■EMCA研ホーム > 研究会の活動 > 活動の記録

エスノメソドロジー・会話分析研究会:2010年度の活動


2010年度 秋の研究大会



→短信:簡単な報告と写真を掲載しました [2010/12/20]

概要

下記の要領で,エスノメソドロジー・会話分析(EMCA)研究会の年次研究大会を開催する予定です.様々な分野から多くの方にご参集いただき,議論に加わっていただけますことを期待しております.
 なお,午後のシンポジウムでは,「医療とケアのエスノメソドロジー」に焦点を当てたいと考えております.エスノメソドロジーは、ガーフィンケルの精神病院外来の研究、サックスの自殺予防センターの研究、サドナウの病院死の研究などに代表されるように、医療やケアを題材とした研究を通じてその基盤を形作ってきました。また、会話分析の進展に伴って、近年では、メイナードやヘリテイジらを筆頭に、医療やケアに関する緻密な経験的研究が豊富に生み出されてきており、この動向は英米圏にとどまらない広がりを見せつつあります。日本においても、先ごろ出版された『女性医療の会話分析』に代表されるように、エスノメソドロジー・会話分析の方法論に基づいて医療・ケアの分析を行う研究者が増えてきています。このシンポジウムは、こうした動向を受けて、日本における医療とケアに関するエスノメソドロジー・会話分析研究の現状を共有するとともに、この動向をさらに推し進め、国際的に通用する研究成果を日本から生み出していくひとつのきっかけにしたいと思います。

(担当世話人:川島理恵,串田秀也)

  • 日時:2010年11月 8日(月)10:00~17:30
  • 場所:京都大学稲盛財団記念館大会議室(地図
プログラム
  • 9:30 受付開始
  • 10:00-11:55 一般報告
    10:00-10:35 「或る認知症高齢者と健常者の視線変化数と行為頻度数の比較」 吉村雅樹(京都工芸繊維大学) [→要旨]
    10:40-11:15 「保健指導における対面型支援の分析」 池谷のぞみ(Palo Alto Research Center)・粟村倫久(Palo Alto Research Center)・橋本和夫(東北大学)・黒川悦子(東北大学)・齊藤辰典(東北大学) [→要旨]
    11:20-11:55 「身体化された視覚・再訪」 西阪 仰(明治学院大学) [→要旨]
  • 11:55-13:00 昼休み(世話人会)
  • 13:00-13:30 総会
  • 13:30-17:30 シンポジウム「医療とケアのエスノメソドロジー」
    13:30-14:15 「柔道整復師のプロフェッショナルヴィジョンとインフォームド・コンセント」 海老田大五朗(東京医学柔整専門学校/東京福祉大学) [→要旨]
    14:20-15:05 「身体はテキストを離れ、経験を交換する:グループホームのカンファレンスにおける発語とジェスチャー」 細馬宏通(滋賀県立大学)・中村好孝(滋賀県立大学)・城綾実(滋賀県立大学)・吉村雅樹(京都工芸繊維大学) [→要旨]
  • 15:05-15:25 小休憩
    15:25-16:10 「精神科診察における“糸口”としての例外報告」 串田秀也(大阪教育大学) [→要旨]
    16:15-17:00 「救急ホットラインにおける依頼行為の会話構造」(川島理恵) [→要旨]
  • 17:00-17:30 全体討論

↑ページ先頭へ

報告要旨(報告順)

「或る認知症高齢者と健常者の視線変化数と行為頻度数の比較」
吉村雅樹(京都工芸繊維大学)
 認知症高齢者の生活では、身体機能の障害によらないのに、しばしば「xxができない」「xxをしてくれない」という事態に出会う.これらは当事者本人の意図に起因しているとは考え難い振る舞いである.日常生活における「xxができない」「xxをしてくれない」という当事者の状況は、その時に必要な行為が遂行されないことによる停滞だけでなく、周囲の人々に当事者に属する困難性を感じさせ「認知症」によることとして理解させる.しかし、それは脳機能という生物学的かつ機械的な説明であり、認知症高齢者の日常生活における活動を彼らの生活世界において説明するものではない.
 本発表では、認知症高齢者施設でのボール遊びのビデオ録画から「ボール遊びが困難な人」として周囲からマークされる一人の利用者と周囲との相互行為を分析する.そこから、周囲の人々から困難性があるという評価がなされるときに、その当の行為が当事者にとってどのような意味をもつ行為であったのかを考察する.また、周囲の人々の健常な行為と比較しつつ困難性という評価や「認知症」という理解を再考したい.
「保健指導における対面型支援の分析」
池谷のぞみ(Palo Alto Research Center)・粟村倫久(Palo Alto Research Center)・橋本和夫(東北大学)・黒川悦子(東北大学)・齊藤辰典(東北大学)
公衆衛生の分野では、運動習慣を行動介入によっていかに改善するかが焦点の一つとなってきた。日本でもメタボリック・シンドロームに焦点をあてた健康プログラムとして、特定検診・特定保健指導が開始された。食事と運動両面での行動変容支援の一環として行われる保健指導は、基本的に対面で実施されることが想定されている。しかしその対面支援における実践に関する調査研究はなされていない。本報告では、運動習慣に関わる支援の環境を整え、参加者を募集し、人間ドックを起点とした3ヶ月の支援を対象に面談のビデオ録画や、関係者(支援者、支援対象者)へのインタビューを通じて得られたデータを対象にした分析結果を報告する。特に、支援者の生活習慣や生活状況を把握し、実行プランを作ることがいかに支援対象者の取り組み方と関わり得るのかに焦点をあてる。

