2022年度 秋の研究大会 →短信

概要

EMCA研究会2022年度秋の研究大会を、2022年10月16日(日)に、立教大学池袋キャンパスで開催いたします。午前の自由報告に続いて、午後は、「作品のEMCA研究の可能性」と題したテーマセッションを開催いたします。お誘い合わせの上、奮ってご参加いただければ幸いです。
(大会担当世話人:前田泰樹・吉川侑輝)

日時:2022年10月16日(日)10:30-17:05
場所立教大学池袋キャンパス 教室:15号館M301、 M302
(対面での開催を前提とします。補助的な手段として、Zoomによる配信を予定していますが、トラブルがあった場合、十分な対応ができない場合があります。当日の個別のお問い合わせには返答できかねますのでご了承下さい。)

大会参加費:無料(会員・非会員とも)

事前参加申込:下記より10月12日(水)までにお申し込みください(フォームにてお申し込みいただかなくても、当日対面にて参加可能ですが、できる限り事前登録をしていただきますようお願い申し上げます)。
https://forms.gle/ReuYAk4qsk2mYauW7

抜き刷りコーナーを設置予定です(M302教室前方を予定しております)。なお、論文等の配付物の保管、管理は各自の責任にてお願いいたします。

プログラム

10:10受付開始
10:30-12:1510:30-10:35 開会の辞
【第一部】自由報告 教室:M301
10:35-11:05 藤杏子 氏(立教大学大学院)
「 『レンタルなんもしない人』への依頼文に用いられるデザイン 」[→要旨
11:10-11:40  成田まお 氏(神戸大学大学院)
「 歴史資料読解場面における『発見』のワークの組織化 」[→要旨
11:45-12:15 福島三穂子 氏(宮崎大学)
「 相互行為からみる伝統食の継承 」
→要旨
12:15-14:00 昼食
14:00-14:30総会
14:30-17:05 【第二部】テーマセッション「 作品のEMCA研究の可能性 」 教室:M301
14:30-14:35 趣旨説明  吉川侑輝(立教大学)
14:35-15:00 岡沢亮 氏(愛知淑徳大学)
「 道徳的問題の創造を通じたユーモアの産出:フィクション映像作品の分析 」
15:00-15:25 是永論 氏(立教大学)
「 個人的な経験をニュースに仕立てる:対話的ネットワークを通じた『公共性の導出』 」
15:25-15:50 細馬宏通 氏(早稲田大学)
「 『読む』時間の発生:絵巻物読者の予測の更新 」
— 休憩 —
16:05-16:20 コメント① 團康晃 氏(大阪経済大学)
16:20-16:35 コメント② 池谷のぞみ 氏(慶應義塾大学)
16:35-17:05 総合討論

自由報告要旨

藤杏子 氏「『レンタルなんもしない人』への依頼文に用いられるデザイン」

 2010年以降、レンタル彼女、レンタル彼氏、レンタルフレンズなど本来レンタル不可能な他者との「関係性」を資源として貸し出し、販売するという現象が起こっている。そしてその中で本報告では特に2018年からTwitterから登場した「レンタルなんもしない人」について検討する。彼はインターネットを通じて「何もしない」自身を貸し出し、自らの「レンタルなんもしない人」という名前そのものや取材されたメディアでも常々「自分は何もしない」ということを公言している。そのように専門知を持たないのにも関わらず、依頼者は現在も多く存在し、レンタルされた際の依頼の内容をまとめた書籍やドラマ化もされている。そのようなレンタルなんもしない人への依頼をする際は、数ある依頼の中でも引き受けてもらえるように依頼の正当性をレンタルさんへ、そして第三者へとデザインする必要がある。本報告ではレンタルなんもしない人への依頼文(彼自身のTwitterアカウントから公開されているもの)を対象とし、依頼の枠組みを見るための補助線としてSacksの成員カテゴリー化装置を用いながらそのデザイン、また特有の関係性について検討していく。

成田まお 氏「歴史資料読解場面における『発見』のワークの組織化」

 本報告では、「古文書(くずし字)を読む」という実践が行われている場面において、歴史学的に注目に値する点=「発見」がどのような方法によって見出され、その場における「発見」として取り扱われていくのかということを明らかにする。
 対象とするのは、古文書の整理・保全活用方法を学ぶために、古文書一点ずつに対して記録をとるという日本史学専修の演習場面である。報告者は2018年度から継続的に本演習に参加してきたが、2021年度から2022年度にかけての2回の演習において、フィールド調査を行うとともに当該場面を録画・録音し、そのデータを分析した。
 分析の結果明らかになったのは、誰によって、何が「発見」とされるのかという問題はその都度の活動の展開と密接にかかわりあっていること、そしてその結果として「知的探究」の活動と「演習授業」の活動の同時的な達成が行われているということである。そうした場の成立過程を詳細に記述することで、1980年代にガーフィンケルやリンチによって方向づけられた、科学におけるワーク研究のさらなる展開可能性を示唆しうる。「科学」という区分の妥当性をも含め、科学社会学、ひいては科学論の問い直しにもつながるだろう。

福島三穂子 氏「相互行為からみる伝統食の継承」

 和食がユネスコ無形遺産に登録され、各地域でも伝統食の継承が重要視されている。本発表では、伝統食を扱う地元住民の相互行為を見ることで、伝統食の継承について考察したい。地域住民にとっての伝統的な郷土料理とはどの様に語られ、扱われ、どう地域食ではない物との差別化がされているのかという問題に焦点を当てる。宮崎県西米良村小川地区の住民が、食事処で提供しているメニューに関する話し合いをしている場面をデータとする。そこでは、食材調達が常に問題となり、どのお店で何をいつどれだけ買うかではなく、住民の誰がどんな材料をいつ、どれだけ持っているか、誰にその知識があるかが問われ確認される。料理作りの実践において、何が彼らの当たり前の方法なのかを、その確認作業を通して明らかにしたい。伝統料理としての味付けや作り方にこだわる料理作りというよりは、自分の台所に何があるかを把握し、家族のために食事を作るかのようなプロセスが踏まれている。食の継承とは、レシピを作り、それをもとに伝統的な郷土料理を再現することではなく、料理の一環として、地域を台所と捉えるような仕組みを含んでいることが、住民の当たり前を紐解く中で見えてきた。