2024年度 春の研究例会

2025年3月9日(日)に、以下の通り、EMCA研究会2024年度春の研究例会を開催します。
午前は自由報告、午後はテーマセッション「行為連鎖組織の探究を継ぐ:エマニュエル・A・シェグロフの功績とEMCA研究のこれから」が行なわれます。
ふるってご参加ください。

【日程】2025年3月9日(日)10:45〜17:30(受付開始 10:15)

【会場】同志社大学今出川キャンパス良心館1階RY103およびRY104
(京都市営地下鉄烏丸線「今出川」駅1番出口から徒歩1分)
https://www.doshisha.ac.jp/information/access/index.html

【参加費】会員・非会員ともに無料です。

【懇親会】閉会後、同志社大学今出川キャンパス近辺で懇親会を予定しています(17:45から2時間程度を予定)。参加希望者は、3月3日(月)までに懇親会申し込みフォーム<https://forms.gle/MqWefY4YUAatCNVr8>からお申し込み下さい。なお、定員に達した場合はそれより早く受付を終了することがありますのでご了承ください。申し込みいただいた方には前日までに詳細をメールでご連絡いたします。

【その他】
・抜き刷りコーナーを設置予定です。執筆された論文の抜き刷りや著作の見本など、ぜひご持参下さい。
研究例会の情報はEMCA研のウェブページにも掲載されています(https://emca.jp/archives/4026)。周囲の方へのお知らせの際などにご活用ください。なお、自由報告の要旨も近日中に掲載予定です。

■テーマセッション企画趣旨
故エマニュエル・A・シェグロフ氏の行為連鎖に関する研究は、EMCA研究に携わる者であればだれもが知る氏の功績である。特に2007年に出版された『Sequence Organization in Interaction: A Primer in Conversation Analysis, Volume 1』は、シェグロフ氏による初めての教本的著作としてEMCA研究者の指南書となってきた。しかし、この著書で取り上げられた行為連鎖組織に関する一般的秩序現象は多くの課題を示唆するものであり、それらについてのさらなる論考が今後期待されていた。氏による新たな論考に触れることが叶わなくなった今、私たちは、氏がその礎を築いた行為連鎖組織の研究をどのようにとらえ、進展させていくことができるだろうか。本テーマセッションでは、シェグロフ氏と研究上深い関係性を持つ3名のEMCA研究者をお招きし、それぞれの視点から行為連鎖組織の諸相についてお話いただく。

【関連イベント】
翌3/10(月)には同じく同志社大学今出川キャンパスにて、「2024年度エスノメソドロジー・会話分析研究会セミナー:EMCA研究の広がり」の開催を予定しております。セミナーの詳細については、別便でのご案内をご覧ください。

【お問い合わせ先】
EMCA研究会担当世話人 横森大輔・石野未架
<sewanin-info@emca.jp>

【プログラム】

10:15 受付開始
10:45 開会
  <第一部>自由報告
10:45-11:15

[RY103教室]

坂尾結衣(京都大学)

言語の正確性に対処する他者訂正:英会話練習における『受け取りトークン+トラブル源の置き換え』に着目して」

[RY104教室]

平安山八広(明治学院⼤学)

「『参与者がジェンダー・セクシュアリティを問題にするやり方』の会話分析」

11:20-11:50

[RY103教室]

川田優花(日本女子大学)

2つの志向を示す『まあでも』−『でもまあ』、『まあ』、『でも』との比較を通して−」

[RY104教室]

千田真緒(千葉大学)・市野順子(東京都市大学)

「沈黙におけるスマホを用いた相互行為の調整」

11:55-12:25  

[RY104教室]

劉礫岩(京都文教大学)

質問に対する反応における「それが(ね/さ)」に関する分析」

12:25-14:00 昼休み
 

[RY104教室]

<第二部>テーマセッション 「行為連鎖組織の探究を継ぐ:エマニュエル・A・シェグロフの功績とEMCA研究のこれから」

14:00-14:10

趣旨説明

(担当世話人:石野未架・横森大輔)

14:10-14:50

川島理恵(京都産業大学)

「相互行為のエンジン”連鎖組織”が重なることで生み出される力:医師の提案発話における『やっぱり』表現に着目して」

14:55-15:35

早野薫(日本女子大学)

「多重行為発話と連鎖組織」

15:35-15:45 休憩
15:35-15:45

西阪仰(千葉大学/EMCA振興財団)

「連鎖組織と行為連鎖:発言と身体の関係再訪」

16:30-17:30 総合討論
17:30 閉会

【自由報告要旨】

坂尾結衣氏

「言語の正確性に対処する他者訂正:英会話練習における『受け取りトークン+トラブル源の置き換え』に着目して」

本発表では、英会話練習において、英語学習者の語彙・文法・発音等の間違いをどのように対処しているのかを明らかにすることを目的とする。特に、“Hm-hm?”や“Yeah”といった受け取りトークン (acknowledgment token) の後に、トラブル源を置き換える現象について、会話分析の枠組みを用いて分析する。分析データは、日本国内所在の大学の外国語ラーニングセンターで開催された、センターのTAと利用者の英会話練習の録画データ(15本、合計12時間)を用いる。分析の結果、TAは受け取りトークンの後にトラブル源の置き換えを産出することで、前の発話を理解の問題なく受け取ったことを示してから訂正を行なっていることが明らかとなった。それに対して、利用者は(1) 訂正された表現を繰り返すことで訂正を受け入れる場合と、(2)最小限の応答に留め会話を進める場合という2つの反応が観察された。この違いは、トラブル源自体の組み立てや、他者訂正の後の会話の展開に起因する。このような利用者の反応は、「受け取りトークン+トラブル源の置き換え」が聞き取りや理解のトラブルではなく、言語の正確性に対処した「訂正」であるという主張に根拠を与えるものである。

