ac.jp/~minaiken/07map/2018528lunchmap.pdf

【参加費】
会員・非会員ともに無料です。参加登録も不要です。

【その他】
・抜き刷りコーナーを設置予定です。執筆された論文の抜き刷りや著作の見本など、ぜひご持参下さい。
・自由報告の要旨も含め、研究大会の情報はEMCA研のウェブページにも掲載されています(2025年度 秋の研究大会)。周囲の方へのお知らせの際などにご活用ください。

【懇親会】
会場最寄りの目白駅で懇親会を18時00分ごろより予定しています。参加される方は事前にこちらの参加申し込みフォームから10月18日(土)までにお申し込み下さい。なお、定員に達した場合はそれより早く受付を終了することがありますのでご了承ください。申し込みいただいた方には前日までに詳細をメールでご連絡いたします。
*会場確保のため、締切りを待たず、早めにお申し込みください。

【プログラム】

10:15 受付開始
10:45 開会の辞
10:45-12:25 【第一部】自由報告セッション1
[206教室]

10:45-11:15 ① 岡田光弘(成城大学)、水川喜文(北星学園大学)、中村和生(青森大学)
「日本におけるEM研究の形成と『クルター・ショック』」

11:20-11:50 ② 細馬宏通(早稲田大学)、八木裕子(東洋大学)

「訪問介護における利用者とヘルパーの注意共有過程:冷蔵庫内の確認場面を事例として」

11:55-12:25 ③ 関﨑暁武(東京大学)

「メディア上の相互行為における第三者への非難とユーモア」

【第一部】自由報告セッション2
[207教室]

10:45-11:15  ① 福田建(東京大学)、千田真緒(千葉大学)

「集団的活動に開かれた個の行為の組織化: 読書会でのスマホ使用に着目して」

11:20-11:50 ② リュウ  ゲイメイ(立教大学)
「スマホ注文における視覚的離脱と対象整合—『不可視のメニュー』をめぐる相互行為分析」

11:55-12:25 ③ 嶋原耕一(東京外国語大学)
「パズル遊びの相互行為的な達成」

12:25-12:55 総会[206教室]
12:55-14:00 昼休憩
14:00-17:20 【第二部】テーマセッション「実践の記述は誰のためのものか:実践的・分野横断的な示唆に向けて」[206教室]

14:00-14:10 企画趣旨説明  担当世話人:早野薫・黒嶋智美

14:10-14:50 團康晃:「『休み時間』を論じることの学際的な位置づけ方と意味」

14:50-15:30 森本郁代:「裁判員裁判の評議のリアリティを描く試みー法曹関係者・法学者の協働による会話分析研究」

15:30-15:40 休憩

15:40-16:20 秋谷直矩:「EMCA研究における先行研究パートはどのように作られるのか」

16:20-17:20 総合討論

【自由報告要旨】

岡田光弘氏・水川喜文氏・中村和生氏

「日本におけるEM研究の形成と『クルター・ショック』」

本邦において、EM研究は、現象学的社会学に連なる学派として紹介された。EM研究自体の本格的な紹介は、70年代の後半の山岸健、山口節夫、加藤晴恵子らの論考で始まった。ガーフィンケルの方針についても、早い段階で論点の整理が行われていた。社会学の中の位置付けという点では、ほぼ現在の理解(浜 2023)と同じ水準の議論が見られる。また、EM研究の方針やパーソンズに代表される伝統的な社会学との関係といった基本的な図式は山崎ら(2024)でも維持されている。その後も、ウィトゲンシュタインや分析哲学の成果を取り入れ、研究が進展し、現在に至る過程で、EMCA研究会が発足した。また、当初は論文集としての出版が多かったが、現在では、数多くの単著を含む、数々の書籍が出版されている。本報告では、この間に、まず、研究動向に大きな影響を与えた海外からの研究者の来日時期や、邦訳された論文や書籍について整理する。また、特に、比較的早い時期に来日し、後に邦訳書も出され、本邦でのEM研究の進展に大きな影響を与えた研究者として、近年亡くなったJ .クルターを取り上げ、氏の影響について「クルター・ショック」と命名して、その意義について述べることにする。

