デイヴィッド・フランシス/スティーヴン・ヘスター、2014、エスノメソドロジーへの招待──言語・社会・相互行為

書誌と目次

家庭での会話から職場でのやりとり、科学研究の現場まで、人びとの方法論=エスノメソドロジー研究の実践方法を平易に解説する格好のガイドブック(著作の帯の内容紹介)

原著
訳者
  • 中河伸俊・岡田光弘・是永論・小宮友根

目次

1章 社会的相互行為、言語、社会
  • 社会的相互行為
  • 言語
  • 社会
  • 結語
2章 エスノメソドロジーをする
  • エスノメソドロジーとエスノグラフィー
  • エスノメソドロジーの実践
  • エスノメソドロジーの分析の原則
  • 本書の内容
3章 エスノメソドロジーと自己省察
  • 新聞の見出しを分析する
  • テレビニュースの意味を理解する
  • 結語
4章 家族生活と日常会話
  • 朝食をとりながらの会話(1)
  • 朝食をとりながらの会話(2)
  • 帰宅する
  • 結語
5章 公共の場所に出かける
  • スーパーへ歩いていく
  • 歩く
  • カテゴリー化と共在
  • 知らない人と話す
  • 行列を作る
  • 結語
6章 助けてもらうためにトークを使う
  • 自殺――頼りにできる人がだれもいない
  • 警察に通報すること
  • 結語
7章 教育を観察する
  • 大学の講義の組織上の諸特徴
  • 新入生受け入れ学級でのアイデンティティと相互行為
  • 教室での権力と権威
  • 結語
8章 医者にかかる
  • 医者にかかるという決定
  • 診療室で
  • 検診のときに親密性を管理する
  • 専門家支配の理論
  • 結語
9章 組織のなかで働く
  • 組織のなかで働くこと――最初の例
  • 活動のなかの組織
  • ルールを作動させること
  • 起業家の企業での意思決定
  • テクノロジーを作動させる
  • 結語
10章 科学を観察する
  • 科学知識の社会学
  • 社会学と科学の「問題」
  • 合理主義に対抗する
  • エスノグラフィーと実験室科学
  • 科学をエスノメソドロジーする
  • 結語
11章 エスノメソドロジーの原初的な性格
  • エスノメソドロジーはわかりにくいか
  • エスノメソドロジーは「不完全」か
  • エスノメソドロジーの「経験主義」
  • エピローグ
  • 参考文献
  • 訳者解説(小宮友根)
  • 訳者あとがき(中河伸俊)
  • 索引〔人名/事項〕

本書から:

かりに[本書での]私たちの招待を断らないで受け入れると決めたなら、エスノメソドロジーの探究への着手は、楽しさに満ちたものになるだろう。それだけではなく、私たちがそうだったように、あなたも、社会生活のさまざまな細部にどれだけ多くの秩序を見出すことができるのか、探究の対象になりうる現象の範囲がどれだけ幅広いものであるのかを知って、そうした社会生活の秩序の精妙さと豊富さに驚きを感じるに違いない。こうした経験から得られる喜びは、それだけで、エスノメソドロジーの観察にもとづく研究にたずさわることを正当化するに十分なものだろう。しかし、この結論の章での議論によってはっきりわかっていただけたと思うのだが、エスノメソドロジーにたずさわることにはまた、社会学そのものの方向転換に貢献するという意義もある。曇った視界と誤った二分法を永続させている、理論に駆動された主流の社会学の探究を離れて、社会生活がどのように作動しているのかを探るという課題を真剣に引き受ける社会学へ向かう改革の道が、そこに開かれているのである。(訳書 353頁)

翻訳者に聞く ── 一問一答(文責:中河)

本訳書を出版しようと思った動機やきっかけをお教えください。

1990年代の後半にマンチェスターを訪れた訳者の1人の岡田は、ウェス・シャロック氏や本書のシニアオーサーのフランシス氏とパブで話しているときに、本書の刊行の話を知りました。岡田と是永は、立教大学等でエスノメソドロジーの講義を担当するなかで、シラバスを遵守して15回授業するという形で「使える」教科書が必要だと感じており、そこでその刊行プランに強い関心を持ちました。是永が2004年に在外研究のためマンチェスター・メトロポリタン大学に滞在したときに本書が出版され、フランシス本人から献本を受けました。それを翻訳して、日本での授業に使えるものとしようという2人の思いが、この翻訳プロジェクトの出発点です。

構想・翻訳期間はどれくらいですか?

