エスノメソドロジー・会話分析研究会: 2020年度秋の大会・短信

特別企画 シンポジウム 「ジェンダー研究とEMCA研究」

シンポジウム「ジェンダー研究とEMCA研究」は、2回の延期を経て、2020年11月14日にようやく開催されました。1回目の延期は台風の予報に対応した2019年の秋、そして2回目の延期はコロナ禍の深刻さがみえてきた2020年の3月でした。
シンポジウムでは、最初に鶴田幸恵氏(千葉大学)が登壇され、「トランスジェンダー現象を記述する:トランスジェンダー、性同一性障害、ノンバイナリー」というテーマで報告されました。フェミニズムのラディカル性は、トランス・セクシュアリティと切り離せないところにあるという問題意識から出発し、フェミニズムを支持するジェンダー研究をするのに、EMCAを道具とし、トランスジェンダー現象を記述することを研究することの意味をご自身の研究を振り返りながら提示されました。
次に小宮友根氏(東北学院大学)が登壇され、「フェミニストEMCA、フェミニズムのEMCA」というテーマで報告されました。EMCA研究とジェンダー研究はどのような関係を取り結ぶべきなのかという問いの下、フェミニスト会話分析の研究を中心に振り返った上で、社会現象において、性別カテゴリーがいかにレリヴァントになっているのかを探究する上で、手付かずになっているテーマが多くあると総括されました。その一例としてフェミニズム運動のEMCA研究の可能性を三里塚に関わった女性を対象としたご自分の研究を通して示されました。
コメンテーターの加藤秀一氏(明治学院大学)からは、お二人の報告が、フェミニズムとは何か〔何でありうるか〕、そしてフェミニズムの担い手は誰か〔誰でありうるか〕という二つの問いを含むフェミニズムへの反省という実践が、フェミニズムそのものの実践であることを示し、その研究の道筋を提示しているとのコメントがありました。コメンテーターであり同時に延期を経てシンポジウム開催者にもなった、私、池谷のぞみ(慶應義塾大学)は、二つの報告が、研究のトピックとインタビュー場面のトピックを同じものに設定することによって、ストイックに分析を進めることで、ガーフィンケルの晩年の方向性(ワークの研究)に寄せた形で議論を提示していると指摘しました。加えて、カテゴリーについての実践にこだわらないところでの「実践」に向けることの可能性についても言及しました。その後フロアからも質問やコメントがあり、全体としてフェミニズム研究のみならず、EMCA研究全般に広く示唆に富んだ内容となりました。報告者のお二人と、コメンテーターに感謝申し上げます。(世話人:池谷のぞみ)

小宮友根氏から

シンポジウムではジェンダー研究とEMCA研究の接点について、自分自身の研究も振り返って考える機会をいただきました。報告では、「外なる道徳秩序こそ社会学者にとって技術的神秘である」という(カントをもじった)ガーフィンケルの言葉をエピグラフに引いて、「性別」という現象のEMCA的記述にまつわる問題についてあらためて考えました。

報告中で述べたとおり、「性別」という現象の複雑さを考えたとき、(広い意味での)相互行為に対してその現象がどのように関連あるものとなっているのかについて、EMCA研究はまだそのごくわずかしか記述できていないように思います。またその記述が不可避に政治的、道徳的な指し手としての理解可能性を持つことをEMCA研究はいかに受けとめるべきなのかについても、もっと真正面からの議論が必要だとも思っています。そうした問題関心から、報告ではささやかな問題提起と、「フェミニズムのEMCA」という研究の方向性の提示をおこないました。

他方で、ガーフィンケルの言葉のうち、「技術的神秘」のほうには当日触れることができませんでした。こちらに注目すれば、道徳秩序の精巧さに対してどれだけ説得的な分析ができるのかという問題提起も可能でしょう。こちらもいずれまた機会があれば議論したいテーマです。

今後も、上記のふたつの事柄を切り離さないようにしながら、この領域について研究をしていきたいと思います。企画してくださった世話人の方々、当日貴重なコメントをくださった加藤先生、池谷先生と参加者のみなさまにあらためて感謝を申し上げます。