福田建氏・千田真緒氏

「集団的活動に開かれた個の行為の組織化: 読書会でのスマホ使用に着目して」

授業中の学生による集団討論では、会話内容の交渉を通じて、参与者による授業内課題達成への志向性が観察される(Stokoe 2010)。同様に、授業外の読書会においても、指定図書の読解が課題として設定・志向されている。その中で、本研究では、課題達成との繋がりが必ずしも自明ではないスマホの使用が、読書会においてどのように調整されているのかを明らかにすることを目指す。
本研究で扱う資料は、2024年6月から7月にかけて、大学生の自主的な運営の下行われた、計5回の読書会の記録である。参加者の一人でもある第一著者が、録音機やスマホを用いて撮影・録音を実施した。西阪他(2008)およびMondada(2018)を参考に書き起こしを作成し、マルチモーダル会話分析の手法で微視的な分析を行った。
その結果、読書会の中で観察された、参加者による手元でのスマホ使用は、個人の独立した行為というより、読書会に紐付いた形で組織化されていることが分かった。代表的な例が、人名が言及されたとき、複数の参加者がスマホによる情報探索を始める連鎖である。それらの事例では、他者修復の開始や閲覧した内容の読み上げを通じて、集団での理解の達成に寄与する活動として、スマホ使用が枠付けられていることが明らかになった。

細馬宏通氏・八木裕子氏

「訪問介護における利用者とヘルパーの注意共有過程:冷蔵庫内の確認場面を事例として」

認知症高齢者は、しばしば注意機能に問題があり、注意共有の達成に困難を抱えている。一方で、たとえ困難を伴っても、活動を楽しむことが、認知症高齢者の「自立」を促し、QOLを維持するために必要であるとされている。訪問介護の調理支援においても、単なる調理の代行ではなく、生活歴の喚起を促すことで利用者の自立を支援することが求められており、その作業の一つとして「認知症の高齢者の方と一緒に冷蔵庫のなかの整理等を行うこと」(厚生労働省老計10号)が挙げられている。では、実際の場面において、ヘルパーと利用者は、どのようにして冷蔵庫の中身を注意共有するのだろうか。本発表では、認知症高齢者とヘルパーの訪問介護場面を記録し、ヘルパーと利用者の発話、視線配分、動作の時間構造をELANでマルチモーダル分析することで、どのような手続きを経た場合に注意共有が達成されるかを記述するとともに、注意共有に必要とされる相手の視線に対するモニタリングがいつどのように起こっているかを明らかにする。また、注意共有は、必ずしもヘルパーの一方的な操作によって成立するとは限らず、利用者の視線変化や動作のタイミングが重要であることを指摘する。

リュウ  ゲイメイ氏

「スマホ注文における視覚的離脱と対象整合――『不可視のメニュー』をめぐる相互行為分析」

本研究は、多人数(少なくとも二人)の場面で参加者がスマートフォンを用いてQRコード注文を行っている協働活動に着目する。異なる画面を介しつつ、いかにして共有対象への一致した理解が達成されるのかを明らかにすることを目的とする。視覚を相互行為の基盤として強調する先行研究では、視覚の対象は常に同一のモノに向けられることを前提としてきた。しかし、スマートフォン使用は個人化された活動であり、多重参加管理や「視覚的離脱」(visual disengagement)を引き起こすことが指摘されている。一方で、スマホの展示(showings)はこのような個人の活動を集団的に可視化し、共有資源化する手段となることが示されている。これらの知見に対し、QRコード注文の整合は必ずしも同一の画面を共有することによって達成されるのではなく、各自のスマートフォン画面上の同一メニューを参照することによって確認されることもある。本研究は、中国における友人同士の会食場面を収録したビデオデータを分析対象とする。会話、視線、身体配置、画面操作といったマルチモーダルな資源を逐次的に検討する。結果として、注文場面は「視覚的離脱―整合」の循環として組織されることが見られた。共有型メニューにおいて操作結果が即時に反映される場合でも、「対象の同一性」はあらかじめ与えられているのではなく、言語的資源と視覚的資源の結合が不可欠であり、逐次的な操作を通じて「共有対象」として生成される。

