2023年度 秋の研究大会→短信

2023年11月25日(土)に、以下の通り、EMCA研究会秋の研究大会を開催します。
午前は自由報告です。午後はテーマセッション「それは誰がやることなのか:相互行為における義務論的(deontic)な権利と責任の諸相」です。
ふるってご参加ください。

日時:2023年11月25日(土) 9:55~17:20
場所:立命館大学朱雀キャンパス中川会館203教室(JR二条駅より徒歩すぐ)
https://www.ritsumei.ac.jp/accessmap/suzaku/

(なお、この時期、京都市内の宿泊施設は予約が大変取りづらいため、参加に際して宿泊をご予定の方はお早めに手配をされることをお勧めいたします。
京都市内の宿泊施設の予約が難しい場合は、他府県にも比較的アクセスが良く宿泊施設の多い地域もございますので(大津市・高槻市・大阪市など)参考にしていただければ幸いです。)

【参加登録】
参加をご予定の方は、以下のフォームからご登録をお願いいたします。
https://forms.gle/Dm5itMeVwoNm3mDv7
(登録なしでも参加可能ですが、運営の準備の都合上、できるだけご協力をお願いいたします)

参加費:無料(会員・非会員とも)

プログラム

9:30受付開始
9:55開会の辞
10:00-12:15【第一部】自由報告
10:00-10:30 稲葉渉太(京都大学/日本学術振興会) 「投資者自身の責任を問う秩序の再編:『証券投資顧問業のあり方について』の分析から」 [→要旨
10:35-11:05 海老田大五朗(新潟青陵大学) 「’Instructions and Instructed Actions’とハイデガー現象学」 [→要旨
11:10-11:40 執行治平(東京大学)「居場所施設スタッフと利用者のやりとりにおける話題の管理:利用者からの新たな話題の導入に着目して」 [→要旨
11:15-12:15 南保輔(成城大学)・西澤弘行(武蔵野美術大学)・岡田光弘(成城大学)・坂井田瑠衣(公立はこだて未来大学) 「知覚モダリティに非対称性のある相互行為において歩行訓練士は受け手デザインをどのように達成しているか」 [→要旨
12:15-12:45総会
12:45-14:00昼休み
14:00-17:20【第二部】テーマセッション 「それは誰がやることなのか:相互行為における義務論的(deontic)な権利と責任の諸相」
14:00-14:15 趣旨説明とレビュー(担当世話人:横森大輔)
14:20-15:00  串田秀也(大阪教育大学)「患者が決定を委ねられるとき:診療場面における決定責任の交渉」
15:05-15:45 黒嶋智美(玉川大学)「サービス提供者の依頼実践にみられる権利と責任の管理:発話の分節化現象に着目して」
15:45-16:00 休憩
16:00-16:40 前田泰樹(立教大学)「『それは誰がやることなのか』とはどういう問いなのか:急性期病院のワークの研究から」
16:40-17:20 全体討論

自由報告要旨

稲葉渉太「投資者自身の責任を問う秩序の再編:『証券投資顧問業のあり方について』の分析から」

 1980年代の日本では証券投資顧問業という新しい職業の登場により、一般市民の活動としての投資にまつわる秩序が再編され、またその前提にある投資者の責任を問う「自己責任原則」も再編された。本発表ではその再編の活動を記述することで、ある行為を自己責任と記述する方法について見通しを与えることを試みる。本発表では投資者に責任を帰属する方法に焦点を当てた分析を行うため、『証券投資顧問業のあり方について』という報告書を参照する。その際、解釈のドキュメンタリーメソッド(DMI) を手がかりに、書き手によって手続き的に報告書が組み立てられていること(報告書を読む「活動への介入装置」)に即して、その報告書が読み解けることを分析―記述する(Garfinkel 1967, Watson 2009, 石井 2015)。
 報告書では投資顧問業に関する法政整備を行うことを提言しているが、その提言が妥当となるよう報告書は組み立てられている。また、そのように報告書を組み立てる活動は、投資者自身の責任を問う投資に関する秩序を再編する活動も含む。そしてこの再編を詳述することは投資に限らず特定の活動を自己責任と記述する方法に見通しを与えることにつながる。

