2010年度 春の研究例会

概要

以下の要領で、エスノメソドロジー・会話分析研究会2011年春の研究例会を開催いたします。午後に予定しているシンポジウム「質問-応答連鎖と場面性」では、相互行為の参与者たちが、相互行為の形式的組織を用いながら、いかにして場面に固有の目的や課題を遂行しているのか、またそれを通じて、いかにしてその場面を作り上げているのかを、考えたいと思います。焦点の絞られた討論が可能になるように、相互行為の形式的組織を「質問-応答連鎖」に限定し、4人の発表者に4種類の場面の分析を提示していただき、この連鎖がどのようにそれぞれの場面に感応して用いられているかを比較しながら議論したいと考えています。

(企画担当:平本毅・串田秀也)

日時 2011年4月3日(日)11:00~17:30
場所 関西学院大学大阪梅田キャンパス14階1405号室 [地図]

プログラム

10:30 受付開始
11:00~12:15 一般報告
11:00~11:35 一般報告1(発表20分+討論15分) 山本真理「物語の聞き手によるセリフ発話」[→要旨]
11:40~12:15 一般報告2 中恵 真理子「大学教育ボランティアの助言の達成のし方に見る授業内秩序」[→要旨]
12:15~13:30 昼食
13:30~17:30 シンポジウム「質問-応答連鎖と場面性」(司会進行:串田 秀也)
13:30~14:10 シンポ発表1(発表25分+討論15分) 平本毅「日常会話における 質問-応答 連鎖─とくに「応答の追及」により返される応答に着目して」[→要旨
14:15~14:55 シンポ発表2 増田将伸「インタビュー・コーパスにおける 質問-応答 連鎖―「日常」を模した「制度」の中の相互行為」[→要旨
14:55~15:10 小休憩
15:10~15:50 シンポ発表3 池田 佳子「TVのニュースインタビューにおける 質問-応答 連鎖の一考察─応答ターンのデザインに着目して」[→要旨
15:55~16:35  シンポ発表4 細田 由利&デビッド・アリン「教育場面における質問と応答の連鎖に関わる優先組織」[→要旨
16:45~17:30 全体討論

一般報告:〔報告要旨〕

報告1:山本 真理「物語の聞き手によるセリフ発話」

報告要旨

本研究では,過去の出来事が語られる場面において語り手や聞き手によってなされる,物語の登場人物になりきるような発話(「セリフ発話」)を扱う。これらの発話がどのように行われ,その発話を通して参与者たちが何をしようとしているのかを明らかにする。本発表ではそのうち物語の聞き手によって行われる発話に焦点を当てる。

西阪(2008)は,物語が語られた直後の「演技している」と見ることのできる聞き手の振舞いの分析を行い,聞き手の発話は単に物語の語り手の情報が聞き手に伝わったことを示すだけではなく「物語が終わったという聞き手自身の理解」,「聞き手が語り手の物語をどう理解したか」,「語り手の物語をどのような話として聞くべきものかという物語全体にたいする自らの理解」を示すと言う。本発表では西阪の考察を踏まえた上で,「聞き手が物語の理解を示す」というときその理解は単に聞き手の皮膚下の理解を反映させているだけでなく,物語の語り手のその場の動きに敏感な形で組織されていることをデータに即して示していく。具体的には,聞き手がどの登場人物を選択しどのような発話を行うのかといったことはランダムに決定されていくのではなく,語り手の発話や身体的な動作によってある程度方向づけられている。これは聞き手が物語の登場人物になりきることができるほどに物語を理解していることを強く示しつつ,あくまでも聞き手が「聞き手」として相互行為に参加しており「語り手の物語を語る権利」を侵さないことを示すことができる有効な手段であると考えられる。

【文献】西阪仰(2008)『分散する身体―エスノメソドロジー的相互行為分析の展開』勁草書房

報告2:中恵 真理子「大学教育ボランティアの助言の達成のし方に見る授業内秩序」

報告要旨

:徳島大学の全学向け教養教育の中には、市民から募った社会人ボランティアと学生、教員の3者で創る授業形態がある。このとりくみは平成20年度GP「地域社会人ボランティアを活用した教養教育~知の循環型社会の構築をめざして」として採択された。本データはこの取組の授業の一つ「名著講読-生き抜く力をつける(香川順子准教授担当)」をビデオ録画し、分析したものである。

