串田秀也、2006、相互行為秩序と会話分析──「話し手」と「共‐成員性」をめぐる参加の組織化

目次と書誌

人と人がともにいる相互行為の状況には、どんな拘束が働いているのか?言葉を発し行為するとき、その拘束がどのように参照され利用されるのか?人々が会話に参加するやり方を精密に分析することで相互行為状況の秩序を内側から解明する。

1章 相互行為秩序と会話分析
  1. はじめに
  2. 相互行為の秩序
  3. 文脈依存性を解消しないこと
  4. 相互行為の「内部の」社会構造
  5. 行為の記述と「文化」社会学
  6. 意図と慣習:語用論的コミュニケーション研究との対比
  7. 参加の組織化という問題
  8. 本書の目的と構成
2章 参加の組織化と連鎖装置
  1. はじめに
  2. 「話し手」「聞き手」概念の解体
  3. ターンテイキング組織と参加の組織化
  4. 連鎖組織と参加の組織か
  5. データのが異様と若干の方法論上の問題
  6. 結論
3章 オーヴァーラップ発話の再生と継続
  1. はじめに
  2. ターン冒頭再生と日本語の遅れた投射可能性
  3. 中断されたオーヴァーラップ発話の再生と継続
  4. 日本語に置けるターン冒頭再生の論理
  5. 結論
4章 言葉を重ね合わせること
  1. はじめに
  2. オーヴァーラップとユニゾン
  3. ユニゾンの可能性
  4. 相互的ユニゾン
  5. 共同的ユニゾン
  6. 結論
5章 「そう」と「うん」:ターンスペースと行為スペースへの参加の再組織化
  1. はじめに
  2. 協働的ターン連鎖
  3. 恊働的ターン連鎖と他の発話連鎖との交差によって組織された「そう」と「うん」
  4. 通りすがりの受け手性表示としての「そう」と「うん」
  5. 結論
6章 経験を語りあうこと:拡大された行為スペースへの競合的共参加
  1. はじめに
  2. 私事語りの機会づけられた開始
  3. 興味の相互的モニター
  4. 共通経験の探索と発券の手続
  5. 事例研究:共通経験の探索・発見・ひもとき
  6. 結論
7章 討論
  1. はじめに
  2. 時間の中での参加の組織化
  3. もうひとつの社会学的探究
  4. 相互行為の「文化」
  5. 結論

本書から:1章「相互行為秩序と会話分析」 1「はじめに」

本書は、言葉を用いた相互行為のもっとも基本的(かつ、おそらくは、もっとも原初的)形態としての会話に焦点を当て、会話を細部にわたって意味に満たされたものにしているメカ二ズムのいくつかを、とくに「参加の組織化」という問題の中心として考察する試みである。人々が会話に参加するやり方はどのようにして有意味な形で組織化されているのか、それは言葉のどのような使用によって調整されているのか、会話に参加するやり方の違いによってどんな相互行為が行われており、どんな社会的関係が作り出されているのか。これらのことを、主として、会話分析のアプローチに依拠しつつ分析していく…. (p.2)

著者に聞く ── 一問一答

本書を書こうと思った動機やきっかけがあれば教えてください。 山登りの途中で自分はいったいどのくらい登ったのか(どのくらいしか登れていないのか)を見たくなるような感じで、これまでの仕事に一区切りつけたいと思ったのが、博士論文を書くことにしたきっかけです。当初は出版することは考えていませんでした。
構想・執筆期間はどれくらいですか? 章立てを考えてから完成まで4年くらい、本書の分析につながる会話データを集めて分析し始めてから15年くらい、「相互行為秩序」という主題について考え始めてから20年ちょっと、です。
これまで出された著書(あるいは論文)との関係を教えてください。 単著としてはこれが初めてなので、いちおう本書がこれまで書いてきたものの中間まとめになっていると思います。
執筆中のエピソード(執筆に苦労した箇所・楽しかった出来事・思いがけない経験など、どんなことでも可)があれば教えてください。 本書は、最初の予定では「先取り完了」という現象を中心とした研究になるはずでした。が、最初の構想を立ててまもなく、林誠さんの著書が出版され、この現象について基本的なことがあらかた書き尽くされてしまったのを知りました。しばらく立ち直れないくらいショックでしたが、なんとか一から構想を立て直してできあがったのがこの本です。結果的には、この経験があったおかげで、より深く自分の仕事を振り返ることができたと思います。
執筆中のBGMや、気分転換の方法は? メルボルンに滞在しているときに書き始めたので、窓の外を見たり、散歩したり、買い物に行ったり、食事を作ったり、生活の全部がすばらしい気分転換になっていました。また、週2回くらい英語の個人レッスンを受けていて、その教師がたまたますごく話の合う人だったので、60~70年代のロックの話とか、ワライタケを食べた話とか、アホな話をいろいろしていて、そのレッスンも楽しい気分転換でした。
執筆において特に影響を受けていると思う研究者(あるいは著作)は? ゴッフマン、サックス、シェグロフ、ラーナー。これらはそのまま索引で引用回数の多い研究者たちです。表面に現れていないけれども、研究の姿勢として大きな影響を受けたものには、谷泰『聖書世界の構成論理』という名著があります。
社会学的(EMCA的でも可)にみて、本書の「売り」はなんだと思いますか?

「相互行為秩序」という主題が人間科学にとって第一級の重要性を持つという主張、それは会話分析によってこそもっとも実り多い形で展開されうることをデータを通じて示していること、この2点ではないかと思います。

また、枚数制限のない博士論文として書き始めたものなので、会話分析の分析プロセスを比較的丁寧に提示することができたことも「売り」になると思います。

言語学者に特に読んで欲しい箇所はありますか? その理由は?