平安山八広氏

「『参与者がジェンダー・セクシュアリティを問題にするやり方』の会話分析」

本報告は会話参加者が、「ジェンダー・セクシュアリティに関わる存在であること」を、相互行為のなかで示す一つの方法について論じる。具体的には、成員カテゴリーを用いてジェンダー・セクシュアリティの知識が言及される場面に注目し、「広く当たり前とされている異性愛的背景」(Kitzinger, 2005)を参与者が問題にするやり方について注目する。本報告の断片では、参与者が「ジェンダー・セクシュアリティを問題にすること」の達成がいくつか観察された。そこでは、会話相手の主張が前提としていることに「疑義を呈する」、話し手自身の主張の前提を「説明する」という行為の構成に、ジェンダーカテゴリーが用いられることでその行為は理解可能となっていた。これらの行為を通して、無標な異性愛が有標化され、それによって「ジェンダー・セクシュアリティを問題にすること」がなされていた。分析では、こうした有標化が、性的指向と性自認(Sexual Orientation & Gender Identity;SOGI)の多様性を含意したSOGIカテゴリーを用いて、(1)分類方法を組み替える、(2)主張の対象の一般化をする実践を通して達成されていることを示す。

川田優花氏

「2つの志向を示す『まあでも』−『でもまあ』、『まあ』、『でも』との比較を通して−」

本発表では、会話における発話冒頭表現「まあでも」の使用と相互行為上の機能を明らかにする。日本語日常会話において頻繁に使用される「まあでも」は、それ以前に孕む問題性への志向を示す(高木・森田2022)「まあ」と逆接の接続詞「でも」から構成され、何らかの問題に対処しながら新たな方向へ会話を進めるための機能を持つ。この「まあでも」の会話における機能は日本語話者であれば直感的に理解できるであろうものだが、なぜ参与者たちはこのような異なる2つの要素を頻繁に組み合わせ、使用するのだろうか。本研究では、この組み合わせによって果たされる機能と相互行為におけるその意味を捉える。分析の結果、会話において「まあでも」は、その時点では解決できない何らかの問題に対して、会話を前に進めるため使用され、その機能が相互行為を停滞させないための1つの方法として使用されていることが分かった。そして、このような機能を持った「まあでも」は、「問題の認識」と「会話の進行」という参与者の2つの志向を示し、会話で起こり得る様々なトラブルに対応する都合のいいものとして人々に頻繁に使用されていると考えられる。

千田真緒氏・市野順子氏

「沈黙におけるスマホを用いた相互行為の調整」

本研究では,対面の会話で参与者がスマートフォン(スマホ)を使用する場面において,どのように沈黙が維持されているのかを検討する.会話における沈黙は,参与者どうしが共同の注意を維持する必要がない状況を作り出すことで保たれることが示されている(Vatanen, 2021).スマホによる私的活動(private activity)も,「共同の注意を維持する必要がない状況を作り出す」資源の1つであることが予測されるが,実際にスマホが扱われている場面で沈黙に焦点を当てた分析は少ない.本研究では2種類のデータを取り扱う.1) 日本語日常会話コーパス(CEJC)(小磯他,2023),2)A大学のカフェテリアにて撮影されたビデオデータである.映像分析ソフトELANを用いて,スマホを含む身体的動作の注釈をつけ,マルチモーダル会話分析の手法により,発話と身体的動作を微視的に分析した.分析の結果,スマホのカバーや画面の向きによって,発話のタイミングが調整され,会話のない共在状態をつくりあげていることが観察された.スマホの使用が明確に終了している場合でも,会話の再開に至らなかった事例もあった.スマホ使用が単なる私的活動にとどまらず,参与者に沈黙を維持することを示す手段であることが考えられる.

劉礫岩氏

「質問に対する反応における『それが(ね/さ)』に関する分析」

会話において、質問などの発話は様々な想定や主張を組み込んだ形で受け手に対して特定の反応を求める。そのため受け手となる参与者が何かの事情により、先行発話の及ぼす制約に対して抵抗する必要性が、しばしば生じる。日本語会話では、質問、提案、評価、不同意などに対する反応において、先行発話の受け手となる参与者が、反応の冒頭付近ないし末尾に「それが(ね/さ)」という表現を用いることが繰り返し観察される。本研究は、質問に対する反応における「それが(ね/さ)」の働きを相互行為的な視点から分析する。分析の結果、まず多くの場合、「それが(ね/さ)」は、反応の発話の冒頭付近に配置され、反応の本体を前置きする。後続して、先行質問によって求められる応答自体(特定の情報もしくは承認)が、産出される場合と、産出されない場合、の両方観察される。応答が産出されない場合、先行発話に含まれている想定に反する説明や、先行発話が求める応答のタイプに抵抗する説明や要素が「それが(ね/さ)」に後続して産出される。一方、応答が産出される場合であっても、その応答は求められた情報や承認以上に、応答者の評価を含んだり、語りの形式を取るなどの特徴が見られた。これらのケースでは、先行質問は、比較的単純な応答を求めているという特徴があり、それに対して、応答者は即座に応答する代わりにまず「それが(ね/さ)」によって向けられた事象をいったん捉えた上で説明する用意があることを示し、単純に答えられない何かが自分側にあることを示すことによって、先行質問の及ぼす制約に抵抗している、と考えられる。