→短信:報告と写真を掲載しました [2016/03/02]
概要
EMCA研究会2014年度研究大会のプログラムをお送りいたします。本年は、林誠先生(イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校)にご講演いただきます。また、自由報告のほか、新たな取り組みとして、若手研究者のキャリアパスを考えるためのセッションを設けました。最近就職された方々に話題提供をいただき、エスノメソドロジー・会話分析研究(者)の来し方行く末について議論・情報交換をする予定です。多くのみなさまのご参加をお待ちしております。
(大会担当世話人:平本毅、秋谷直矩)
日時: | 10月12日(日)10:00-17:30 |
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場所: | 立命館大学梅田キャンパス(大阪富国生命ビル)14階多目的室・演習室2 [地図] |
大会参加費: | 無料(会員・非会員とも) |
プログラム
9:30 | 受付開始 | ||||||||||||
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10:00-11:30 | 第一部:自由報告 【多目的室】
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11:30-12:40 | 第二部:キャリアパスセッション 【多目的室】
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12:40-13:50 | 昼食※なお、この時間はキャリアパスセッション後話題提供者を含めた参加者らとのフリートークセッションとしても位置付けておりますので、こちらに参加する方はあらかじめお昼を持参してください | ||||||||||||
13:50-14:20 | 総会 | ||||||||||||
14:20-15:50 | 第三部:自由報告(多目的室・演習室2のパラレルセッションになります)
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15:50-16:00 | 休憩 | ||||||||||||
16:00-17:30 | 第四部:講演【多目的室】
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17:30 | 閉会 |
講演概要
Collateral effects(付随効果)と相互行為言語学の展望林誠先生(イリノイ大学 アーバナ・シャンペーン校)
この発表では、Sidnell & Enfield (2012)によって提唱された collateral effects (付随効果)という概念を紹介しつつ、相互行為言語学・会話分析からみた文法研究の近年の動向、今後の展開について議論する。 「言語相対論研究の第3の領域」として提案された collateral effects という概念は、示唆に富むものではあるものの同時に批判の余地もある概念である。この発表を機に、EMCA研の方々と大いに議論できることを期待する。
参考文献
Sidnell, J. & Enfield, N. J. (2012). Language diversity and social action: A third locus of linguistic relativity. Current Anthropology 53, 302-333.
自由報告発表概要
過去の出来事についての語りにおける指さしと認識性 森本郁代(関西学院大学)
本報告では、3人以上の参与者による会話において、話し手が受け手の一人が関わる過去の出来事を語る時に、その受け手に対して指さし(pointing)を行うというふるまいを記述し、指さしが、語られている出来事に関する受け手の「認識的優位(epistemic primacy)」(Hayano, 2013)を示す手段として用いられていることを明らかにする。
指さしというふるまいは、物理的な空間における人や物、場所、方向だけでなく、その場に存在しない抽象的な対象を指し示す手段としても用いられている(Kita, 2003; Kendon,2004)。従来、指さしが何を指し示しているかは自明であるかのように考えられてきた。しかし、近年の研究で、指さしの対象は、指さしが埋め込まれている活動や行為を参照することによってはじめて理解可能になることが明らかにされてきている(Goodwin, 2003; Mondada, 2007)。本報告の分析は、指さしの対象が理解可能になる過程だけでなく、話し手が語っている過去の出来事の帰属先として受け手を指示していることを明らかにするとともに、受け手の認識的優位を示すことによって、話し手がどのような行為を達成しているのかを記述する。
引用文献
Goodwin, Charles. 2003. Pointing as situated practice. In Sotaro Kita (ed.) Pointing: Where language, culture, and cognition meet, 217-215. New Jersey: Lawrence Erlbaum Associates, Inc.Hayano, Kaoru. 2013. Territories of Knowledge in Japanese Conversation. Unpublished PhD dissertation, Radboud Universiteit, Nijmengen.
Kendon, Adam. 2004. Gesture: Visible action as utterance. Cambridge: Cambridge University Press.Kita, Sotaro. 2003. Pointing: A foundation building block of human communication. In Sotaro Kita (ed.) Pointing: Where language, culture, and cognition meet, 1-8. New Jersey: Lawrence Erlbaum Associates, Inc.
Mondada, Lozenza. 2007. Multimodal resources for turn-taking: pointing and the emergence of possible next speakers. Discourse Studies, 9(2):194-225.
