戸江 哲理、2018、和みを紡ぐ──子育てひろばの会話分析

目次と書誌


  • 2018年2月20日 発行
  • 4,800円+税
  • A5判・304ページ
  • ISBN 978-4-326-60303-9
  • 勁草書房 |

母親たちは子育てひろばで、つかの間のやすらぎを得るとともに、つながりの芽を育む。その和やかな雰囲気をもたらしているのは、他でもない母親たちのコミュニケーションである。そのしくみ、すなわち「和みの紡ぎかた」を会話分析によって解き明かす。(本書の帯から)

目次

1章 和みはどんなふうに紡がれるのか
2章 会話分析――方法として・領域として
3章 子育てひろばをめぐる問いと会話分析――育児不安・育児ネットワーク・スタッフの専門性
4章 和みが紡がれるところ――子育てひろばというフィールド
5章 やりとりが始まるしくみ(1)――糸口質問連鎖
6章 やりとりが始まるしくみ(2)――説明促し連鎖
7章 悩みを分かち合うしくみと助言のしくみ
8章 母親どうしがつながるしくみ
9章 しくみを貫く3本の糸――日常性・道徳性・専門性
結語 和みの紡ぎかた
糸を結ぶ
引用文献
索引

本書から

子育てひろばという場所が用意されていて,そこに子育ての母親たち(だけ)が集まると聞くと,私たちはそこでは何か特別なことがなされていて,そこで和みを紡ぐためにはそれに合わせて何か特別なコミュニケーションのテクニックが必要になると考えがちだ。だが,本書の検討から示唆されることはむしろその逆で,子育てひろばの活動の根幹をなしているものは,どこでもなされているような当たり前でありふれたものなのである。(p.221)

著者に聞く ── 一問一答

本書の構想・執筆期間はどれくらいですか? この本は、2011年に京都大学に提出した私の博士論文がベースになっています。この本が出るまでに、博士論文の提出から数えて6年半、子育てひろばでのフィールドワークを始めてからは12年近く経っています。ただ、本にしたいという気持ちは博士論文を書いている頃からすでにぼんやりとはもっていて、勁草書房とも2013年の秋にはその約束を交わしていました。
そこから4年半ということですね。 はい。出版できることが決まった翌年、幸いにも常勤職に就けたのですが、それと同時に研究のために使える時間が一気に減ってしまいました。それまでと立場が大きく変わったことはもちろんですが、(当時は自覚がありませんでしたが)私の仕事の要領が非常に悪いことも与っています。それでも就職して1年目の頃は、そのうちに仕事にも慣れて、執筆の時間もつくれるようになるだろうと先行きを楽観視していたのですが、2年目に入ってもその気配はなく、むしろ仕事は増えていったので(今思えば、たいした量ではありませんでしたが)、これではいつまで経っても本を出すことなんかできないと、(ようやく)気づきました。それで、それまでは原稿にはそれほど手を入れずに、主に構想を練っていたのですが、先のことはあまり考えないで、とにかくキーボードを叩きはじめました。2015年の秋頃でした。
執筆作業中のエピソードがあれば教えてください。 作業を進めているうちに、本を作るという作業の楽しさにのめり込んでいきました。装丁については、本を出せることになった時点ですでに理想を思い描いていて、イラストレーター(出口敦史さん)とデザイナー(上野かおるさん)は、私のほうで決めて、私から依頼を出しました。それ以外でも、見返しの紙を変えてみたり、章ごとの扉を入れてみたり、書体に凝ってみたりと、あちこちに細工を施していきました。体裁が予め決められている論文とは違って、本は自分のやりたいようにできる部分が多く、工夫の余地が大きいのです。アイディアを練ったり、いくつかのバージョンを作ってみたり、それらから選んだりといった作業が悩ましくも楽しく、やりがいがありました。本作りは物作りなのだなと実感しました。編集者の渡邊光さんが、僕のこだわりとわがままに寛容だったこともありがたかったです。
本書の「売り」は、どのようなところにあるとお考えですか? 本の「売り」ではなく、本を作るにあたって「心がけたこと」でもいいですか? それでよければ、「わかりやすい本にしたい」ということを、いちばんに挙げたいですね。章立てを「……のしくみ」で統一したり、章扉を用意したり、本を開かなくても帯でおおまかに各章の骨子を掴めるようにしたり、そして何よりも読みやすい文章になっているかを気にかけながら執筆していました。献本したかたからお礼のメールが届いたら、その返信に「明晰に、でも温かく、柔らかな文章を目指しました」といったことを書いているのですが、目指したのはそういう文章です。嬉しかったのは、博士論文の主査をしてくれた落合恵美子先生をふくめ、博士論文のほうも読んでくれた人たちが、「ずいぶん読みやすくなった」という感想を寄せてくれたことです。これは明らかに、就職してそれまでよりも多くの授業を担当し、ゼミで指導するようになって、「どうやったら上手く伝わるのか」という課題と日々格闘してきた成果です。博士論文を書き上げた後、すぐに本を出していたら、こういう文章、こういう体裁、そしてこういうタイトルにはなっていなかったはずです。その意味で、学生たちにも感謝しています。
戸江さんの本は博士論文がベースになっています。その経験をふまえて何か一言、お願いします。 とくに、まだ若い大学院生やポスドクの仲間たちに向けて、ということになりますが、博士論文は単著を出版する大きなチャンスです。その出版はまた、多くの場合、就職にも有利に働くに違いありません。博士論文の執筆は、大学院生やポスドクとしての「ゴールの見えない全力疾走」で、そろそろ息が上がってくる頃に姿を現す、長い上り坂だろうと思います。学部からストレートで進学してきた人にとっては、とくにそうでしょう。三十路近くまで、あるいは三十路を過ぎても安定した経済的な基盤がないというのは、控えめにいってかなり精神的に堪えます。筆が思うように進まず、審査担当の先生がたからのコメントへの対応も上手くいかず、気持ちが折れそうになることもきっとあると思います。そんなときに、「ここでの苦労が本のクオリティを良くすることにつながる」と発想できたなら、いくらか気持ちが楽になるのではないでしょうか。応援しています。そして、無事に立派な本が完成した暁には、研究例会や研究大会の書評セッションで取り上げさせてください(笑)

本書で扱われていること ── キーワード集

悩み語り、つながり、フィールドワーク、家族社会学、子ども家庭福祉