- 目次と書誌
- 本書から
- 著者たちに聞く ── 一問一答
- 書評情報
- 本書で扱われていること ── キーワード集
目次と書誌
本書は、日本語の相互行為を扱った「会話分析」の本格的な仕事の1つだ。産婦人科医療における、医療従事者と妊婦・患者とのやりとりを直接ビデオに収録し、目の向きから、手の動き、細かなことばの振動まで、やりとりの細部に目を凝らす。そこに見えてくるのは、縺れ合うことばとからだと道具が、互いの意味を担い合い、鍛え合う様子にほかならない。見るとは、触れるとは、訴えるとは、聞くとは、……どういうことなのか。
はじめに | 西阪 仰 |
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トランスクリプトの記号 | |
序章 会話分析と女性医療の社会学 | |
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西阪 仰 |
第1部 道具と相互行為 -環境のなかの身体- | |
1章 技術的環境における分散する指し示し -超音波検査における相互行為- | |
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西阪 仰 |
2章 非技術的環境における指し示し -経膣触診における相互行為- | |
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西阪 仰 |
3章 診療記録媒体への指し示し -婦人科カウンセリングにおける相互行為- | |
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高木智世 |
第2部 女性医療における相互行為の秩序 | |
4章 婦人科カウンセリングにおける「心の問題」をめぐる問題 | |
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高木智世 |
5章 不妊治療方針に関する提案の構造 | |
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川島理恵 |
6章 不妊治療における患者意思の立ち現れ方 | |
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川島理恵 |
7章 妊婦が心配事を語るとき -非正当的位置における防御的問題提示について- | |
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西阪 仰 |
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本書から:
本書は,産婦人科の医院,総合病院の産婦人科外来,および助産院において,医療専門家(医師,助産師,看護師)と妊婦もしくは患者との相互行為(問診や検査)を扱ったものである.2002年から2004年にかけて,著者たちは,機会があれば,ビデオを抱えて産婦人科医院や助産院を訪れた.以下の諸章は,そのとき録画したものを詳細に分析することにより,産婦人科医療における,あるいは医療におけるやりとり,あるいは,そもそも人間同士のやりとりは,いったいどのように組織されているのか,その一端を明らかにしようとするものである.(p.15)とりわけ産婦人科医療の現場において,人間の身体は,技術と直接連接し,技術に曝される.技術的な環境において(妊婦や患者らの)身体がどのように構造化され,さらに相互行為がどう構造化されていくのか.また産婦人科における医療専門家と妊婦・患者のやりとりでは,セクシュアリティにまつわる微妙な問題が語られることになる.医療専門家と妊婦・患者は,その相互行為の具体的な展開を通して,それぞれ,問題をどう提示するか,説明をどう組み立てるか,治療方針をどう提案するか,あるいは,この提示された問題・説明・治療方針をどのように受け止めていくか.このような問を導きの糸としながら,産婦人科医院や助産院でビデオによる取材を続けてきた.(p17)
著者たちに聞く ── 一問一答
本書をまとめようと思った動機やきっかけを教えてください | 著者は,それぞれ社会学者や言語学者という立場から現代社会における科学や技術,道具の意味,また現代のおける「心」を取り巻く環境と言語構造,女性医療実践のあり様を明らかにすることに興味を持っていました.また,全員が共通して人と人の関わり,すなわち相互行為を中心とした研究を進め,会話分析という手法を採用してきました.女性医療というフィールドでは,その相互行為から見えてくるものが,それぞれがそれぞれの立場から見て,とても複雑で鮮烈な意味をもっていました.「まずは,そこで何が起き,何が行われ,何が知覚されているのか,を見極めたい(本書,32p)」,このようなきっかけから本書をまとめることになりました.(川島) |
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構想・執筆・編集期間はどれくらいですか? | 構想は2001年から,それ以前にも身近に行われていた遺伝子技術に関する研究に影響され,産婦人科医療における相互行為に着目し始めました.調査期間はおおよそ3年間,執筆に4年間,編集期間に1年ほどかかりました.(川島) |
編集作業中のエピソード(苦労した点・楽しかったこと・思いがけないことなど)があれば教えてください | 最初に調査協力者を募る段階が一番大変でした.医療関係者の中で社会学的な調査に興味を持ってくださる方は少なく,またビデオ撮影となると特に産婦人科医療というセンシティブな現場ではとても難しいと感じました.その中でこの研究の主旨を理解してくださり協力してくださった方々に,とても感謝しています.実際に撮影が始まると,現場の雰囲気が直に感じられ,とても楽しいものでした.ただ,避けられない事ですが,患者さんの感じているつらさ,不安,持って行きようのない悲しみを感じるときはとてもつらく思いました.そうした現場で感じたことを,研究として汲み取れるように執筆段階では苦労しました.(川島) |
社会学的(EMCA的でも可)にみて,本書の一番の「売り」はなんだと思いますか? | 「会話分析」を駆使し,現場の相互行為を描き出している点でしょうか.会話分析と聞くと主に会話,語りのみに注目すると思われがちですが,知覚やジェスチャー,視線など総合的に相互行為を分析することが出来ます.本章では,前半部分で,特に相互行為における知覚や空間の構造化に着目して分析を進めています.また会話分析を手がかりに,医療現場における「精神」といった概念の展開や医療的決定のプロセス,問題提示の方法を明らかにしています.(川島) |
EMCA初学者は,どこから読むのが分かりやすいと思いますか? また,読むときに参考になる本や,読む際の留意点があれば,教えてください | 第1章では,会話分析にあまりなじみのない方にもわかるように,分析で使われている用語などに言葉を補って説明を加えてあります.より詳しくは,それぞれの章で参照されたものをご参考ください.付録として添付したデータ収集の際の同意書やデータ使用のガイドラインなどは,こういった研究を将来進められる方の参考にもなるかもしれません.(川島) |
言語学者に特に読んで欲しい箇所はありますか? その理由は? | この本で提示されている分析はいずれも、ことばを用いることそれ自体がすなわち医療の実践であることを、ぎりぎりまで追及し、可能な限り厳密に示すことを試みたものです。特に第2部は、「ことばのやりとり」が焦点になっています。例えば、極めて個人的なことに関わる(と一般的にみなされる)事柄も、それを語ることはすなわち、徹頭徹尾、社会的・相互行為的現象であることを端的に示しているのではないかと思います。ことばを用いるということはいかなることか、という根源的な問題に関心のある読者の方にとって刺激的な議論になっていれば嬉しく思います。(高木) |
実践家に特に読んで欲しい箇所はありますか? その理由は? | 本書は,特に医療関係者の方に「こうすればいい」といった提案や助言を目指して書き始めたものではありません.ただ本書全体を通して,その場で行われていることを明らかにするという基本的な構えで分析を進めました.ここで示された「ありのまま」の描写が,医療実践者の方々が日々感じていることを改めて見つめ直す機会になればいいと思います.(川島) |
書評情報
書評
- 森 純子, 2010, 「書評西阪 仰・高木 智世・川島 理恵著『女性医療の会話分析』」, 社会言語科学, 12(2), 39-42