2023年度 春の研究例会

2024年3月20日(祝・水)に、以下の通り、EMCA研究会春の研究例会を開催します。午前は自由報告、午後はテーマセッション「授業・教育実践のEMCA研究」が行なわれます。ふるってご参加ください。
【日程】2024年3月20日(祝・水)10:10〜16:50(受付開始 9:45)

【会場】玉川大学(小田急小田原線玉川学園前駅北口から徒歩5分)大学教育棟2014,611教室・612教室

・必ず正門で「EMCA研究会春の研究例会」に参加の旨を伝え、ストラップ付きのキャンパスカードをお受け取り下さい。こちらは滞在中ご着用いただき、お帰りの際に正門でご返却下さい。

・玉川大学へのアクセス:https://www.tamagawa.jp/access/
(新宿からは小田急小田原線快速急行で新百合ヶ丘駅にて各停乗り換え3駅目。新横浜からお越しの場合はJR横浜線で町田駅にて下車、小田急小田原線各停に乗り継いで1駅目です。)

・大学キャンパスマップ:https://www.tamagawa.jp/campus/map/
(大学教育棟2014校舎はマップ内の(4)番です。正門入ってすぐの7階建て建物です。正面入口より入館し、右手のエレベータで6階までお越し下さい。詳しい会場までの行き方はこちらを参照。)

・研究例会当日は食堂等の営業がございませんので、昼食は持参していただくか、駅前のお店をご利用下さい。ランチマップは当日会場にてご案内いたします。コンビニは近辺に2箇所ございます。

【参加費】
会員・非会員ともに無料です。参加登録も不要です。

【その他】
・抜き刷りコーナーを設置予定です。執筆された論文の抜き刷りや著作の見本など、ぜひご持参下さい。

・自由報告の要旨も含め、研究大会の情報はEMCA研のウェブページにも掲載されています(http://emca.jp/archives/3756)。周囲の方へのお知らせの際などにご活用ください。

【懇親会】
会場近く(玉川学園前駅)で懇親会を17時30分ごろより予定しています。参加される方は事前にこちらの参加申し込みフォームから3月18日(月)までにお申し込み下さい。当日参加も受け付けますが、予約人数把握のため、なるべく事前申し込みにご協力をお願いできれば助かります。詳細は当日お知らせいたします。

【プログラム】

9:45受付開始 
10:10開会の辞 
10:15-11:55【第一部】自由報告セッション1(612教室)
 10:15-10:45 ① 岩田夏穂(武蔵野大学)
「プロセスの語りに見られる『仕切り』としての敬体の使用」 [→要旨]
10:50-11:20 ② 鯨井健斗(東京学芸大学)
「教師はいかに『答えはないこと』をデザインするか」 [→要旨]
11:25-11:55 ③ 緒方亜文(東京大学/日本学術振興会)
「教授的相互行為の過程で構築されるスクリプト:ASD児によるミシンの操作場面の分析」[→要旨]
【第一部】自由報告セッション2(611教室) 
10:15-10:45 ① 髙橋亜里沙(千葉大学)
「日本の職場における上司のからかいに対して初めて気づいたと表すこと」 [→要旨]
10:50-11:20 ② 西阪亮(関西学院大学)
「自慢の相互行為的機能に関する一考察:しつこさに対処する自慢」[→要旨]
11:55-13:30昼休憩 
13:30-16:50【第二部】テーマセッション
「授業・教育実践のEMCA研究」
会場:612教室
13:30-13:40 企画趣旨説明・登壇者紹介  
黒嶋智美(玉川大学)
13:40-14:20 森一平(帝京大学)
「『子どもたちの主体的な発言を引きだす』技法の展開:対象選択の問題に焦点化して」
14:20-15:00 粕谷圭佑(奈良教育大学)
「長期的データを用いた教育実践記述の可能性:幼稚園入園初期の調査を事例に」
15:00-15:10 休憩
15:10-15:50 石野未架(同志社大学)
「授業の緊張とゆるみの生成―教師の板書を手掛かりに」
15:50-16:20 五十嵐素子(北海学園大学)
指定討論
16:20-16:50 総合討論

自由報告要旨

岩田夏穂氏「プロセスの語りに見られる『仕切り』としての敬体の使用」

【目的】語りの中で敬体と常体が使われる現象については,「ゼロ型引用表現」(大久保 2013)等の研究がある.本発表では,引用というよりも何らかのプロセスを語る際に敬体が見られる現象に注目し,それがやり取りを進めるうえでどのような行為であるのかを探る.たとえば,次の事例の網掛のような発話である.このやり取りの前に,マミはリカとサヤコに二人は恋愛で積極的なほうかどうかを尋ねている.

