五十嵐素子・平本毅・森一平・團康晃・齊藤和貴(編)、2023、学びをみとる –エスノメソドロジー・会話分析による授業の分析–

目次と書誌

  • 308ページ
  • 発行年:2023
  • 3100円+税
  • ISBN: 9784788518230
  • 出版社: 新曜社 

目次

Introduction 生徒の学習経験を理解する
―学習活動と相互行為を「みとる」必要性 五十嵐 素子

Lecture 授業実践をどう読み解くか?―相互行為として授業を見るということ
 Lecture1 教育実践を読み解く視点としての「相互行為の方法」 五十嵐 素子
 Lecture2 相互行為の方法に着目して「授業の展開」を観察する 五十嵐 素子
 Lecture3 教師と児童生徒の相互行為をみとるために 平本 毅

Part1 教師の働きかけを読み解く
1章 授業会話を作り出す―「ガヤ」のコントロール 平本 毅・五十嵐 素子
 解説 発話順番交替 平本 毅
 コラム 授業における生徒の「自発的発話」 平本 毅・五十嵐 素子
2章 子どもたちの主体的な発言を引き出す―教師の発問構築技法と児童たちの発言機会  森 一平
 解説 日常会話の連鎖構造 平本 毅
 コラム 授業会話の連鎖構造 森 一平  
3章 エピソードでひきつける―物語の語りによる規範の理解の促し 下村 渉・五十嵐 素子
 解説 日常会話において物語を語ること 平本 毅
 コラム 授業において物語を語ること 團 康晃
4章 黒板を使って経験を再構成し共有する―振り返りにおける心情曲線の利用  齊藤 和貴
 解説 相互行為におけるマルチモダリティ 城 綾実
 コラム 授業の相互行為におけるマルチモダリティ 齊藤 和貴

Part2 生徒の学びを読み解く
5章 ペアで学習活動する―修復・修正を通じた英文法の習得 巽 洋子・五十嵐 素子
 解説 日常会話における修復・修正 平本 毅
 コラム 授業会話の修復・修正 森 一平
6章 作品について語り合う・鑑賞する―生活科における子どもの世界 團 康晃
7章 教科を横断して活用する―身体動作を定式化してアドバイスする 鈴木 美徳・五十嵐 素子
 解説 定式化実践 平本 毅
 コラム 授業における定式化実践 五十嵐 素子

Part3 授業を読み解いた後に
8章 授業を分析的に振り返り、考察を次の実践に生かす 齊藤 和貴・鈴木 美徳・五十嵐 素子
 解説 専門家実践を省察するためのビデオフィールドワーク 秋谷 直矩 
 コラム データセッションの仕方 團 康晃
 コラム 授業のビデオフィールドワーク 五十嵐 素子

おわりに

本書から

 「授業」といっても、その実際は多様です。校種、学年、教科によってその内容と方法は異なり、たとえ単元が同じでも、授業の展開やそこでの教師の働きかけ、生徒の反応によってその内容は異なるものです。しかし、生徒の学習経験を把握するにはある確実な方法があるのです。それは、その授業の学習活動において、教師と授業生徒の相互行為(やりとり)に着目し、その学びを「みとる」(見取る)ことです。

(中略)

 では、本書が扱う「相互行為」とは何でしょうか。それは、次のLecture 1~3ででより詳しく述べていきますが、さしあたり以下のように捉えていただければと思います。授業で教師は、生徒に質問したり、呼びかけたり、黒板に書いて説明し、生徒はそれに答えたり、説明を聞いて質問したりします。またグループ活動ならば、生徒同士がお互いに議論し合い意見をまとめ、発表します。そこで生徒同士は反対意見や賛成意見をぶつけ合うこともあるでしょう。相互行為とは、こういった学習活動を成り立たせている、教師と生徒による一連の振る舞いや行為の応酬(やりとり)といったものです。

 本書はこのような、教師と生徒の相互行為(やりとり)に着目する見方と枠組みを示し、生徒の学習経験の理解に役立てて頂きたいと考えています。そのために、エスノメソドロジー・会話分析という研究法に基づき、学校教育の教育実践を理解し、分析する方法を紹介していきます。