3章と5章。3章は「文」概念を見直すという理論的試みを含んでおり、言語学と会話分析との今後の対話の可能性を探っています。
5章は「うん」「そう」という感動詞を会話分析の観点から分析しており、個別の言語現象について、言語学的分析との違いを詳しく知ることができると思います。

認知科学者に特に読んで欲しい箇所はありますか? その理由は?

3章から6章すべて。近年盛んになりつつある対話研究などの領域では、対話中の行動をカテゴリー化して集計するという手法が用いられています。このような手法を用いる研究者には、カテゴリー化によって失われるものが何であるかについて十分な認識を持ってほしいと思いますが、3~6章の分析はそういうことを考える刺激になると思います。

EMCAの初学者は、どこから読むのが分かりやすいと思いますか?また、読むときに参考になる本や、読む際の留意点があれば、教えてください。

まず1章は、著者が何を求めて会話分析を始めたのかを論じているので、初学者が自分の思考の地図の中に会話分析というものをとりあえず位置づけてみる手助けになると思います。

また、会話分析の面白さを実際に味わうという意味では、6章をいきなり読んでいただくのもよいと思います。6章の分析は、私が一つのデータと出会ったことから始まっているので、何の予備知識もなしに分析についていくことができると思います。

次に書きたいと思っていることはありますか?

保育場面の相互行為について途中までやりかけた分析をまとめたいのと、日本語の会話の連鎖組織(とくに質問‐応答連鎖を中心として)について行っている共同研究を形にしたいと思っています。

書評情報

  • 書評情報
    • 前田泰樹 書評 串田秀也『相互行為秩序と会話分析――「話し手」と「共成員性」をめ ぐる参加の組織化』、『社会学評論』第58巻第3号(2007年12月) pp. 377-378
    • 西阪仰・西澤弘行 書評 串田秀也『相互行為秩序と会話分析 「話し手」と「共成員性」をめぐる参加の組織化』、『社会言語科学』第9巻第2号(2007年3月) pp. 93-101

本書で扱われていること ── キーワード集

社会的行為, 社会関係, 社会的状況, リアリティ, 社会的拘束, モニター, 無視, 動機の語彙, ふつう, ゴッフマン, サックス, 理解可能, 認識可能, 状況の定義, マクロ, ミクロ, ホール, ガンパーツ, プロクセミクス, 修復(repair), 民族誌, エスノメソドロジー, デュルケーム, コーディング, 言語構造, 指標的表現(indexical expression), 指標的特性(indexical property), 合理性, 期待破棄実験(breaching experiment), カウンセリング, 統語論, 変換, 相互浸透, 方法論的懐疑, シェグロフ, カテゴリー, 場面, 関連性(relevance), 手続き, 電話, 相互反照性(reflexivity), 意味, ヴァナキュラー, 形式的分析, ほのめかし(allusion), 同意, 確認, 反復, スピーチコミュニティ, 性規範, 実証主義, 言語行為, 文脈的意味, コードモデル, 意味論, シャノン&ウィーヴァー, オースティン, 反射的意図, グライス, サール, 構成的規則, 文法化, リーチ, スペルベル&ウィルソン, 関連性理論, , 認知環境, 認知科学, 表現可能性原理, 導管メタファー, 伝達, チャンネル, 対話, コンピュータ, 基層構造(infrastructure), 普遍性, 参与役割, 直示(deixis), レヴィンソン, グッドウィン, 西阪仰, ジェファーソン, ターン構成単位(turn-constructional unit), 移行適切場所(transition relevance place), 次話者選択(next speaker selection), 投射(projection), リソース, ラーナー, 完了可能点(possible completion), つっかえ(hitch), ビート, 隣接ペア(adjacency pair), 連鎖上の含み(sequential implicativeness), 反応の不在(absense of response), チーム, 線状的(linear), 反応の追求(pursuit of response), 物語り(storytelling), 配偶者, 自然なデータ, 文, 林誠, 制止, スロット, 競合的関係, つけ足し, 前触れ, 独り言, 会話の分裂(schisming), 質問 応答, メディア, ハッピーアイスクリーム, クライマックス, ニュース, 体験談, せりふ, 地の文, 著者, 所有, 相補的関係, お世辞, 念を押す, だめ押しする, 追い打ちをかける, 挨拶, かけ声, われわれ, 発声者, 評価, 演劇的空間, 歴史的文脈, 情報のなわばり, リスト, 複合的ターン構成単位(compound turn-constructional unit), 進行性(progressivity), 言葉探し(word search), 代弁, 先に進む促し(continuer), 連鎖上の消去(sequential deletion), 埋め込み(embedding), 飛び越えて接続(skip-tying), 助け船, お節介, 生活史, 盛り上がり, わたくしごと, 選好(preference), 理由説明, 話題上のつながり(topical coherence), プライバシー, ポメランツ, 釣り出し装置(fishing device), 精神療法, 格上げ(upgrade), 極端な定式化(extreme case formulation), ヘビイメタル, モーツアルト, 笑い, 沈黙, はまる, 境界管理, 役割距離, 受験期, 音楽遍歴, 共属性, 暴走族, 仲間集団, 単線的, 複線的, マリノフスキー, 言語交際, 自己呈示, 表出, 人間科学, ラザースフェルド, 指示, ヌアー族, サモア, イロンゴット, ヨルバ, アザンデ, シサラ, 託宣, アンティグア, ピジャンジャジャラ, エフェ, グイ, バカ, 狩猟採集民, 菅原和孝, 同時発話, インタラクションのセンス, 日本語, 英語