遠距離介護の意思決定過程の会話分析――統語的未完結発話とその統語的続きによる発話に注目して中川敦(島根県立大学)
本報告では、遠距離介護者、福祉・医療の支援者が参加して行なわれたケア会議のビデオデータ分析を通じて、遠距離介護の意思決定を実現していく過程で利用される1つのプラクティスを明らかにしたい。
具体的に注目するのは
- 先行発話が統語的に完結していないが、相手に言いたいことが伝わるようにデザインされており
- その時点でターンが区切られ
- 先行発話とは異なる話者による後方発話において、統語的に未完結であった先行発話の統語的な続きが発せられる
ケースである。こうしたケースのコレクションの検討からは、先行発話については、(ⅰ)発話の中で最も言いたことが述べられた部分で止めるパターン、(ⅱ)デリケートな事柄を最後まで言わないパターンがあることが観察された。後方発話については、聞き手の立場からの先行発話に対する「同調」などを明確に示しながら発話を組み立てているケースが多いことが観察された。報告では、こうした観察を精緻化しながら、発話が成し遂げている行為の宛先などにも注意を払い、そうしたプラクティスが遠距離介護の意思決定過程について持つインプリケーションについても言及したい。
カーレースの実況中継における新旧活動のマネジメント リュウガクカン(滋賀県立大学)
実況中継という活動は、参加者たちが絶えず変化する状況にアクセスしながら、相互行為的に行われる。本研究は、カーレースの実況中継において、参加者たち(アナウンサー1人、解説者2人)は、いかに現在進行中の活動とは別に、画面内の状況を手がかりに、新たな活動を開始するかを分析する。具体的には、進行中のコメント活動が行われている最中に、しばしば画面内では、新たな出来事の兆候が現れる。この時、進行中のコメントの話者は、自らその兆候に志向し、発話を中断し、新たなコメントを開始する場合と、話者以外の参加者が兆候に志向し、発語をすることで、進行中のコメントを提案する場合がある。本研究では、主に後者のほうに注目し、参加者はどんな方法を使って、特定の活動を提案するかを分析する。
自死遺族らによる自殺動機付与・責任帰属活動と動機の語彙・成員カテゴリー 藤原信行(立命館大学)
自死遺族たちが直面するさまざまな困難の一つとして,近親者の自殺の動機付与と責任帰属をめぐる問題がある.この自死遺族らが直面させられている困難は,死生学等では自殺や自死遺族にたいする人びとの偏見,すなわち〈こころ〉の問題として理解され,かつそのような偏見の持ち主を〈遺族らのこころを傷つける者〉だとして非難している.しかし,当該問題をそのように心理内在的なこととして記述し非難することは,その経験的記述(と問題解決)を困難たらしめる.そこで本発表では,1980年代後半に自ら命を絶ったAさんの自殺動機と死の責任をめぐって争いつづけてきた遺族BさんとCさん(くわえて,Aさんの職場関係者Dさん)へのインタビューデータをもとに,自殺の動機付与と責任帰属をめぐる問題を,彼女/彼らによる自殺動機(動機の語彙)の付与と成員カテゴリーの執行,そして責任帰属の(未)達成にいたる過程として記述していく.またその記述をつうじて,自死遺族らを自殺の責任をめぐる〈対立・自責・葛藤・逡巡〉か,さもなくば原因/動機にかんする〈わけのわからなさ〉に佇みつづけるかの〈二者択一〉へと否応なしに直面させるものとしての,われわれの家族的紐帯の組織化の論理にも言及できればと考えている.
褒めと褒めに対する焦点ずらしの応答について 張承姫(関西学院大学)
本研究で注目するほめに対する焦点ずらしの応答とは、ほめられた側が自画自賛を回避するため、ポジティブな評価の対象を別の側面にずらして応答するやり方である。本研究では、会話分析の手法を用いて以下の点を分析・記述したい。第一に、従来の日本語におけるほめの研究は、ほめ手の発話の評価対象のタイプを区別せずにほめの応答を分析してきた。それに対し、本研究は、ほめの発話の評価対象のタイプを「聞き手自身」と「聞き手が属するもの」とに区別し、異なる評価対象のタイプによってほめられた側の応答が異なって行くことを提示する。第二に、評価対象によって異なる応答が行われても、焦点ずらしの応答というやり方が見られることを示し、第三に、この焦点のずらし方も、「聞き手自身」あるいは「聞き手が属するもの」という評価対象のタイプによって異なって行くことを提示する。この分析を通して、ほめられた側の応答は話し手の評価対象のタイプと密接にかかわっていることを明らかにする。
「プレプレ」と「プレデリケート」が交差する瞬間――指示表現で発話順番を完結させる現象をめぐって 杜長俊(筑波大学)
本発表は、「1つ聞こうとおもってたけど」「お願いがあるんだけど」のような、質問または依頼という行為を予示させる発話の直後に、「お祝い.」「プリンターのインク.」というように、それらの行為に関わる指示対象を指し示す表現(以下、指示表現とする)を産出し、指示表現の産出とともに順番を完結させる現象を取り扱う。本題行為を予示させる現象は、しばしば指示表現の認識に関する確認のやりとりのような、本題行為に向けた準備を差し挟むことから、「プレプレ」と呼ばれる。本発表では、指示表現で発話順番を終えるという特徴的な現象に注目し、これまでの研究で解明されていない現象の分析を試みる。
分析対象の発話は、下降調のイントネーションで指示表現を産出し、指示表現に関して相手が認識できる、つまり認識の問題がないという想定を示している。この一方で、認識の問題がないと想定しているにもかかわらず、「依頼」「質問」という行為に移ることをしていない。むしろ、発話順番を完結させ、相手に順番を取らせる。これにより、本題行為に移ることに慎重であるという態度を示すとともに、指示表現を認識できるという想定に対する相手の反応を求めることが可能となる。こうして本題の行為の産出に向け、話者が慎重な態度を示し、指示表現の共有認識の想定を焦点化している。このことから、このような発話は、本題行為の産出が話者にとってデリケートなものであることを示すと同時に、「相手との生活史」という水準において、指示表現の認識を喚起していると言えよう。最終的に本発表では、相手の反応及び後続の会話の展開から、これらの発話が相互行為上何を達成しようとしているのかについて明らかにする。
お問い合わせ
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