リカ :     [ああ れ↑ん愛だったらいかないよ:.(.)(ちがうんだ)だったら.
マミ :消極的:?(.)ね もし: .(.) もしね:? 聞いて:?(.) 好きな人がいたとします::.
リカ :んふ::
   (0.2)
マミ :(から)の::(2.0)なんかライバル:, ラhイバ[ルてか[積極的な
サヤコ:                     [おお  [huhuhuhu。
マミ :積極的な女の子がすごくアプローチしてます::. (.)どうしますか: haha

【方法】会話分析の手法で,同様の現象が起きていると思われる複数の断片を分析する.

【結論】プロセスの説明における敬体は,先行のやり取りで語られた内容から次に語られる内容(たとえば,抽象的な話から具体的事例への移行)の間に区切りを生成する,「仕切り」ともいえる行為であることが考えられる.

引用文献:大久保 加奈子(2013).「共有される他者のことば : 選挙演説に用いられるゼロ型引用表現の分析」『社会言語科学』16 巻 1号, 127-138.

鯨井健斗氏「教師はいかに『答えはないこと』をデザインするか」

本報告では、小学校社会科の授業場面に着目し、「答えはない」という前提を教師がどのようにデザインしているかを明らかにする。具体的には、教師が授業を進行させていくなかで、「社会を教える」技法として「答えはないこと」を前提とした発問を起点とする行為連鎖に焦点を当てる。そうした教師の実践をみとることによって、「社会を教える」ということがいかに相互行為的に達成されているかを考察する。

一斉授業に見られる典型的なIRE連鎖においては、教師の発問に対する児童の応答に対し、教師が評価することが期待される。一方、本報告における事例では「答えはないこと」を前提とした発問をした際、教師が第三の位置で児童の応答に対して評価以外の振る舞いをすることが繰り返し観察された。すなわち、教師が児童の応答に対し、ただ「繰り返し」をすることや、「繰り返し」をしたうえで教師が「なるほど」と言うことで新情報として受け止める、といったやり方が用いられていた。このような教師による第三の位置の技法によって評価をしないということが、「答えはないこと」の前提をつくりあげているといえる。以上の実践を踏まえ、「社会を教える」ということへの示唆を得る。

緒方亜文氏 「教授的相互行為の過程で構築されるスクリプト:ASD児によるミシンの操作場面の分析」

ミシンは、一定区間に渡り、布を縫う機械である。だから、一度開始された操作は、布のしかるべき位置で停止されねばならない。このような系列的な行為は、心理学においてスクリプトという概念に基づいて研究されてきた。心理学者のDerek Edwardsは、このスクリプトを、皮膚の下の認知としてではなく、相互行為の中での適切性という観点から捉え直している。本発表では、知的障害を伴う自閉スペクトラム症(ASD)の診断を持つ1名の男児アユムが、ミシンを操作し、それを教師が支援する場面を題材として、ミシンを操作するスクリプトが、相互行為の中でいかに立ち現れるのかを検討する。それによりASD児のスクリプト獲得の困難さを、子どもの内的な能力にも、事前的な支援のデザインの失敗にも還元せず、その場における相互行為上のすれ違いとして捉える。ミシンの本体の作動から停止までを1試行と定義した結果、6日間で82試行が観察された。初めのうちアユムは、教師による開始と停止の指示(「スタート」「ストップ」等)に基づいて、その都度ミシンを操作していたが、次第に開始の促し(「はいどうぞ」等)のみで操作を開始し、止めるようになった。後者のパターンが導入される過程を分析したところ、教師の指示をめぐるトラブルが生じ、それが解消していたことが分かった。

