- 書誌と目次
- 本書から
- 著者に聞く ── 一問一答
- 本書で扱われていること ── キーワード集
目次と書誌
- A5版・249p
- 定価:2400円+税
- 発行日:2017年8月10日
- ISBN-10: 4903866416
- ISBN-13: 978-4903866413
- 出版社:三重大学出版会 |
日本のアニメ産業を支えるアニメーターの労働実態は過酷であることが知られるが、なぜ彼らはそうした労働を受容するのかについて、アニメーターへのインタビューデータのエスノメソドロジー的分析から解明することを試みた。
目次:
第一章 |
アニメーターという対象
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第二章 |
働きすぎという現象の捉え方
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第三章 |
データと方法――規範の記述とエスノメソドロジー
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第四章 |
アニメーターの仕事についてのエスノグラフィックな前提
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第五章 |
アニメーターの仕事を形作る二つの職業規範
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第六章 |
規範の利用と独創性の発揮
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第七章 |
規範の利用と労働条件の受容
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第八章 |
アニメーターにとっての労働問題
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終章 |
本研究の意義と課題
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本書から:
現代日本社会においてアニメ文化は広く普及しており、アニメーターという労働者はアニメーション産業を支える重要な存在である。しかし彼らの労働条件は低賃金かつ長時間であることが知られていた。本研究はこのような低労働条件のなかにあっても一定の人びとがアニメーターという職業を選択し、働き続けるのはなぜかという問題意識から出発している。しかしフィールドにおいてクリエーターというカテゴリーや創造性という概念による説明に困難を感じたことから、別の論理で、アニメーターの労働はアニメーター自身の視点から合理的になっているのではないかと考えた。このような想定から出発し、本研究はアニメーターの労働を成り立たせている論理を記述し、それを通して働きすぎの問題を扱ってきた労働社会学の領域にも知見をもたらすことを示した。(本書221-222ページ)
著者に聞く ── 一問一答
本書を出版しようと思った動機やきっかけを教えてください. |
本書は、一橋大学大学院社会学研究科に2015年に提出した修士論文「アニメーターの労働問題と職業規範:職人的規範とクリエーター的規範がもたらす仕事の論理と労働条件の受容」をもとに、加筆修正を行った著作です。この修論を当時に三重大学出版会が実施していた「第13回日本修士論文賞」に応募したところ、縁あって受賞させていただくことができました。この賞は人文社会科学系の修士論文を審査して受賞作は同出版会から出版するという事業の一環としてなされており、この事業によって私も出版させていただく機会に恵まれました。 一つ残念なこととして、この日本修士論文賞の事業は第14回をもって終了してしまいました。何も言える立場にはないですが、私自身この事業のおかげで貴重な経験を数々積み重ねることができ、大変励みになったので、いつか復活してくれたらと願っています。 |
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構想・執筆期間はどれくらいですか? | 受賞の連絡をいただいたのが2015年12月でしたので、そこから数えると刊行までに1年8ヶ月程度かかったことになります。全体の内容自体は修論から大きく変えていないのですが、文字数をもとの修論から半分近くまで削減する必要があり、これに大変手間取ってしまいました。一度入稿してからも一つ一つの工程が初体験だったので手際が悪く、とくに編集者の先生にはたびたびご迷惑をかけてしまいました。 |
編集作業中のエピソードがあれば教えてください。 |
並行して新しい調査の実施や論文執筆、別の研究プロジェクトへの参加などをしつつ、合間を見つけては本の作業をするというような日々だったような気がします。いつどうやって本の作業をしていたのかもあまり記憶しておらず、ただ目の前に現れた作業をひたすら片付ける中でたまに本の作業の進捗があり…という感じで、正直いって「編集作業」だけ抜き出してエピソードを語ることが、やろうと思ってもできません。 ただ、本の作業だからといって特別視せず、ルーティーンの一環として作業できたことが、良くも悪くも刊行までこぎ着けられた理由なのかなとは思います。 |
本書の「売り」は、どのようなところにあるとお考えですか? |
一つは、既存の労働社会学に明確に貢献する考え方として、エスノメソドロジーを提示したことにあるかと思います。労働社会学の、とくに過重労働や低賃金の問題を主題とする既存の研究は、そうした問題状況を使用者側による搾取として捉える見方を長らく鍛えてきました。ですがこうした見方は、労働者の現実への判断能力を必要以上に低く見積もってしまうところがあり、自分の関わる状況が問題含みであるとわかっていてもしばしば私たちはそれを受け入れて働いてしまうことを、うまく捉えられない部分があります。ここに現状の労働社会学の弱点があり、それを乗り越えてくれる発想として私が行き着いたのが、エスノメソドロジーでした。既存の社会学に貢献する形でエスノメソドロジーを位置づけることにはエスノメソドロジストは何かしら苦労を覚える部分だと思いますし、実際にかなり苦労したのですが、結果としてある程度は成功したと考えています。 もう一つは、本書は分析するデータのタイプとしてインタビューデータを終始取り上げているという点です。インタビューデータを用いたEM研究にはすでに優れた先行研究がいくつもありますが、それでも相対的には少数に留まるだろうと思います。本書はその少なさをいくらか補うものであると同時に、インタビューデータではないと捉えられないと考えられる現象に取り組んだ議論と位置づけられるかと思います。私自身はインタビューデータに際だったこだわりをもっているわけではなく、現場におけるフィールドワーク・ビデオ撮影等も行いますが、だからこそインタビューでないと捉えられないこともあると感じています。本書がどれだけ成功したかは読者の判断を仰ぐほかないですが、こうした方法論と知見の身分の関係を精査していくことは、今後もEMが絶えず続けていくべき仕事であろうと考えています。 |
実践家にとくに読んでほしい箇所はありますか? またその理由は? | 4章以降の分析、そして終章の議論が読んでほしい箇所です。本書の意義の何割かは現場のアニメーターの方達にとってどれだけ納得できる議論になっているかにかかっていると思うからです。 |
労働研究者にとくに読んでほしい箇所はありますか? またその理由は? | 全部ですが、とくに2章の理論的な議論と終章のインプリケーションがどれだけ納得してもらえるかは気になっています。 |
どのような方に、どのような仕方でこの本を読んでほしいとお考えですか?また読む際の留意点がありましたら、教えてください。 |
私としては、アニメーターという対象に限らず、さまざまな労働問題を考えるうえで資するものになればと思い本書を出版したところがあります。ですので、やはり広く労働問題に関心のある方にいただけたら嬉しく思います。 読む際の留意点としては、本書は良くも悪くも全体のストーリーが固まっていて、特定の章だけを読むという読み方がたいへんしにくい本になっています。お手にとって頂いた方には負担をかけることになってしまいますが、特定の章に関心がおありの場合でも、ぜひ最初から順に読み進めていただくことをおすすめいたします。 |
本書で扱われていること ── キーワード集
職業規範 労働問題 職人 クリエーター インタビューのEM的分析 労働者の合理性 同意の生産