分析の視点は、社会人ボランティアが授業に参画することによって、授業内秩序がどのように産出されているかをミーハンの見出したI-R-E連鎖に着目して行うことである。すると、データによれば、特にEvaluationにおいて、社会人の評価を、教員が受け継ぎ、教員の評価の中に取り組む場面、あるいは社会人の評価に介入し、評価を中断させる場面、また、授業の一部分のトピックについてその全体の評価を教員が社会人に委譲して行うなど、I-R-E連鎖の多様な応用形態が見られた。

今後生涯学習社会がすすめば、このような授業形態が小・中・高に限らず、大学でも増えてくるように思われる。そのような教育資源の一つとしても社会人ボランティアの参画する授業内秩序を考察したい。

【文献】
Mehan,H、1979、Learning Lessons: Social Organization in the Classroom, Cambridge,MA: Harvard University Press.
秋葉昌樹、2010、「学校で過ごす」串田秀也/好井裕明編『エスノメソドロジーを学ぶ人のために』第6章、世界思想社。

シンポジウム「質問-応答連鎖と場面性」:〔報告要旨〕

報告1:平本 毅
「日常会話における質問-応答連鎖-とくに「応答の追及」により返される応答に着目して-」

報告要旨

日常会話において、ある発話に次ターンでの応答を予期させる「連鎖上の含み」が存在し、さらにその応答に当該の発話への同意/不同意や受諾/拒否が含まれることが期待されるとき、話し手はその応答の不在に代表される不同意あるいは拒否の前触れ、理解の不足に対して、何らかの手段で応答を追及することがある(以下「応答の追及」)(Pomerantz, 1984)。この「応答の追求」のうち本発表では、最初の発話に含まれていた意見や態度を変える(以下「置き換え型」)ものを扱う。これまでの「応答の追及」の研究では、「応答の追及」自体の形式やはたらきに焦点が当てられてきた。それにたいし本発表では、「応答の追及」への応答(以下「追求の結果返された応答」)の形式に着目したい。この位置で聞き手は、いくつかの相互行為上の課題に直面することになるだろう。第一に聞き手は、置き換えにより生じた話の広がりを回収し、その応答で連鎖を終了させる方向に向かわせることに志向するだろう。第二に聞き手は、話し手が「応答の追及」のいくつかのやり方のうち一つを選べるという条件において、じっさいになされた「応答の追及」の仕方が正しかったのかどうかを示すことになるだろう。第三に聞き手は、「応答の追及」がなんらかの意味で選好組織を組み込んだものであるなら、選好組織に志向しながら応答を返す必要があるだろう(平本, 2010)。本発表では、「追求の結果返された応答」を返す際に聞き手がこれらの課題をどのように解き、拡張された質問―応答連鎖を組織化していっているのかを明らかにしたい。

【文献】
平本毅(2010)「社会規範への多重的指向:社会規範への多重的指向:日本語会話における「選好の逆転」への反応の一形式」第83回日本社会学会大会報告資料
Pomerantz, A. (1984). Pursuing a response. In J. M. Atkinson & J. Heritage (Eds.),
Structures of social action (pp. 152-163). Cambridge: Cambridge University Press.

報告2:増田 将伸「インタビュー・コーパスにおける質問‐応答連鎖―「日常」を模した「制度」の中の相互行為―」

報告要旨

本発表では、言語研究の資源とするために作られた『日本語話し言葉コーパス(CSJ)』中の質問‐応答連鎖を取り上げる。CSJでは日常会話に指向して会話がなされるが、収録は実験的環境でなされており、インタビュー形式で進行する会話の質問者‐応答者の役割もほとんど固定的である。「日常」への指向性を持つ「制度」であるという点で、特徴的な会話であると言える。分析は主に疑問詞「どう」を含む質問についてなされる。(cf. 増田 2008)これを通じて、インタビューで連鎖を開始する際のプラクティスが議論される。具体的には以下の3点を取り扱う。

