串田秀也・ 平本 毅・林 誠、2017、会話分析入門

目次と書誌

  • A5判・352ページ
  • ISBN-10: 4326602961
  • ISBN-13: 978-4326602964
  • 出版日:2017年7月
  • 出版社:勁草書房 |

本書は入門者向けの会話分析の教科書です。内容的に平易でありつつも、会話分析のエッセンスと面白さが十分に伝わるように作り込みました。会話分析の考え方、方法論、基礎知識、応用事例の紹介がコンパクトに詰まった構成になっています。

目次:

まえがき
データについて
第1章 会話分析とは何か
  • 第1節 会話分析の研究対象
  • 第2節 会話分析の主要な学問的背景
  • 第3節 社会をありのままに観察する科学
  • 第4節 会話分析の主要な研究主題と本書の構成
  • 【読書案内】
第2章 行為の構成と理解
  • 第1節 はじめに
  • 第2節 認識可能な行為の構成
  • 第3節 行為構成の諸相
  • 第4節 結論
  • 【読書案内】
第3章 分析の手順と方法論
  • 第1節 データを集める
  • 第2節 書き起こしをする
  • 第3節 分析する
  • 第4節 構築した記述を見直す
  • 第5節 研究成果をレポートや論文にまとめる
  • 第6節 まとめ
第4章 連鎖組織
  • 第1節 はじめに
  • 第2節 隣接対
  • 第3節 隣接対の拡張
  • 第4節 データに切り込む糸口としての連鎖組織
  • 第5節 結論
  • 【読書案内】
第5章 順番交替組織
  • 第1節 順番交替
  • 第2節 会話の順番交替組織
  • 第3節 オーバーラップとその解決
  • 第4節 まとめと順番交替の諸相
  • 【読書案内】
第6章 発話順番の構築
  • 第1節 はじめに
  • 第2節 先行文脈との結びつきを示す発話順番の組み立て
  • 第3節 後続文脈を形づくる発話順番の組み立て
  • 第4節 TCU構築における話し手と聞き手の相互行為
  • 第5節 おわりに
  • 【読書案内】
第7章 物語を語る
  • 第1節 会話の中の物語
  • 第2節 物語の開始
  • 第3節 物語の展開と聞き手の参加
  • 第4節 物語の終了と聞き手の反応
  • 第5節 複数の語り手による物語
  • 第6節 まとめ
  • 【読書案内】
第8章 修復
  • 第1節 はじめに
  • 第2節 修復の対象
  • 第3節 修復の過程
  • 第4節 他者修復開始の発話形式
  • 第5節 修復と行為
  • 第6節 おわりに
  • 【読書案内】
第9章 表現の選択
  • 第1節 はじめに
  • 第2節 人の指示
  • 第3節 誇張された表現と正確な表現
  • 第4節 結論
  • 【読書案内】
第10章 成員カテゴリーの使用
  • 第1節 はじめに
  • 第2節 成員カテゴリー化装置
  • 第3節 行為の資源としてのカテゴリー化
  • 第4節 会話分析におけるカテゴリー化の分析
  • 【読書案内】
第11章 全域的構造組織
  • 第1節 はじめに
  • 第2節 全域的構造組織とは
  • 第3節 開始部から「何か」へ
  • 第4節 「何か」から終了部へ
  • 第5節 結論
  • 【読書案内】
第12章 相互行為・制度・社会生活――会話分析の研究対象の広がり
  • 第1節 相互行為における制度の「証」
  • 第2節 制度的相互行為における実際的目的の追求:医療制度の場合
  • 第3節 より多様な社会生活の諸相へ
  • 第4節 相互行為における身体資源
  • 第5節 結びに代えて
  • 【読書案内】

本書から:

私たちは日々、誰かに近づいていき、その人に声をかけ、おしゃべりをしたり特定の目的を果たすための活動をしたりし、やがてはそのやりとりを終えて、また1人の時間に戻っていく。人間の社会生活は、このようなことの繰り返しである。そうしたすべては、ゆっくり何度も丁寧に観察してみると、一定の方法を用いて、相手に理解可能な形でなされていることがわかってくる。私たちはいつどの瞬間にも、きわめて微細なレベルで、「なぜいま相手はそれをしたのか?」「次に私はどうしたらいいのか?」という問いを知らず知らずのうちに解いており、その解き方には形式的な記述を可能にする合理性が存在する。私たちは、そうした相互行為の方法をさまざまな場面でさまざまな相手に対して繰り返し使用しながら社会生活を営むとともに、それを通じて、この場面におけるこの相手とのやりとりに固有の特徴をも作り出している。会話分析は、このプロセスをありのままに、経験的に、厳密に、形式的に記述することを目的とした1つの科学である。本書では、このことを読者に伝えるべく、1本の縦糸(行為の構成)と何本かの横糸(行為の構成のために人々が依拠し、参照している相互行為の組織)から成る織物として、会話分析の主要な研究テーマを解説していく。(本書 P311:文言の微調整あり)

