高田 明・嶋田 容子・川島 理恵編、2016、子育ての会話分析──おとなと子どもの「責任」はどう育つか

目次と書誌

  • 発行 2016年2月
  • 定価 本体3,800円+税
  • 978-4-812-21527-2
  • 昭和堂 |

会話分析を子育ての現場に応用することは,まさにhappy marriage(幸せな組み合わせ)である.会話分析が養ってきた細部への観察力は,子育ての実践における小さな言葉の数々の重要性をつむぎだすことにうってつけなのだ.本書で紹介されている研究は,会話分析の利点をフルに活用し,子育ての機微を繊細に捉えている.その分析は,単に学問的な意義だけではなく,実践的な示唆も含んでいる.それは,親と子どもの相互行為を分析することで,両者が共に「何か」を育んでいく様子を明らかにすることができるからである(川島理恵: 本書「あとがき」(pp.229-230)より).

目次

はしがき(嶋田容子)
序章  養育者-子ども間相互行為における「責任」の形成(高田 明)
第Ⅰ部 養育者-子ども間相互行為におけるトラブルの解消
第1章 触っちゃダメ――2つの「注意」と責任の発達(高梨克也)
第2章 言うこと聞きなさい――行為指示における反応の追求と責任の形成(遠藤智子・高田 明)
第3章 ん?なあに?――言い直しによる責任の形成(黒嶋智美)
第4章 養育者-子ども間の会話における謝罪表現の言語的社会化(マシュー・バーデルスキー)
第Ⅱ部 養育者-子ども間相互行為における感動
第5章 子どもと声を合わせたら――声と声との応答責任(嶋田容子)
第6章 会話のはじめの一歩――子どもにおける相互行為詞「よ」の使用(森田 笑)
第7章 家族をなすこと――胎児とのコミュニケーションにおける応答責任(川島理恵・高田 明)
第8章 膝に抱っこして遊ぶ姿勢――共に視て共にふるまう身体と相互行為秩序(高木智世)
あとがき(川島理恵)

本書から:本書「はしがき」(p.i)より

この本にまとめられた研究プロジェクトは、月に一度、十数軒のご家庭の日常を見つめることから始まった。ご自宅を訪問しては撮影、そしてビデオを繰り返し見る。気になるほんの数分を取り出して研究チームで議論、議論、議論……。撮影されている方にとってはささいな一言、さりげない仕草に、私たちは喰い下がり頭を悩ませる。その議論の1つ1つが私たち研究者の一歩一歩となり、さまざまな問いと結論が、この本の基となった。(嶋田容子)

著者に聞く ── 一問一答

本書を出版しようと思った動機やきっかけを教えてください. 人類学、社会学、心理学、言語学、認知科学などを専門とするメンバーからなる私たちの研究グループでは、
2007年度から日本をはじめとするさまざまな文化的集団において養育者-子ども間相互行為の縦断的なデータ収集を行い、
日常的な子育ての実践がどのように組織化されているのかについて議論を繰り返してきました。
研究の成果はこれまで、おもにそれぞれのメンバーが活動する分野の学術雑誌で発表してきましたが、
そのエッセンスを子育てに関わるより多くの方々に向けて発信したいという想いは、常に私たちの念頭にありました。
このたび(株)昭和堂さんがこの想いを受け止めてくださったおかげで、本書を世に問うことが可能となりました(高田 明)。
構想・執筆期間はどれくらいですか? 本書については上記のデータ収集を始めたときから構想を温めてきましたから、約10年ということになります(高田 明)。
編集作業中のエピソードがあれば教えてください。 子育ての現場では大小さまざまなトラブル、そしてしばしばそれを上回る感動に出会います。
また「あとがき」でもふれられているように、この研究が進む中で、複数の編者・執筆者が自ら子育てに従事するようになりました。
そのせいか、データの分析や執筆をしているときにも、そこで起こっている出来事に惹き込まれていくことが多々ありました。
本書の執筆・編集では、そうした一期一会の経験をできるだけたくさんの人々にわかる言葉に置き換えることにもっとも苦心しました(高田 明)。
本書の「売り」は、どのようなところにあるとお考えですか? 本書の編者・執筆者はそれぞれ異なる専門分野の第一線で活躍する研究者ですが、その一方で、本書で用いられている大規模なデータセット、および会話分析という主要な分析視角を共有しています。
これによって、さまざまな現象が絡み合い、私たちの社会性の源泉についてたくさんの示唆を与えてくれる子育てについて、非常に生産的な共同研究が可能になりました(高田 明)。
言語学者にとくに読んでほしい箇所はありますか? またその理由は?
  • 「第2章 言うこと聞きなさい:行為指示における反応の追求と責任の形成」
  • 「第4章 養育者―子ども間の会話における謝罪表現の言語的社会化」
  • 「第6章 会話のはじめの一歩:子どもにおける相互行為詞「よ」の使用」

これらの章では、言語学ではしばしば周辺的なものとして位置づけられてきた言語的アイテムが、相互行為の組織化にあたってはきわめて重要な役割を果たすこと、
また子どもは早くからその用法に習熟していくことが示されています。

認知科学者にとくに読んでほしい箇所はありますか? またその理由は?
  • 「第1章 触っちゃダメ:2つの「注意」と責任の発達」
  • 「第5章 子どもと声を合わせたら:声と声との応答責任」

これらの章では、コンピュータによる計算をメタファーとして用いた認知科学的なアプローチでは見えてきにくい、
生態学的な環境に埋め込まれた知覚や個体の身体的境界を越えて成立する情動的な交流を考察の主題としています。
こうした考察によって、現在の認知科学の限界を超えるような研究枠組みを構想することが可能になると思われます。

実践家にとくに読んでほしい箇所はありますか? またその理由は?
  • 「序章 養育者-子ども間相互行為における「責任」の形成」
  • 「第3章 ん?なあに?:言い直しによる責任の形成」

子育てに関わる実践家が日々実感しているトラブルや感動は、方法論的な制約から必ずしも専門的な研究の俎上にあがってきませんでした。
序章で紹介する会話分析の手法、とりわけ第3章で注目する修正(repair)に関わる論法は、こうした方法論的な制約を乗り越え、子育てに従事する当事者の視点に寄り添った研究を進めていく道筋が具体的に示されています。

本書で扱われていること ── キーワード集

子育て、会話分析、責任、言語的社会化、身体