  1. “How are you?” についてのSacks (1975) の議論と対比させながら、CSJの会話開始部の質問‐応答連鎖の特徴を概観する。
  2. インタビューに特徴的なプラクティスとして、先行する発話や連鎖に対してコメントや要約を提示する定式化が挙げられる。(Heritage 1985, 好井 1999)前置きが付いた質問など、複数単位から成る質問の分析を通じて、CSJにおける定式化の様相を検討する。
  3. 主に(2)においてCSJ内の2種類のインタビュー音声の比較を行い、相互行為の組織化と場面性の関わりについて検討する。
【文献】
Heritage, John C. (1985) “Analyzing News Interviews: Aspects of the Production of Talk for an Overhearing Audience.” Teun van Dijk (ed.)
Handbook of Discourse Analysis Vol.Ⅲ: Discourse and Dialogue. Academic Press. pp.95-117.
増田将伸 (2008) 「どう」系質問‐応答連鎖における相互行為の諸相」. エスノメソドロジー・会話分析研究会2007年度研究例会口頭発表.
Sacks, Harvey (1975) “Everyone Has to Lie.” Mary Sanches & Ben G. Blount (eds.) Sociological Dimensions of Language Use. Academic Press. pp. 57-79.
好井裕明 (1999) 「制度的状況の会話分析」. 好井裕明・山田富秋・西阪仰(編)『会話分析への招待』(第2版)世界思想社. pp.36-70.

報告3:池田 佳子
「TVのニュースインタビューにおける質問―応答連鎖の一考察-応答ターンのデザインに着目して-」

報告要旨

政治家はニュース番組などのインタビューでいわゆる「メディアうけ」を狙った、時に批判的・挑戦的な質問を受けることがある。 昨今では、これらの質問をどのようにかわしていくか、政治家のコミュニケーション能力自体にその技術が必須とされるようになってきた。一方で「質問―応答」という連鎖の拘束力は強く、質問を「かわす」ことでその場の体裁を暫時的につくろったとしても、「(まともに)応答しなかった」という行動に対する評価が後から追っかけてくる。時には対話の最中に質問者s(例えばインタビューであればインタビューイや司会)から一度は回避した答えについてしつこく譴責されることもある(Pomerantz, 1984他)。ある時には、ジャーナリストやメディアにその「逃げ腰」な態度が批判され、間接的に支持率の低下などの世論へのダメージを引き起こすこともある。完全に逃避しても、そして真っ向から回答しても損をしてしまう為、「抗いながらも回答をする」という回りくどい行動を強いられることになる(Clayman, 2001; Heritage & Clayman, 2002他)。本発表では、インタビューにおける「質問―応答」の連鎖場面を検証し、この「応答に埋め込まれた抵抗(resistance to answer)」が政治家の(言語)行為の実践にどのように顕れるのかを考察する。

【文献】
Pomerantz, A. (1984) Pursuing a response. In J. M. Atkinson & J. Heritage (Eds.), Structures of social action (pp. 152-163). Cambridge: Cambridge University Press.
Clayman,S.(2001) Answers and Evasions. Language in Society 30(3): 403-442.
Clayman, S. & Heritage, J. (2002). The News Interview: Journalists and Public Figures on the Air. Cambridge: Cambridge University Press.

報告4:細田 由利&デビッド・アリン
「教育場面における質問と応答の連鎖に関わる優先組織」

報告要旨

本発表では小学校の英語授業における教師の質問に対する児童の返答を検証し、教育場面における質問と応答の連鎖に関わる2つの優先組織について論じる。

 質問―応答の連鎖では、現在の話者が次の話者の選択を行って質問すると選択された者に応答する権利と義務が与えられるとういう優先性が生じる(Sacks, 1987)。しかしながらStivers and Ribinson (2006)の最近の研究によれば、日常会話においては「選択された者が応答する」という優先性が「会話を前進させる」という優先性と衝突してしまった際には、会話の前進のほうが重視され、選択された者以外の会話参与者が選択された者のかわりに応答するということがあるようだ。

今回データとして分析したのは全国の小学校における英語授業、総計22クラスである。それぞれのクラスにはクラス担任教諭、英語を得意とする外国人指導助手(ALT)、および20名から30名程度の児童が授業参加しており、また約半数のクラスには英語教育サポーターを勤める大学生が数名参加している。

分析の結果、語学教室という社会組織特有とも思われる特徴が、上記の質問と応答の連鎖に関わる2つの優先組織に観察された。日常会話と異なり、語学教室の相互行為では、相互行為参与者達はいかなる場合も「選択された者が応答する」という優先性に志向を示し、それによって「会話を前進させる」という優先性は緩和されることがある、ということがわかった。