海老田大五朗「’Instructions and Instructed Actions’とハイデガー現象学」

 近年のガーフィンケルアーカイブ文書の公開などにより、「ガーフィンケルは自分の学生たちにメルロ=ポンティやハイデガーを勧めていた」ということが明らかになってきている。ガーフィンケルは’Instructions and Instructed Actions’のなかで、メルロ=ポンティの逆さ眼鏡の実験を取り上げ、身体と記述の関係を考察している。他方で、ハイデガーについては、ガーフィンケル自身がハイデガーの名前を冠した造語を提示しているものの、エスノメソドロジーのなかでこうした造語やひいてはハイデガーのアイディアがどのように位置づけられるか明確になっているわけではない。そこで本報告では、ハイデガーの名前を冠した造語が提示されている’Instructions and Instructed Actions’とハイデガーの『存在と時間』を突き合わせることで、エスノメソドロジーのなかでハイデガーのアイディアがどのように位置づけられるかを検討する。
 本報告で特に注目するのは、ハイデガーの道具存在性の議論と、ハイデガーによる現象学そのもの定式化である。前者の議論は、まさに’Instructions and Instructed Actions’の’Instructions’と直接的なかかわりがあることを示す。後者の定式化は、ガーフィンケルが違背実験から導こうとしたこととの類似性を示唆する。

執行治平「居場所施設スタッフと利用者のやりとりにおける話題の管理:利用者からの新たな話題の導入に着目して」

 1990年代以降設置が進められた子ども・若者向け居場所施設は、利用者が思い思いのことをして過ごすことのできる空間である。他方この場は、利用者が保護者や教師以外の様々なおとなと出会えるという意義も強調されており、施設スタッフは積極的に利用者との関係構築に努める。
 この関係性を生み出す端緒となるのが、スタッフから利用者への話しかけである。これをきっかけに、スタッフは利用者の日々の出来事に関する語りに耳を傾けたり、ときに共感したりすることで、関係性を徐々に深めていく。したがって、利用者との他愛ないおしゃべりそれ自体が、スタッフにとって重要な職務となっている。
 スタッフは、(とりわけ初対面の場合)必ずしも共通の話題や話しかける目的のない中で、利用者に声をかけてやりとりを進めることが求められる。そのため、なにについてのやりとりを展開するのか/しないのかは、実践上重要な関心事となる。
 本報告では、こうした状況下でスタッフと利用者によって行われる話題の管理に焦点をあてる。会話参与者による話題の管理については、会話分析の中で初期から研究が重ねられている。これらの先行研究も参照しつつ、スタッフと利用者の二者間会話データに基づき、両者の間で話題の管理がどのように行われているのかを明らかにしたい。とりわけ、利用者が自発的に新たな話題を導入する場面に着目し、そこで用いられる手続きや、それを可能にする相互行為上の機会について検討する。

南保輔・西澤弘行・岡田光弘・坂井田瑠衣「知覚モダリティに非対称性のある相互行為において歩行訓練士は受け手デザインをどのように達成しているか」

 視覚障害者と歩行訓練士は,両者のあいだの知覚モダリティの非対称性に志向している。歩行訓練士は言語による情報提供のやり方を受け手デザインに志向しながら定式化をおこなっている。それは,視覚障害者の感覚の理解可能性(intelligibility)に応じている。「見える」という定式化をおこなうこともあるが,この場合の情報提供は断定的で視覚障害者の確証を求めない。視覚障害者がすでに気づいたと見える場合は「これ」で指示してその名付けなどをおこなう。あるいは,コース取りなどのナヴィゲーション活動に組み込むことも行われる。興味深いのは反響定位の活用である。日常的に反響定位を活用するということをおこなっていない歩行訓練士は反響が「聞こえた」としても視覚障害者と「同じように聞く」ことはできない。「かんじ」ということばの使用はこれの反映であると考えることができる。
 これに対して視覚障害者の応答は,歩行訓練士の示した環境特性を自身の感覚で知覚できるかいなかによって変わる。知覚できる場合は「はい」や「はいはい」などと応答する。他方,知覚できないものは「そうですか」というように,ただ発話を受けとめたことを標識するトークンを発することで応答する。
 感覚モードの非対称性と相互主観性との関連について考えてみたい。ナヴィゲーション活動の研究とインストラクション研究への含意も論じたい。