編著者に聞く ── 一問一答

本書を出版しようと思った動機やきっかけを教えてください。(五十嵐)

 企画していた当時、編者の1人である五十嵐は、教員養成の大学院で、授業観察の方法や授業の分析法として、エスノメソドロジー・会話分析(EMCA)の手法を教えていました。現職教員の院生さんも、また学部の学生さんも、大変熱心に勉強してくれ、修士論文や卒業論文の執筆のためにゼミで行っていたデータセッションも回を追うごとに深まりを見せていきました。こうした試みは当時おそらく初めてだったと思いますが、自身の教員としての経験から、授業分析におけるEMCAの貢献可能性を確信することができました。他方、授業の分析手法を学べる教材が乏しく、具体的な分析例を十分に示すことができないジレンマも感じていました。そこで教育実践に詳しい研究仲間や共同研究者に声をかけ、本書の企画を立ち上げることにしました(五十嵐)。

編集作業中のエピソードがあれば教えてください。(五十嵐)

 本書は、データセッションをしながら、原稿を作成し、またそれを互いにレビューし合う形で各章を作成していきました。特に相互レビューにおいては、編者の1人である、会話分析の専門家の平本毅先生に大変なご尽力をいただきました。執筆者の中には、現場の教員の方もおり、会話分析についてそれほど専門的に詳しくない方もいました。このため、平本先生には、分析における綻びや矛盾を丁寧に指摘し、再分析の助言をしていただくことを繰り返していただきました。また、専門家として、会話分析の考え方や個々の現象についてもlectureや解説で分かりやすく執筆していただきました。その後さらに、編者以外の会話分析の研究者と教育学の研究者らにレビューもお願いして、全体的な書き直しも行いました。

 また、当時すでにベテランの教員であった齋藤和貴先生には、現場の先生に伝わるような言い回しや見方を常にご提供いただき、現場に還元できる内容に仕上げるという目的に貢献していただきました。このように多くの皆様のご協力で、エスノメソドロジー・会話分析の学術的な論文集としても分析の精度は非常に高く、教科書としても十分に通用するものとなったと思っております。(五十嵐)

本書の「売り」は、どのようなところにあるとお考えですか?      (五十嵐)

 まずは、日本の授業のEMCA研究であるという点に一番の売りがあるとは思います。海外にも教育実践研究は多くありますが、言語使用、学級規模、教室の配置、カリキュラムなどの前提が全く異なるため、そのまま知見を当てはめることが適切なのか迷うところもあります。本書は、日本の教育制度(学年制)、指導要領、学級といった制度的枠組みを前提とし、日本の学校現場の実態に即してEMCAの立場から知見を提供している点で、類書がないと考えています。(五十嵐)

会話分析者に特に読んでほしい箇所はありますか? またその理由は? (平本)

 ジョン・ヘリティジ(※)が述べたように、制度的な状況の下では、発話順番交替の仕組み、行為連鎖の仕組み、発話順番のデザインなどについて、日常会話のそれとは異なる相互行為の形がみられます。本書は授業という制度的状況の下でこうした相互行為の諸側面がどのように現れるかを、発話順番のデザイン(1章、2章など)、行為連鎖の仕組み(1章、2章など)、修復の仕方(5章)、表現の選択(7章)など、トピック毎に取り上げ、これを通じて授業という制度的場面の性質を描き出す作業を行なっています。フィールドを対象にした会話分析研究の仕方を示すという意味で、参考になるものと思います(平本)。

※John Heritage, (1997) ‘Conversation analysis and institutional talk: analyzing data,’ in David Silverman (ed.) Qualitative Research: Theory, Method and Practice. London: Sage: 161-182.

