鈴木雅博, 2022, 学校組織の解剖学: 実践のなかの制度と文化

目次と書誌

  • 293ページ
  • 7,150円(税込)
  • 発行日:2022/1/15
  • ISBN-10: 4326251603
  • ISBN-13: 978-4326251605
  • 出版社: 勁草書房

「教師である」ことは学校組織のなかでいかにして成し遂げられているのか? 組織を生きる教師の方法の論理を実践に即して解明する。

目次

まえがき
第1章 学校研究が「見落としてきたもの」
第2章 エスノメソドロジー素描――本研究の方法論
第3章 調査の対象と方法
第4章 民主制のなかの官僚制/官僚制のなかの民主制
第5章 「説明責任」を語ること
第6章 先議者規範と沈黙のなかの/としての組織
第7章 「荒れ」を語ること
第8章 「新任者である」ことをすること
第9章 曖昧な校則と厳格な指導
第10章 時間外勤務をめぐる解釈実践
第11章 組織から距離をとること
終章

本書から

教師たちが実践のなかで/として学校組織をまさにそのようなものとして成し遂げる,その方法と能力を解明すること,これが本書の目的である。ここでは学校組織はどのようにあるべきか,あるいは教師が組織目標をどのように達成したかといったことには差し当たり関心を向けない。それはまた,教師たちを取り巻く文化を析出し,それによってかれらの行為を説明しようという試みとも異なる。つまり,ここでは研究者があるべき組織像を提示したり,制度や文化を教師の実践を説明するためのリソースとして持ち込むことはしない。そうではなく,教師たちが「組織の一員である」こと,「職業/職場文化の共有者である」こと,そして「教師である」こと等を相互行為のなかで,そして相互行為それ自体として,その都度達成していく実践を明らかにすることを試みる。(p.1)

著者に聞く ── 一問一答

本書を出版しようと思った動機やきっかけを教えてください.  私はもともと高校教員として研究とは縁遠い生活を送っていました。大学派遣研修という形で図らずも研究の門を叩くことになったのですが,いざ入門してみると,研究と実践の関係に随分と悩むことになりました。研究者は実践に対して,特定の規範的立場からあるべき組織像を主張したり,「現実は皆さんが見ているようなものとは違うのです」といった科学的説明を与える一方で,現場の教師は自分好みの「役に立つ」知見を研究者に求めており,両者の関係は「理論と実践の往還」という教育学界隈で掲げられるスローガンに首尾よく収まるものではありませんでした。その後,大学院に入り直して研究を進めるなかで,エスノメソドロジーに辿り着いたのですが,人びとの実践の論理に記述を与えるその方針に実践と研究の新たな関係性を見出すに至りました。また,エスノメソドロジーでは,調査者が対象となる現場に浸され,まがりなりにも対象となる人びとと同じことができる/わかることが望まれますが,この要請は現場で長く過ごしてきた私にうってつけではないかとも思いました。このような道筋を経て,学校組織の実践を描くエスノメソドロジー研究に挑戦してみたいと思うようになりました。
構想・執筆期間はどれくらいですか?  修士論文のために調査を開始したのが2009年ですので,そこを起点とすると12年ほどかかっています。
本書以前に執筆された著書(あるいは論文)との関係を教えてください。  本書は,2017年の東京大学大学院に提出された博士論文をもとにしています。博論は修士論文でのフィールドワークを継続しつつ,学会誌への投稿論文等を仕立て直す形でまとめられました。私の場合,調査開始時点ではエスノメソドロジーと接点がなく,当初の投稿論文も因果推論的なものでした。例えば,鈴木(2011)では,「組織の決定に従って一律に指導する」,「生徒との人間関係があるから何でも一律に指導するわけではない」という矛盾する教師の語りに注目し,次のような関係を指摘しました。それは,「教師には組織の決定を執行しない自律性があり,このような自律性が決定と執行の関係性を緩やかで双方向的なもの――組織決定が執行を規定するばかりでなく,執行に自律性があるからこそ拘束力のある決定を教師たちが受容するといった関係性――にしている」というものでした。