髙橋亜里沙氏 「日本の職場における上司のからかいに対して初めて気づいたと表すこと」

からかいは、攻撃的な要素のある真面目な要素と遊戯性からなる非真面目な要素がある。本研究でとりあげるからかいの真面目な要素である行為は、問題の指摘(非難)である。日本の職場では、上司による問題を指摘するからかいに対して、部下がまず、確認を求めたり、独り言として発言したり、とぼけるといった行為が見られる。本研究は、からかいに対する受け手のこのような行為が何を成し遂げているのか明らかにすることを目的とする。データは、日本企業A社の面談や会議、ランチ等における会話を録音、録画したもので、会話分析の手法を用いて分析を行った。本研究では断片を詳しく記述することで、上司による問題を指摘するからかいに対して、部下がまず、確認を求めたり、独り言として発言したり、とぼけるといった行為は、上司に指摘されて初めて気づいたということを表していることがわかった。また、初めて気づいたと表す背景には、からかいの受け手である部下自身に何かしら思い当たることがあるといった背景があると考えられる。

西阪亮氏 「自慢の相互行為的機能に関する一考察:しつこさに対処する自慢」

本発表の目的は、自慢の相互行為的な機能を明らかにすることである。従来、自慢は社会通念として避けられるべきものとされてきた。しかし、人々はあえて自慢に聞こえうることを行うことがある。その時、人々は自慢を行うことで一体何をしようとしているのだろうか。そこで、本発表ではポジティブな評価の後に行われた自慢に聞こえうる発話に焦点を当て、会話分析の手法を用いて分析を行った。分析に用いた事例は二つあり、一つはSakura corpusに収録された男女四人の大学生の会話であり、もう一つは、Call homeに収録された女子大学生二人の会話である。二つの事例では、それぞれ「恋人を作るか否かに関する話題」、「英語力の有無に関する話題」で話されている。そして、自慢者に対し、それらの話題に関するしつこい問答が行われており、自慢は、そのしつこい問答の中で行われた自慢者に対するポジティブな評価の後に産出される。分析の結果、そのポジティブな評価の後に行われる自慢は、しつこいやりとりを収束に向かわせること、自慢者に向けられたからかいから脱出することを可能にしていたことがわかった。

【テーマセッション企画趣旨】
発問を細切れに行なう,児童の「ガヤ」を拾い上げる,園児のフライングに対処する,ホワイトボードを活用するなど,「主体的で対話的で深い学び」という学習指導要領の方針に基づき,教育の現場である授業という枠組みのなかで,教育者たちは実に様々な教育的工夫を凝らしつつ,相互行為上の実践を用いて日々の教育活動を行っています.学校教育の教育実践にEMCAのアプローチで肉迫する国内初の論文集『学びをみとる』が刊行されたことを機に,今回のテーマセッションでは,授業・教育実践のEMCA研究を取り上げたいと思います.私たちの多くは研究者であると同時に,その職業生活の多くを教育活動に割く教育者でもあります.かつての教師主導型で一斉授業を行っていた頃とは異なり,昨今の学校教育の現場では,授業そのもののやり方が大きく様変わりしてきています.このような状況において,教育社会学,応用言語学のEMCA研究が明らかにする授業・教育実践のひとつひとつは,相互行為研究としても多くの期待に応えるものであると同時に,私たち自身の日々の教育実践を思い起こさせるなんらかのリマインダー,あるいはインストラクションとしても読むことが出来るものであるといえるでしょう.本セッションでは,登壇者に授業・教育実践についてのご研究をそれぞれご報告いただき,指定討論の後,全体討論を行なうなかで,教育者たちは状況に固有のいかなる方法を用いて授業・教育実践を成り立たせているのか,また,教育を受ける者たちはいかに相互行為能力を発揮し,学習を達成しているのかといった問いについて考えてみたいと思います.

【お問い合わせ先】
EMCA研究会担当世話人 黒嶋智美・早野薫
<sewanin-info@emca.jp>