- 目次と書誌
- 本書から
- 著者に聞く ── 一問一答
- 書評情報
- 本書で扱われていること ── キーワード集
目次と書誌
シゴトの現場で何が起こっているのか?寿司屋のカウンター、ガンの相談電話、緩和ケアの痛みの共有、航空管制のリスク管理、リフォームの現場、ICT機器の利用現場、ビジネスミーティング…共同作業とコミュニケーションの中で実践される活動を丹念に描く。
目次:
序章 エスノメソドロジーとワークプレイス研究の展開(秋谷直矩・水川喜文) |
セクション1:サービスエンカウンター/カスタマーサービスというフィールド |
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セクション2:組織コミュニケーションのデザイン |
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セクション3:プロフェッションと実践の中の道具/メディア |
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セクション4:メディアとデザインのインタフェース |
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あとがき/人名索引/事項索引 |
本書から:
本書は「働くこと」を対象にしたエスノメソドロジー研究――「ワークプレイス研究」――の論集(コレクション)である。ここでいうワークプレイス研究とは、仕事/労働の現場やそこでのコミュニケーションに焦点を当てたエスノグラフィーやフィールドワークを用いた研究を指している。これらは、労働場面におけるテクノロジー/情報技術の利用を契機に開始され、コミュニケーション・システムの構築や共同活動の支援という方向を持って、人びとが共に働く実践研究対象としてきた(Luff et al. 2000)。本書では、その中心的な研究手法であるエスノメソドロジーを用いた研究論文を集めている。(本書p.2)
著者に聞く ── 一問一答
本書を出版しようと思った動機やきっかけを教えてください. | 海外では70年代以降からワークプレイスにおけるエスノメソドロジー研究が蓄積しており、国内でも90年代以降、ロボット研究や、医療、福祉などの様々な分野における協同研究の成果がありました。しかし海外の研究動向を紹介し国内の研究成果をまとめた著作がなかったため、研究の手法やその意義が見えにくい状況にありました。こうしたなか、マーケティングやワークフローのコンサルティングの分野において、ビジネスエスノグラフィーとしてのエスノメソドロジー研究が広く知られるようになってきました。そこで、アカデミックな関心を持つ読者層だけでなく、ビジネスに携わる人たちにも広く訴えるような、コンパクトな入門書が必要であると考えたことがきっかけです。 |
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構想・執筆期間はどれくらいですか? | 企画の構想自体は2013年の春にはすでにまとまっておりましたが、執筆依頼~原稿の修正、~校正など、出版に至るまでは4年かかりました。 |
編集作業中のエピソードがあれば教えてください。 |
包括的論文や書き下ろしの論文の執筆が進まないことは、出版の遅れの主な原因でした(陳謝)。また、既発表論文をもとにした原稿については、より適切で主旨が伝わりやすい論文へと修正する過程で、工夫と熟慮が必要でした。編集作業上では、現場のことを知らないとなかなか理解できない専門家実践が多いため、読者にとってのわかりやすさに特に気を遣いました。図表やトランスクリプトが多いこともあり、入稿以降の作業も思った以上に難航し、執筆者の方々に逆に励まされてしまったことには、申し訳なくも心から感謝しています。(五十嵐) 本書の構想時は、国内のデザインスクールやものづくり系の組織、あるいは労働研究の機関等から話題提供や講演、講義のお話をいただく機会が個人的に少しずつ増えてきていたところでした。おそらく、IDEO等の“Fieldwork for Design”を掲げたコンサルティングファームの取り組みの周知と、それに付随した「デザイン思考」や「ユーザーエクスペリエンス」といったタームが流行したことが背景にあったかと思います。それから本書出版までの約4年の間にブーム自体は落ち着きましたが、これまで国内においては未開拓であった、社会学や文化人類学の訓練を受けた人びとによるサービスデザインや情報技術開発のためのエスノグラフィカルな調査の価値がたいぶ知れ渡った一方で、素人が見よう見まねでやるしかなく現状専門的知識を有した担い手がいないという問題や、価値はわかっても学習方法・機会がないという声を本書準備中に幾度となく聞く機会がありました。そうした声の存在は、本書の編集作業の大きな励みとなりました。(秋谷) |
本書の「売り」は、どのようなところにあるとお考えですか? |
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言語学者にとくに読んでほしい箇所はありますか? またその理由は? | 会話分析が用いられている章(1章2章3章など)はもちろんですが、それ以外の章(6,8,9,11章など)にも注目してほしいです。協働作業におけるコミュニケーションは、その場のメディアといった環境や身体と結びついたワークフローを前提として生み出されていきます。本書には、エスノメソドロジー研究の視点によって、話された言葉だけでは分析できない実践(管制官同士のメディア媒介とした無言のやりとりや、職人によるジェスチャーを多用した説明など)が多く含まれており、伝統的な言語学理論やコミュニケーション論では分析しにくい相互行為のありようを捉えることに成功していると思います。(五十嵐) |
実践家にとくに読んでほしい箇所はありますか? またその理由は? |
本書の面白さは、さまざまな現場の働き方、コミュニケーション・インタラクションの特徴が見渡せることだと思います。私は教育現場を研究していますが、そこでの教師の働き方は、当然ながら、職人や管制官のそれとは大きく違います。多様な現場を見渡すことで、ある分野や現場の働き方の特徴や専門性を考えるヒントになると思います。(五十嵐) 「仕事における共同作業」は、経済学、経営学、社会学、情報学など分野の垣根を超えて連綿と議論されてきた古くて新しいトピックです。継続的に議論されてきた理由は、分業化の進行、共同作業支援のための情報技術の発展、働き方に関する制度の変容といった理由によって、そのかたちが様々に変化してきたことによります。これらの変化を敏感に捉えつつ、個々の職種や職場のユニークネスを明らかにすることは、当該トピックに関心がある研究者のみならず、実践的関心(サービスデザインやものづくり、職場改善等)がある実践家にとっても非常に重要なことだと思います。ワークプレイス研究――もといエスノメソドロジーは、この課題に対して明確な方針と態度をもってこれまで実績を積み重ねてきました。本書はその歴史と実践事例をまとめたものです。自身が関心を持つ活動や現象、あるいは職種、業務形態に関連する章と、序章及びイントロダクションを併せて読んでいただくと、「仕事における共同作業」を捉えるためのひとつの「ものの見方」が得られると思います。(秋谷) |
書評情報
本書で扱われていること ── キーワード集
ワークプレイス、協働作業、メディアを媒介とした相互行為、顧客コミュニケーション、サービスエンカウンター、組織コミュニケーション、実践のデザイン、インタフェースデザイン