しかし,後に教師たちが常にこのような関係に従っているわけではないのではないかと自問し,矛盾する二つの語りに上記とは違った形で折り合いをつけられないかと思案するようになりました。その方策の一つが,語りそのものの定型性を論じることです。鈴木(2012)では,構築主義に示唆を得て,現場レベルで定型化された言説を使用して対象を問題化する過程を明らかにしました。

他方で,研究方法論を検討するなかで,構築主義に対するエスノメソドロジーからの批判に出会い,以後は徐々にエスノメソドロジーに傾倒するようになっていきました。教師による二つの語りについても,エスノメソドロジーの方針を採れば,両者を成員カテゴリーの差異・転換({組織の一員}か{教師}か)として捉えることでそれぞれの語りを尊重することが可能となります。

とは言え,エスノメソドロジーは独学ではなかなかに理解が難しく,それ以後の投稿論文(鈴木2015,2016,2019)や博論も後に振り返ってみると至らぬ点が多いと感じていました。本書は,それらを大幅に修正・再構成することで編まれたものです。先行する諸論文と本書を比較することで,私の研究方針がエスノメソドロジーへと転じていく過程(未だ途上ですが)を辿ることができるかと思います。

鈴木雅博「学校における組織的意思決定と教師の自律性との関係性――教師が語る言説の機能に着目して」『日本教育行政学会年報』第37号,pp.100-117,2011年.

鈴木雅博「生活指導事項の構築過程における教師間相互行為――日常言語的な資源としてのレトリックに着目して」『教育社会学研究』第90集,pp.146-167,2012年.

鈴木雅博「教員コードによる職員会議の秩序構築――解釈的アプローチによる相互行為分析」『日本教育経営学会紀要』第57号, pp.64-78,2015年.

鈴木雅博「教師は曖昧な校則下での厳格な指導をどう論じたか――エスノメソドロジーのアプローチから」『教育社会学研究』第99集,pp.47-67,2016年.

鈴木雅博「教師による実践のなかの/としての学校組織――「会議をする」ことのエスノメソドロジー研究」博士論文(東京大学・教育学・課程博士),2017年.

鈴木雅博「下校時刻は何の問題として語られたか――時間外の仕事に規範を結びつけて解釈すること」『教育社会学研究』第105集,pp.27-47,2019年.

執筆中のエピソード(執筆に苦労した箇所・楽しかった出来事・ 思いがけない経験など、どんなことでも可)があれば教えてください。  Q3とも関わりますが,エスノメソドロジーとは異なる視点で書かれた既発表論文をエスノメソドロジーの方針に基づいて修正していく作業はかなり骨の折れるものでした。また,調査対象校には大変お世話になったのですが,先生方から研究知見を現場に還元できないかと求められた際に,先生方が研究に寄せる期待にうまく応えられないことにもどかしさを感じました。
執筆中のBGMや気分転換の方法は?  私は机に向かって論文執筆や読解に取り組める持続力が極端に低いので,執筆の合間に気分転換をしたというよりは,他の仕事をしたり,子どもの相手をしたり,ネットやテレビを眺めたり,通勤のために歩いたりといった日常生活の合間(およびその最中)に論文を構想した(そして,すぐに行き詰ってしまい悶々とすることを繰り返していた)といった感じでした。
執筆において特に影響を受けていると思う研究者(あるいは著作)があれば教えてください。  以下の著作には何度も立ち返り,その都度新しい示唆を得ることができました。

Garfinkel, H., 1967, Studies in Ethnomethodology, Prentice-Hall, (=1989[第二章抄訳]「日常活動の基盤」北澤裕・西阪仰編訳『日常性の解剖学』マルジュ社,pp.31-92).

西阪仰,1997a,『相互行為分析という視点』金子書房.