関﨑暁武氏

「メディア上の相互行為における第三者への非難とユーモア」

他者の過失を責めたり他者を否定的に評価したりする行為である非難は、ときにその対象者を傷つけいじめや差別のような道徳的な問題行為にもなりうる一方で、笑いを引き起こすユーモラスなものとして理解されることもある。そして、こうした現象はテレビやラジオなどのトーク番組で顕著に見られる。そこでは、一般的にはデリケートで控えるべきだとされている非難がむしろ積極的におこなわれ、それによってしばしばユーモアや笑いが生み出されている。本報告は、非難のなかでもとりわけ、メディア上の会話におけるその場にいない第三者への非難に焦点を当て、それを通じてどのようにしてユーモアが産出されるのかを明らかにする。データは、とあるお笑い芸人がパーソナリティを務めるラジオ番組から収集した。そのなかで会話の参与者たちは、自らの発話が非難であると理解可能なように組み立てつつも、そのなかで成員カテゴリーや連鎖組織にまつわる規範からの逸脱を組み込むことでユーモアを産出していた。本報告では主にこのことを示す。

嶋原耕一氏

「パズル遊びの相互行為的な達成」

本研究では、大人と子どもがパズル遊びをしている動画データ(『子ども版日本語日常会話コーパス』モニター版(小磯他2025)のY001_011より)を分析対象とする。特にその中で、大人がどのように子どもを導いており、そうすることで「一緒にパズルで遊ぶこと」がいかに相互行為的に達成されているか、記述することを目的とする。データ内ではまず、動物パズルのピースを大人が子どもに1枚ずつ見せることで、「動物の名前当てクイズ」を行う。4枚目のピースが提示されたとき、子どもはそのピースに部分的にしか描かれていないものを答える。そうすることで、「そこにないものを補って見る」能力を実演する。その能力をモニターした大人は、活動を「パズル遊び」へと移行させる。パズル遊びに移行した後も、大人は子どもに方向転換をさせたり(子どもが一度手にしたピースを放棄させる)、子どもの行動を追認したりすることで、子どもの振る舞いをモニターしながら、活動内で行き詰まらないように子どもを導く。さらにその導きは、いずれも「どこにいるかな」などの質問に埋め込まれており、「一緒にパズルで遊ぶこと」の達成とともに行われていた。発表では動画を見せながら、より詳細な分析を示したい。

【テーマセッション企画趣旨】

本テーマセッションでは、各登壇者にご自身の研究の経験から、EMCA研究の成果をどのように実践上の示唆、周辺研究領域への学術的示唆に結びつけるのかについて話題提供をしていただきます。EMCA研究は、医療、法、教育、科学技術、ビジネス、メディア、芸術、スポーツなどさまざまな領域で、他の研究分野にまたがって行われることが特に多く、また、得られた知見をフィールドに還元することが求められることも珍しくありません。同じフィールドにかかわる他分野の人びととの対話をしようとするとき、参与者の志向にもとづいた相互行為の精緻な記述が社会的・学術的貢献にいかに結びつくのかを説得的に示すことは、しばしば容易ではありません。本セッションでは、そのような課題に取り組んでこられた方々にご登壇いただき、こうした困難をどのように乗り越え、生産的な議論を可能にするのかを、フロアとともに検討していきます。

【関連イベント】

翌11/3(月・祝)には同じく日本女子大学目白キャンパスにて、「2025年度エスノメソドロジー・会話分析研究会セミナー:マルチモーダルトランスクリプトの作り方」の開催を予定しております。セミナーの詳細については、別便でのご案内をご覧ください。

【共催】

日本女子大学文学部英文学科・日本女子大学文学研究科英文学専攻

【お問い合わせ先】

EMCA研究会担当世話人 早野薫・黒嶋智美

<sewanin-info@emca.jp>