著者に聞く ── 一問一答

本書を出版しようと思った動機やきっかけを教えてください. 会話分析の入門的なセミナーを行う機会が何度かあったのですが、その中で北星学園大学の水川喜文氏にテキストの形に膨らませて出版することを提案していただきました。勁草書房を紹介していただいたのも水川氏です。最初は串田と平本で書いていましたが、途中で林も加わり、自分たちが人に教える際にどんなテキストがあれば助かるか、まとめる方向で執筆することになりました。
構想・執筆期間はどれくらいですか? 構想から出版までで5年と少しです。著者が3人になったあたりから執筆スピードが加速しました。
編集作業中のエピソードがあれば教えてください。 教科書ですので、内容に不備や齟齬があってはいけないということで、3人の著者が互いの担当箇所の細部に目を通して、とにかく何度も何度も議論を重ねたことが印象に残っています。原稿を書いて他の著者にファイルを送るとびっしりと赤の入ったものが返ってきて、修正して送るとまた至る所に赤を入れられて、対面での打ち合わせに持っていくと今度はボールペンで書き込みだらけになって、ということの繰り返しでした。会議室の予約時間だけでは足りず、喫茶店に流れて続きを話し合うことも一度や二度ではありませんでした。
本書の「売り」は、どのようなところにあるとお考えですか?

第一に、学習の要点をデータから確認しやすくしてあることです。そのために、ほぼすべての掲載断片を日本語会話のものにしました。また、なるべくWeb上のコーパスから読者が自分で聞くことができる断片を使用するよう心がけました。

第二に、「行為の構成と理解」の問題を主軸に据え、連鎖、順番交替、修復などのトピックがそれにどう関わるかを説明していく構成にしました。連鎖の種類や順番交替の規則、修復の分類などを覚えていくことには、なぜそれを覚えなければならないかわかりづらいという問題点があります。

これを克服するために、互いの行為が互いにとって理解可能なように組み立てられていることが社会生活の基本である、と最初に述べたうえで、各トピックを学ぶ中で、それらの形式的構造がどのように相互行為の中で参照されて行為に微妙なニュアンスを与えることになるのかを説明していくことにしました。

第三に、行為の構成と理解に加えて表現の選択や全域的構造組織のトピックは、あまり従来のテキストで重点的に取り上げられなかったものだと思います。

言語学者にとくに読んでほしい箇所はありますか? またその理由は? 第6章「発話順番の構築」は、発話順番として現れる文その他の文法単位の産出が、相互行為の過程と切り離せないものであることを説明しています。
実践家にとくに読んでほしい箇所はありますか? またその理由は? 第12章「相互行為・制度・社会生活」は、医療、教育、法等々の仕事に従事している方が、普段の仕事のあり方を振り返る手助けになるのではないかと思います。
社会学にとくに読んでほしい箇所はありますか? またその理由は?

本書は元々社会学を学ぶ人をターゲットに構想されたものです。第1章「会話分析とは何か」では会話分析が既存の社会学(および言語学)と比べてどのような特徴をもつものかが述べられています。

第2章「行為の構成と理解」は、日常生活者による行為の相互理解のうえに社会生活の秩序が成立するという、社会学の根本テーマの一つに取り組むものです。

第10章「成員カテゴリーの使用」第12章「相互行為・制度・社会生活」は医療、教育、法といった応用社会学的な領域に会話分析がどう貢献するか、示唆を与えるものになっていると思います。

これ以外の章にも様々な箇所に社会学的な説明が散りばめられています。

どのような方に、どのような仕方でこの本を読んでほしいとお考えですか? また読む際の留意点がありましたら、教えてください。 主要なターゲットはもちろん初学者ですが、会話分析を学ぶ人すべてにとって、読めば何かの手がかりを得られる本であってほしいという願いを込めて書いています。学び始めたばかりの人には会話分析の考え方(第1・2章)や、連鎖(第4章)・順番交替(第5章)と順番の構築(第6章)・修復(第8章)などの各種トピックの基礎知識が、自分で分析してみようと考えている人には分析の進め方(第3章)が、他の分野を学んでいてエスノメソドロジーや会話分析のことが気になっている人には既存の社会学や言語学との違いを論じている第1章が、それぞれ役に立つと思います。すでに分析の観点が決まっている人には、対応するトピックの章を読めば基本的な知見が具体例とともに説明されています。授業などで人に教える機会のある人には、教えるべき論点と使うデータを整理するために使っていただけるはずです。

本書で扱われていること ── キーワード集

会話分析、社会生活、行為の構成と理解、一般的秩序現象、制度的相互行為