Sacks, H., 1972a, “An Initial Investigation of the Usability of Conversational Data for Doing Sociology,” Sudnow, D. ed., Studies in Social Interaction, The Free Press, pp.31-73, note, pp.430-431, (=1989,「会話データの利用法」北澤裕・西阪仰編訳『日常性の解剖学』マルジュ社,pp.93-173).

Sacks, H., 1979, “Hotrodder: A Revolutionary Category,” Psathas, G. ed., Everyday Language: Studies in Ethnomethodology, Irvington Publisher, pp.23-53, (=1987,「ホットロッダー――革命的カテゴリー」山田富秋・好井裕明・山崎敬一編訳『エスノメソドロジー』せりか書房,pp.155-214).

Wieder, L. D., 1974, “Telling the Code,” Turner, R. ed., Ethnomethodology: Selected Readings, Harmondsworth, Penguin, pp.144-72. (=1987,「受刑者コード――逸脱行動を説明するもの」山田富秋・好井裕明・山崎敬一編訳『エスノメソドロジー』せりか書房,pp.155-214.).

社会学的(EMCA的でも可)にみて、本書の「売り」はなんだと思いますか?  EMCAは,録音録画したデータを対象にした精緻な分析を蓄積してきましたが,本書はやりとりを書き留めたフィールドノートやインタビュー記録,文書資料を対象とした分析を行っています。これは,GarfinkelやSacks,Sudnow,Wiederといった初期のエスノメソドロジー研究の系譜に連なるものであり,録音録画データをもとにした連鎖構造等への分析とは異なるエスノメソドロジーの可能性を模索した点がEMCA的に見た時の本書の「売り」ではないかと考えています。もちろん,データの精度を超えた分析をしないように留意することが必要であり,本書においても,その限界を自覚した上で,検討を加えるよう心掛けました。
実践家に特に読んで欲しい箇所はありますか?またその理由を教えてください。  本書では,近年,教育学分野で関心を集めている組織マネジメント(4章,5章,6章)や校則(7章,9章)・時間外労働(10章)等をめぐる教師間のやりとりを検討しています。本書はこのような諸問題の「改善」を促す即効薬ではありません。ですが,教師の皆さんに自分たちがこれらのテーマについてどのような方法を用いて議論を組み立てているのかを知っていただくことは「改善」に向けた契機になるのではないかと考えています。
学校組織研究者に特に読んで欲しい箇所はありますか?またその理由を教えてください。  従来の学校組織研究では,組織の有り様を特定の規範的立場(組織マネジメント的な経営論や民主化論)や文化論から論じるものが多かったと言えます。これに対し,本書の諸章は,制度や文化に関する諸規範が教師の行為を規定するのではなく,教師たちがそれらを相互行為における資源として参照する実践を描いています。こうした記述が先行研究の知見とどのような関係をとり結ぶのかについて学校組織研究者の皆さんと考えてみたいと思っています。
EMCAの初学者は、どこから読むのが分かりやすいと思いますか?  また、読むときに参考になる本や、読む際の留意点があれば、教えてください。  基本的には,第1章から順に読み進めていただくことをお薦めします。第1章では,学校組織に関する先行研究との対比によって,「なぜエスノメソドロジーを採用したのか?」について示し,第2章では,そもそも「エスノメソドロジーとは何か?」について(本書と関連のある範囲内ですが)整理しています。エスノメソドロジーは学校組織研究分野ではまったくなじみのないものであるため,通常の研究論文における序論部分よりも多くの紙幅を割いて第1章・第2章を記しています。もちろん,先に具体的な分析をお読みいただき,なぜこのような研究方針を採るに至ったのかを確認するために,第1章・第2章に立ち戻るという読み方をしていただいても構いません。
次に書きたいと思っていることや今後の研究の展望について教えてください。  校則や教師の労働環境をめぐる諸概念の参照のされ方について検討したいと考えています。

本書で扱われていること ── キーワード集

成員カテゴリー化装置,官僚制規範,民主制規範,組織マネジメント,説明責任,「荒れ」と共同歩調の因果論,協働文化,校則,時間外勤務,教師の自律性