原著が刊行された年にはすでに岡田、是永、中河によって翻訳プロジェクトが立ち上がり、ナカニシヤ出版が刊行を引き受けてくれました。しかし、さまざまな理由から訳業ははかどらず、途中から小宮も作業に加わったものの、出版社に初稿を入稿できたのは結局、2013年春のことでした。

翻訳作業中のエピソードがあれば教えてください。

英米人(とりわけ英国人)の日常言語と日常知に根差した事例の提示やその自己省察的分析には、理解は(なんとか)できても、日本語に直すのがむつかしいケースがありました。とくに、出てくる英語の成員カテゴリーやその“述部”として使われる語の概念的な外延や内包が日本語のそれとずれている場合、しかし、教科書という性格上ものものしい対処をするのもためらわれるので、頭を悩ませました。日本語の文脈に移して訳した上でミニマムの注をつけたりもしましたが、それも万全とはいいがたい苦肉の策です。

あと、エスノメソドロジー語(エスノメソドロジストがよく使ういくつかのターム)を、文章から浮いたものにならないようできるだけ分かりやすく訳す、というのも、なかなか難儀でした。機械的な英語―日本語の一対一対応にせず、文脈によって柔軟に訳しわけるという方針に転換しようと腹をくくったのは、訳業がだいぶ進んでからのことでした。

学部や院の授業を念頭に置いて翻訳にかなり手をかけた結果、まだまだ反省点も少なくはないのですが、この種の翻訳としては、かなりわかりやすくかつ精確なものになったと自負しています。

本書の「売り」は、どのようなところにあるとお考えですか?

もちろん、大きな「売り」は、学部上級のレベルで使える初の教科書だということです(翻訳書であるため、授業で使いやすい低価格にできなかったというネックはありますが、でもなんとかここまで下げてくれた版元の努力に感謝したいと思います)。

エスノメソドロジーや会話分析の基本的な考え方を平易に紹介し、また、さまざまな領域での社会的事象についての基礎的な研究例をバランスよくかつ網羅的に紹介しているという点で、これまでに類例のないガイドブックだと思います。とくに、9章の「組織のなかで働く」や、5章の「公共の場所に出かける」で紹介されている研究の蓄積は、これまで日本ではあまり知られていなかったものですし、さらに、7章の「教育を観察する」の「教室での権力と権威」のセクションなども斬新で示唆に富むといえるでしょう。

各章末に Do It Yourself の課題がついており、授業用だけでなく、エスノメソドロジーの独習書としても使えます。

最後に、初学者だけではなく、エスノメソドロジーの研究や会話分析にある程度以上親しんできた人たちにも、このアプローチをとる研究の蓄積の全体像をつかみ、さらには主流の社会学との位置関係を考えてみるための手がかりとして役に立つだろうと思います。

言語学者にとくに読んでほしい箇所はありますか? 2章を読んでください。会話分析の拠り所であるエスノメソドロジーがどんな言語観と研究手順に則ったものなのか、それと各種のディスコース(談話)分析や、言語学に引き寄せた形で行われている“会話分析”とはどこが違うのかを、理解していただけるはずです。
社会学者にとくに読んでほしい箇所はありますか?

もちろん本書の全体を読んでほしいのですが、少なくとも 1、2、11章には目を通してください。11章に書かれている通り、エスノメソドロジーは米英の社会学界でさまざまに誤解されてきたわけですが、日本ではそれに加えてさらに、独自のある種「歪んだ」エスノメソドロジー理解が社会学の内外で流通してきたうらみがあります。以上の3つの章を読めば、そうした誤解や曲解を手軽に晴らすことができます。ルーマンの社会理論の場合と同じくパーソンズの(その弟子による)批判が原点だともいえるエスノメソドロジー研究が、「社会をどのように調べるか」をめぐってどんなオルターナティヴのアプローチを提起し、それに沿ってこれまで何をしてきたか、これから何をしようとしているのかを(それに対する賛否はともかくまず)正しく理解することは、社会学の「これから」を考えるにあたってきわめて意義深いと、少なくとも筆者は思います。

書評その他の情報

紀伊國屋書店書籍紹介ページ
【新宿本店】 注目新刊『エスノメソドロジ―への招待』

本書で扱われていること ── キーワード集

アイデンティティ、アカウンタビリティ、医師-患者関係、一貫性規則、文脈依存性、受け手に向けたデザイン、エスノグラフィ、懐疑主義、会話分析、科学知識の社会学、科学的発見、カテゴリーと結びついた活動、観察社会学、官僚制、規範、客観性、共在、教師の権威、行列、緊急通報、警察への通報、経験主義、見解表示連鎖、行為連鎖、、公共の場所、航空管制、構築主義、能力、参与観察、シカゴ学派、礼儀正しい無関心、主観性、常識的知識、人工物、診察室、身体の検査、新聞の見出し、物語、制度的場面におけるトーク、相互反映性、組織で働くこと、会話の順番交替、大学の講義、地下鉄の管制室、テクノロジー、テレビニュース、天文学上の発見、電子顕微鏡、トラブルの報告、日常会話、脳研究の実験室、発話交換システム、脈動星(パルサー)、浸されるという技法、分業、文法、ミクロとマクロ、見る者の格率、成員カテゴリー、固有の適切性、隣接ペア、ルール(規則)、ワークの研究