南出和余・秋谷直矩、2013、フィールドワークと映像実践──研究のためのビデオ撮影入門

書誌と目次



  • 2013年12月刊行
  • 定価1,080円(税込)
  • A5判・120頁
  • ISBN-13: 978-4863390485
  • ハーベスト社 |

本書は、文化人類学と社会学の現場でビデオがどのように使われているかを説明することをとおして、実践的なビデオ撮影・ビデオ利用入門書となることを意図している。ビデオを利用する目的から撮影許可証の作成、肖像権利用の許可証の作成から実際のビデオ作品の製作・分析、ビデオ撮影の技術までをわかりやすく解説している。

目次

第1章 フィールドワークと映像 (南出和余・秋谷直矩)
  1. はじめに
  2. フィールドワークとは何か
    • 2.1.人文社会科学におけるフィールドワーク
    • 2.2.Whatを記録する
    • 2.3.Howを記録する
    • 2.4.WhatとHowの「厚い記述」
  3. 「記録」の映像実践
    • 3.1.記録のテクノロジー
    • 3.2.フィールドワークにおけるビデオカメラの有用性
    • 3.3.民族誌映画として表現する
  4. 映像を介したメディアリテラシー教育の可能性
  5. 本書の構成
第2章 撮影倫理 (南出和余・秋谷直矩)
  1. 調査する/されること
  2. 撮影許可をとる
    • 2.1.撮影許可書(承諾書)をとる
    • 2.2.撮影許可書の作成
    • 2.3.ラポールの重要性
  3. 撮影中の倫理
  4. 撮影後の倫理
    • 4.1.肖像権に関する覚書
    • 4.2.著作権に関する覚
    • 4.3.データの管理
  5. 付記
第3章 観察のための撮影 (秋谷直矩)
  1. なぜビデオカメラを使うのか?
  2. 撮影前の取り組み
    • 2.1.背景
    • 2.2.撮影許可を得る
    • 2.3.聞き取り・資料収集による「活動全体」の把握
    • 2.4.撮影場所を決める
    • 2.5.撮影機材の設置の工夫
  3. 撮影の方法
    • 3.1.録画ボタンを押せばいいだけ?
    • 3.2.撮りながら観察する
    • 3.3.調査の途中でフォーカスが定まる/絞られるということ
  4. 分析をする: 事例「協調的に作業を進めるために情報を共有/管理すること」
    • 4.1.「実際にやっていること」を記述すること
    • 4.2.配布資料への注目
    • 4.3.場面の説明
    • 4.4.やり取りのなかの配布資料
  5. レポートをまとめる
  6. おわりに
第4章 記録のための撮影 (南出和余)
  1. 映像で記録するということ:何のために撮るか
  2. 企画:何を撮るか、何を伝えたいか
    • 2.1.テーマを決める
    • 2.2.調査の実施
    • 2.3.被写体となってくれる人びととの関係
    • 2.4.撮影の意図(メッセージ)
    • 2.5.作品構成(起承転結)
  3. 撮影
  4. 編集:作品にするということ
    • 4.1.ストーリーを構成する
    • 4.2.解説・解釈を補う
    • 4.3.タイトルとクレジットを付ける
    • 4.4.映像上映
第5章 撮影の技術 (南出和余)
  1. 必要な機材の準備
    • 1.1.ビデオカメラと記録メディア
    • 1.2.予備のバッテリー
    • 1.3.広角レンズ
    • 1.4.マイク
    • 1.5.ライト
    • 1.6.三脚
    • 1.7.パソコンと映像編集ソフト
    • 1.8.保存用外付けハードディスク
  2. カメラの持ち方:安定した映像を撮るために
  3. カメラの動かし方
  4. ショット
    • 4.1.大きさ
    • 4.2.撮影目線によるイメージ
    • 4.3.アングル
    • 4.4.フレームのバランス
    • 4.5.場面の切り替え
  5. インタビューの撮り方
    • 5.1.カメラの位置
    • 5.2.インタビューの話し方(日常の会話との相違)
    • 5.3.ホワイトサウンドに注意
ビデオ撮影:あんな失敗、こんな失敗
参考文献
あとがき/謝辞
索引

本書から:

本書は、フィールドワークをベースとした研究活動における、映像活用のプラクティカルなガイド本である。ビデオカメラが比較的容易に入手できるようになった結果、ビデオカメラを手にフィールドに出かける研究者が増えている。研究者たちは、「記録」のツールとして、また表現発信媒体として、ビデオカメラを活用しようとする。言うまでもなく、それは、それぞれの研究をより進めるために、ビデオカメラが有用だと判断されたからである。では、ビデオカメラを用いることでどのような調査が可能になり、どういった点で研究が前進したのだろうか。本書では、目的に応じたビデオカメラの有用性と、それに準じた使用法について解説する。(P6)

著者に聞く ── 一問一答

本書をまとめようと思った動機やきっかけを教えてください 人文社会学系の学術書を広く出版されているハーベスト社さんから、研究における映像活用についての本を書かないかとご提案頂き、著者を引き合わせてくださった。
構想・執筆・編集期間はどれくらいですか? 約1年
編集作業中のエピソード(苦労した点・楽しかったこと・思いがけないことなど)があれば教えてください 「研究に映像を活用する」という点では両著者に共通点があったものの、ハーベスト社小林さんの紹介で初めて顔を合わせ、互いの映像活用経験について共有した際には、その手法の違いから、いかに1冊の本にするか正直なところ想像がつかなかった。しかし議論を重ねるなかで、研究に映像を用いる際の論点に多くの共通点が見出され、学問領域を超えた可能性を追求できたのは大きな充実感となった。
本書の「売り」は、どのようなところにあるとお考えですか? 研究に映像を活用することの意義と注意点を述べるとともに、映像活用をより具体的に想像してもらうために、各著者の経験を事例としてできるだけ詳細に紹介した。研究活動の過程を知ってもらえるのも本書の売りの一つと考えている。
実践家に特に読んで欲しい箇所はありますか? その理由は? 第2章「撮影倫理」は調査倫理にも関係している。研究者が(映像を介して)対象とどのように向き合っているかを知ってもらえれば幸いである。
独学者にとくに読んでほしい箇所はありますか? またその理由は? 理念や理論、方法論について学べる本や論文は多い。また、それらに対するアクセス性も上がっている。その意味では、独学者の学習環境は向上している。一方、独学者に対して大きな壁になるのは、読んだ本や論文の著者たちが何をいつどのように気にかけ、そして実際にどのような手つきでいかなる道具を用いて研究を進めているのかよくわからないということだろう。したがって、ちょっと自分でもやってみようと思っても、その一歩目すらなかなか踏み出せないということもあるはずだ。本書はそのような人たちにとって、「なるほど実際にこうやっているのか」と理解してもらえるような本になっていると思う。本書を読んだあとに、再び映像人類学や、ビデオデータを扱っているエスノメソドロジー・会話分析研究の本や論文に戻るというのもひとつの可能な読み方かもしれない。そうした結果、「このような研究をするなら、じゃあこうすればよいかな」と想像をめぐらすことができるようになるはずだ。それは、「実際に自分でもやってみる」の一歩目を踏み出すひとつのきっかけになるだろう。
どのような方に、どのような仕方でこの本を読んでほしいとお考えですか? また読む際の留意点がありましたら、教えてください。 第2章「撮影倫理」は調査倫理にも関係している。研究者が(映像を介して)対象とどのように向き合っているかを知ってもらえれば幸いである。

書評情報

本書で扱われていること ── キーワード集

映像、ビデオカメラ、人類学、エスノメソドロジー