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エスノメソドロジー・会話分析研究会:会員の活動

掲載:2016年03月01日

  研究会員である張 承姫さん(関西学院大学大学院/日本学術振興会特別研究員PD)の論文「相互行為としてのほめとほめの応答―聞き手の焦点ずらしの応答に注目して―」が社会言語科学会の「徳川宗賢賞萌芽賞」を受賞しました。
  この論文の内容と今後の展開について、張さんからコメントをいただいたので掲載します。

張 承姫(チャン スンヒ)「社会言語科学会徳川宗賢賞萌芽賞受賞に寄せて」

  この度、拙稿「相互行為としてのほめとほめの応答―聞き手の焦点ずらしの応答に注目して―」が社会言語科学会の徳川宗賢賞萌芽賞となりました。論文は『社会言語科学』第17巻第1号に掲載されています。

  本論文は、ビデオで収録した日常会話から、相手へのほめとして理解可能な発話を行う部分(以降、「ほめ」とします。)に着目し、その中に共通して見られた「焦点ずらしの応答」について検討したものです。「焦点ずらしの応答」とは、ほめの受け手がほめに対する「不同意」の場面であっても、「部分的な同意」の場面であっても、ポジティブに評価された対象の別の側面に焦点をずらして応答するというものです(以降、「焦点ずらしの応答」とします。)。このやり方に注目することによって、先行研究では、ほめという行為を相手に対するポジティブな評価であれば一括りに扱われてきましたが、本論文では、実際の会話で、参加者はほめの評価の対象によってはほめとしても取り扱わない場合もあるということを明らかにしようとしました。そのため、ほめの評価対象を「相手自身に対するポジティブな評価」と「相手が属している場所に対するポジティブな評価」とに区別し、それによって会話参与者のほめへの応答がどのように異なっているかを検討しています。こうしてほめの応答がほめの発話とも密接にかかわっていることも検討でき、ほめの発話がどのように組み立てられているのかをより詳細に検討すべきであることを提示しています。

  本論文が高く評価していただけたのは、以下の点であると考えています。第一に、これまでほめに対する応答の研究は盛んに行われてきましたが、実際の会話データを用いて分析されている研究は少なかった点です。第二に、先行研究ではほめの応答を「同意」「不同意」「回避」と3つに分類し、量的な研究で分析されてきたことに対して、「不同意」と「部分的な同意」の両応答に見られる「焦点ずらしの応答」という現象に着目した点です。第三に、ほめの応答が直前のほめの発話と密接にかかわっていることを示した点です。これらの点を高く評価していただいたこと、たいへん嬉しく思っています。

  また、本論文でもう一つ重要な部分は、焦点ずらしの応答がほめのジレンマを解決するために用いる応答であることです。Pomerantz(1978)は、ほめの受け手がほめに「同意・受諾」を示すか、それともほめの同意による自画自賛になる事態を回避するかというジレンマを解決するため、「評価対象のシフト」や「ほめの格下げ」を用いるとしています。それに加え、焦点ずらしの応答もほめのジレンマを解決するために用いられる応答であるということです。具体的にいうと、評価対象から焦点をずらして部分的な同意を示す場合は、部分的には不同意を示しているということになります。一方、不同意を示す場合でも、ほめの受け手は、評価された対象から「評価された部分を持っていない一部分」の自分に焦点をずらして不同意を示しているため、「評価された一部分」については暗示的に部分的な同意を行っていることを意味します。したがって、焦点をずらしの応答は、完全に同意・不同意を示さないことによってほめのジレンマを解決として用いられているやり方であることを見いだしています。

  このように、ほめの受け手がほめのジレンマを解決していると分析しましたが、今後の課題として、焦点ずらしの応答の以外にほめのジレンマの解決の他のやり方にも注目して検討していきたいと考えています。そして、連鎖上におけるほめの位置をより詳細に検討し、ほめの機能について解明したいと考えています。

  最後に、本論文が受賞することができたのは、データ収集に積極的に協力していただいた方々と、何より会話分析という学問に出会い、会話分析の先生方々や先輩方々に出会えたおかげさまだと考えています。データ分析の見方や会話分析という学問について何回も繰り返して教えていただき、丁寧なコメントいただいきた会話分析のメンバーの方々に、心よりお礼を申し上げます。これからも少しでもご期待に添えるように頑張っていきたいと思います。本当にありがとうございました。

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