教員志望者や教師の皆さんに特に読んでほしい箇所はありますか? またその理由は?(齊藤)(團)

 もちろん、全ての章をじっくりと味わうように読んでほしいのですが、「特に」となると8章を読んでほしいです。8章では、具体的な授業の場面をもとにした分析も描かれていますが、学校現場で通常行われている授業研究とエスノメソドロジー・会話分析による授業の分析の違いを解説しています。学校現場での授業研究ではなかなか話題にならない視点や分析方法を取り入れることに、どのようなメリットがあるのか、どのような目新しさがあるのかに気付くことができます。このことは、授業実践や授業研究に携わる教師や教職志望者が、授業実践やコミュニケーションの方法に対して自覚的にさせてくれるものと思います。(齋藤)

 かつて社会学を学びながら教育実習に通った者として書きたいと思います。学校という場所はふしぎな場所で、正門をくぐると教師は教師として、生徒は生徒として、何者かであることを強く意識させられます。それ故に、そこでの出来事や活動についての見方・解釈も、その専門性に強く規定されがちです。本書はそうした見方・解釈に対して、「相互行為」に注目することを通して、見落とされがちだけれど重要な視座をもたらしてくれるものだと思います。まず読んでほしい箇所は、「相互行為」に注目することで見えてくることについての要点がまとめられている導入の三つのレクチャー、その後は読者の関心に合わせて章を選んで読んでよい様に思います。また、コラムも豊富なので、章と結びついたコラム、さらに気になる箇所は他のEMCA関連書籍にも手を伸ばしてもらえればと思います。(團)

教育社会学者に特に読んでほしい箇所はありますか? またその理由は?(森)

 教育社会学領域では、授業をはじめとした教育実践の相互行為に着目する研究が着実に増えてきている印象があります。ここではそうした関心をもつ研究者の方に焦点を当ててお答えしたいと思います。

 これまでの回答と重なってしまう部分がありますが、まずは冒頭の3つの「Lecture」と各種「解説」および「コラム」に目を通していただきたいと考えています。そこには教育実践の相互行為を分析するさいの基本的な視点がかなり豊富に紹介されているため、実際にデータを分析するさいの見通しを得たり、また拡げたりするのに、必ず何らかのかたちで貢献することができると考えているからです。それらをお読みいただいた後は、「これだ」と思うLectureの視点や、解説・コラムに対応する章に進んでいただいて、分析の具体的なイメージを得ていただくのがよいと思います。

 そのうえで、読んでほしい箇所をあえて決めるとするなら、まずは1章を挙げたいと思います。この章は授業の「秩序はいかにして可能か」という社会学的なテーマにかかわるものですし、教育社会学の実践研究で参照されることの多い「現場の教授学」(※)の発想とも響き合うところのある章で、教育社会学研究者にとって示唆に富む内容だと考えるからです。

 そのほかには、黒板などの教具や板書内容、子どもの身体配置といった「環境」的側面と会話の展開との切り離しがたい関連性について分析した4章や6章も、読んでいただきたい章です。これらの環境的要素は教育社会学の実践研究では相対的に目を配られることが少ない印象があり(自戒をこめて)、だからこそ逆に分析視点を拡げるのに大きな貢献を果たしてくれると思うからです(森)。

※古賀正義,2001,『〈教えること〉のエスノグラフィー』金子書房.

関連して読んでほしい本などありますか?(平本)

 「編集作業中のエピソード」でも書いたように、各章の分析は会話分析の専門的な技法に依っています。本書中でも「Lecture」「解説」「コラム」の形で適宜その大枠を説明していますが、より詳しくは、日本語で読める会話分析の教科書(串田秀也・平本毅・林誠(2017)『会話分析入門』勁草書房、高木智世・細田由利・森田笑(2016)『会話分析の基礎』ひつじ書房)を参照してください。また、会話分析の応用的なトピック、たとえば相互行為の中の身体の役割等については平本毅・横森大輔・増田将伸・戸江哲理・城綾実(2018)『会話分析の広がり』ひつじ書房、の各章をご覧ください(平本)。

本書で扱われていること ── キーワード集

制度的会話分析、エスノメソドロジー、授業分析、授業会話、板書、連携授業、ペアワーク、生活科、データセッション、