2022年度 春の研究例会 →短信

EMCA研究会2022年度春の研究例会を、2023年3月11日(土)に、立教大学池袋キャンパスで開催いたします。午前の自由報告に続いて、午後は、保健医療社会学会2022年度第2回関東定例研究会との共催として、「保健医療のEMCA研究」と題した書評セッションを開催いたします。お誘い合わせの上、奮ってご参加いただければ幸いです。(EMCA研究会大会担当世話人:前田泰樹・吉川侑輝)

日時:2023年3月11日(土) 10:30~17:00
場所:立教大学池袋キャンパス 教室:15号館M301、 M302
(対面での開催を前提とします。補助的な手段として、Zoomによる配信を予定しています。ただし、トラブルがあった場合、十分な対応ができない場合があります。当日の個別のお問い合わせには返答できかねますのでご了承下さい。)

書評セッション対象書:
・樫田美雄(神戸市看護大学)『ビデオ・エスノグラフィーの可能性―医療・福祉・教育に関する新しい研究方法の提案』(晃洋書房、2021年)
・河村裕樹(一橋大学)『心の臨床実践―精神医療の社会学』(ナカニシヤ出版、2022年)

参加費:無料(会員・非会員とも)
事前参加申込:下記より3月9日(木)までにお申し込みください(フォームにてお申し込みいただかなくても、当日対面にて参加可能ですが、できる限り事前登録をしていただきますようお願い申し上げます)。

2022年度EMCA研春の例会参加登録フォーム

プログラム

10:30受付開始
11:00-12:10【第一部】自由報告 教室:M301
11:00-11:05  開会の辞
11:05-11:35 照沼花菜氏(常磐大学)
「『見るハラ』に関するネット上の記述に於ける、女性に対する二次被害的な差別の方法と性別による身体の扱われ方の違い」[→要旨
11:40-12:10  藤杏子氏(立教大学)
「『なにもしない』こと―実際の依頼場面においての検討」[→要旨
12:10-14:00昼食
14:00-17:00【第二部】テーマセッション「 保健医療のEMCA研究 」 教室:M301
14:00-14:10 企画趣旨説明・登壇者紹介  前田泰樹(立教大学)
14:10-14:30 書評コメント 河村裕樹(一橋大学)
14:30-15:05 自著説明・リプライ 樫田美雄(神戸市看護大学)
15:05-15:10 休憩
15:10-15:30 書評コメント 樫田美雄 (神戸市看護大学)
15:30-16:05 自著説明・リプライ 河村裕樹(一橋大学)
16:05-16:15 休憩
16:15-17:05 総合討論

自由報告要旨

照沼花菜 氏「『見るハラ』に関するネット上の記述に於ける、女性に対する二次被害的な差別の方法と性別による身体の扱われ方の違い」

 2022年の夏、フジテレビ系「めざまし8」等のテレビ番組をきっかけに「見るハラ」という、「露出の高い格好をした女性を性的な視線でじろじろ見るハラスメント行為」に関する議論が SNS 等で活発に起こった。本研究は、見るハラに関するネット記事を分析対象とし、女性に対する差別のやり方を記述することを目的とする。
 見るハラに関するネット記事2件とネット記事に対して読者がつけたコメント1件をデータとし、エスノメソドロジーの分析手法の1つである自己省察と成員性カテゴリー化分析を用いて、ネット記事の見出し・本文・記事に対するコメントへの分析を行った。結果として、女性に対する二次被害的な差別の方法を5つ明らかにすることができた。
  1. カテゴリーの対比(男性対女性・被害者対加害者など)
  2. 見るハラの責任を男性から女性に転嫁
  3. 「ルッキズム」をはじめとした異なる概念の追加・混入による論点のすり替え
  4. 被害者の記述する見るハラの実態への無関心
  5. 社会的な問題を個人的な問題へ矮小化
 また、見るハラに関する記述と性別カテゴリーとの連関を2つ発見することができた。
  1. 性別カテゴリーと「性的」というアイデンティティの結びつき
  2. 女性という性別カテゴリーに結びつくカテゴリー述部

藤杏子 氏「『なにもしない』こと―実際の依頼場面においての検討」

 今回取り上げる「レンタルなんもしない人」は2018年にTwitterから登場した「なんもしない自分」を貸し出すサービスを行っている個人である。一般的にネガティブなイメージで引き取られる「何もしない」というサービスであるが、これまでに3000件以上の依頼が行われる。そして依頼者からは依頼後も「助かった」と感想を報告しているのが見受けられる。
 これらの助けとなっている場面について、「なにもしない」ということを依頼者-レンタルなんもしない人が合意しながらも様々なやりとりが行われている点を取り上げる。具体的には、依頼者に応答を求められた際にも「なにもしない」ことに沿いながら依頼者との会話を維持する様子である。特に特徴的なのは、依頼者が同意や意見を求める際、それに対する応答として明確な意思を示さず、かつ同意とも分類し難い長音を伴う「あ」や、発話を行わず目線やジェスチャーを用いて維持される点である。以上の依頼者-被依頼者のやりとりを対象とし、本報告では2018年からTwitterから登場した「レンタルなんもしない人」と依頼者の実際の依頼場面のビデオデータをとりあげ、依頼者と被依頼者の相互行為に着目して検討していく。