- 目次と書誌
- 本書から
- 訳者に聞く ── 一問一答
- 書評情報
- 本書で扱われていること ── キーワード集
目次と書誌
- A5判/344頁
- 発行 2011年01月
- 定価 3,570円(税込)
- ISBN978-4-260-01163-1
- 医学書院 |
医療現場の会話から何がわかるか?これまでにない視点で患者参加の実態と多様性に迫る!
- 原著
- Sarah Collins, Nicky Britten, Johanna Ruusuvuori, Andrew Thompson ed. (2007)Patient Participation in Health Care Consultations: Qualitative Perspectives,Open University Press.
解説I 本書の理解をより深めるための会話分析入門 |
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第I部 患者参加の概念とその研究方法に関する議論の状況 |
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第II部 さまざまな実践における患者参加 |
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第III部 患者参加の概念とその構成要素 |
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本書から:「日本語版への序」
会話分析で患者参加の実態と多様性に迫る!コミュニケーションが豊富な診療は良い診療なのか? 患者の積極的な医療への参加は、つねに推奨されるべきなのか?本書では、現在広く推奨されている「患者参加」の概念について議論。これまで研究されることが少なかった、ヘルスケア専門職と患者との相互のやりとりが浮き彫りに。会話分析を中心とした質的研究で、さまざまな場面でのコミュニケーションを検討し、患者参加の実態と多様性を明らかにする。(本書の帯の文章から)
翻訳者に聞く ── 一問一答
本訳書を出版しようと思った動機やきっかけを教えてください。 | 翻訳の動機としては、ヘルスケアの一般の研究者・実践者の方々に、「医療面接」の具体的な実践現場での会話を当事者たちの志向にそって分析することができる会話分析というたいへん有効なアプローチについて、知って欲しいと思ったことがあげられます。本書は,「患者参加」,つまりヘルスケアの領域で患者が自分のケアの過程にどのように関与するかという問題について,さまざまな研究方法を多面的に用いながら,統合的に理解しようという試みの書です。本書では、ヘルスケアの領域で、患者の思いが、医療専門職とのコミュニケーションの中でいかに取り上げられていくのか、という実践的な問題を、質的研究の様々な方法論、とりわけ会話分析のアプローチをつかって研究されています。会話分析がいわゆる制度会話の分析にもたいへん強力な方法であることは、EMCAのコミュニティーの中ではよく知られていますが、ヘルスケアの専門家一般の中ではまだまだ知られてはいません。特に、ヘルスケア専門職の方々は、ケアの実践をいかに向上させるかという難しい問題に日々直面しています。近年のヘルスケアの領域での質的研究方法への関心の増大には著しいものがあります。人のコミュニケーションは,繊細で豊かな意味やニュアンスを内包し,コミュニケーションの状況にも微妙に影響される複雑なものです。研究,教育,実践の現場でつねにこうした問題に関わらざるをえないヘルスケアの領域において,質的な研究方法への関心が高まることは自然なことといえるでしょう。本書では,インタビュー,観察,フォーカスグループ法,シンクアラウド法といった質的研究方法とともに,とりわけ会話分析によって,患者参加のさまざまな側面が経験的に探求されています。 |
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構想・翻訳期間はどれくらいですか? | 出版社に企画書をつくって持ち込んだのが、2009年の初頭ですから、約1年半程度の期間がかかりました。監訳者としては、学術書ですが、です・ます調を採用して、当然ですが、訳文もできる限り読みやすくすることに努力しました。 |
翻訳作業中のエピソード(苦労した点・楽しかったこと・思いがけないことなど)があれば教えてください。 |
原著のタイトルは Patient Participation in Health CareConsultations です。これを直訳すれば,「ヘルスケアのコンサルテーションにおける患者参加」となります。原著で consultation の語は,ヘルスケアの領域で専門職と患者が出会い,コミュニケーションを行うさまざまな現場を総括的にあらわすものとして使われています。このキーワードを、どのように訳するか悩みました。慣用的な日本語に当てはまり、かつ、様々な面接場面を横断する言葉として理解してもらうために、翻訳にあたって,ヘルスケア専門職と患者との会話のやりとりを研究対象として一般的に言及する際には,「医療面接」という言葉を用いています。ただし,読みやすくするために,個別のコミュニケーション場面,面接場面に関する説明や分析の翻訳では,本文の文脈に応じてなるべく慣用的な言葉であらわすように努めました(例えば,面接,診療,コミュニケーションなど)。ですから,本書では,このように違う言葉が使われてはいても,それらの言葉があらわす対象は,ヘルスケア専門職と患者とのコミュニケーション場面や面接場面として統一的な観点から検討されているということを,念頭においていただければと思います。また、会話分析の専門用語をなるべく使わないで翻訳する、ということも考慮しました。ただ、これはまだまだ不十分だとは思いますが。 |
社会学的(EMCA的でも可)にみて、本書の一番の「売り」はなんだと思いますか? |
ヘルスケアの社会学という観点からは、これまで重要なことと認識されながら十分に総合的に研究されてこなかった(特に日本では)「患者参加」ということの意味と意義について、様々な角度からアプローチされている点です。 EMCAの観点からは、たいへん専門的・実践的な含意を持つこのテーマを、会話分析の観点から検討して、更に、他の質的研究のアプローチとともに、会話分析を用いていて、患者参加という研究対象にアプローチしている点です。他の質的方法との「併用」という点では、議論や批判もあることでしょうが、一つの可能な試みとして、大きな意味を持っていると思います。 また、小さいことですが、冒頭に、会話分析のトランスクリプト記号のリストを挙げるのではなく、会話抜粋例に「吹き出し」をつかって記号を説明している頁を作ったことは一つの新機軸かもしれません。 |
EMCA初学者は、どこから読むのが分かりやすいと思いますか?また、読むときに参考になる本や、読む際の留意点があれば、教えてください。 |
初学者は、まず冒頭の「解説I 本書の理解をより深めるための会話分析入門」を読んで頂いたあと、第1章の総論を読んでください。そして、自分の興味のある章を読んでいけばよいでしょう。各章は、それぞれ一定の独立性を持っていますから、個別に読んでも読解に大きな困難はありません。特に、会話分析を主として用いたいくつかの章がありますから、EMCAに特に関心があれば、会話分析が医療面接のコミュニケーションをどのように分析しているか、ということに注目して、それらの章を読んでください。 また、末尾に置かれた各章の学習教材も是非自分で解いていって欲しいと思います。 |
実践家に特に読んで欲しい箇所はありますか? その理由は? |
ヘルスケアの実践家の方々には、特に会話分析による分析が行われている諸章を読んで頂いて、自分たちの実践的課題が、どのように会話分析によって解明されているか(あるいは、されていないか)ということを検討して頂ければと思います。 ヘルスケアの実践家の方々にとっては、全ての章が、日々のヘルスケア実践の理解に資するはずです。 また、特に、巻末の学習教材は、本書の研究方法、特に会話分析の方法とその知見とを、ご自分の日々の実践に応用していくことの大きな助けになるはずです。 |
書評情報
- 小山幸代(北里大学看護学部教授)
- 書評「会話分析が導く患者参加へのアプローチ」看護研究 Vol.44 No.3 317ページ[→医学書院]
本書で扱われていること ── キーワード集
医学の声、意思決定の共有、意思決定への患者の影響力、医師中心主義、医療的出会い、医療面接、受け身の患者モデル、開始連鎖、会話分析、関係性中心のケア、看護業務、看護師のコミュニケーション、看護師の相互行為、看護コミュニケーション、看護師・患者間、コミュニケーション、患者の自律性、患者の役割、患者とケア、情緒的相互性、患者が希望する関与、患者関与、患者参加、患者訓練、患者参加の意味、患者参加の機会、患者参加の構成要素、患者参加の定義、患者参加を促進する要因、患者参加を阻害する要因、患者中心の医療モデル、共感、医療面接、医療コミュニケーション、質的研究、質的研究方法、情緒的相互性、生活世界の声、生活世界、相互行為、相互行為論、エスノメソドロジー、他者定式化、対等性、医師のパターナリズム、フォーカスグループ、質的研究、面接場面、要約定式化、ラポール、行為連鎖、医療面接の会話分析、ヘルスケアの会話分析