↑ページ先頭へ

「身体化された視覚・再訪」
西阪 仰(明治学院大学)
30程の妊婦定期健における診超音波検査において,セッションによっては医師や助産師が妊婦の顔を見遣ることは,きわめてまれである.1つの観察として,妊婦が連鎖を開始したとき,その開始された連鎖を医師・助産師が完了するとき,医師・助産師は,妊婦の顔を見遣る傾向がある.ここから,妊婦が連鎖を開始していない場合でも,医師・助産師が超音波検査中に妊婦の顔を一瞬見遣る振る舞いは,なんらかの「妊婦による活動の開始」への志向の結果と分析できるかもしれない.この医師・助産師の振る舞いに注目しつつ,報告者が,活動単位を記述する概念として長年用いてきた「参加フレーム」(「そのつどレリバントな社会的アイデンティティを身体の配列をとおして実現し,その身体の配列によって同時に,その社会的アイデンティティによって担われる活動を実現していくような,そういう身体の配列の,構造的な境界を伴う単位」)という考え方を応用することで,見ることとの活動の関係,見ることと身体の配列との関係について,若干の考察をこころみたい.
「柔道整復師のプロフェッショナルヴィジョンとインフォームド・コンセント」 海老田大五朗(東京医学柔整専門学校/東京福祉大学)
本研究では、2010年3月某日に、関東 地方の某接骨院にて、私が直接ビデオ撮影した映像データを分析する。本データにおいて、患者はアキレス腱断裂して手術をしたが2ヶ月以上経っ た現在も予後が悪いという感覚をもつ、初めて当該接骨院に来た60代女性であった。柔道整復師は、施術をする前に、超音波画像観察装置を使用してアキレス腱の状態を調べた。本研究の焦点の一つは、超音波画像観察装置を使用して切りとった静止画の見方を、柔道整復師が患者に教える場面である。患者が感じているアキレス腱の違和感は、この画像を通じて説明される。ここでは柔道整復師による画像の見方の指導と説明の分析が鍵となる。もう一つの焦点が、今後のリハビリテーションについての患者からの同意を、どのようにして柔道整復師は得ていくかである。患者の腱についての疑問に対して、柔道整復師は筋肉について説明をし、またこれらの説明が今後のリハビリテーションにつながっていく。これらの場面での柔道整復師と患者との相互行為を記述することによって、どのようにして「イン フォームド・コンセント」は達成されたかを示していきたい。

↑ページ先頭へ

「身体はテキストを離れ、経験を交換する:グループホームのカンファレンスにおける発語とジェスチャー」
細馬宏通(滋賀県立大学)・中村好孝(滋賀県立大学)・城綾実(滋賀県立大学)・吉村雅樹(京都工芸繊維大学)
 介護施設では「カンファレンス」と呼ばれる定例の会合で、介護者どうしが報告と意見交換を行う。介護者たちは日誌、ノートというテキストを手元に置き、いつでも書き込みができるよう筆記用具を用いる。
 しかし介護者の身体はしばしばテキストから離れ、雄弁にジェスチャーを繰り広げる。介護者は、指示語 と身体動作を駆使して自分と入居者との関係を語り、他の介護者もまた身体動作によってその報告に同意したり異議を唱えたりする。互いの経験が異なるとき、介護者たちは異なるジェスチャーを同時に、もしくは前後して示し合いながら、経験の差を身体によって示し、互いの知識をバージョンアップし、それをノートに書きつける。このような身体動作は、実際にはどのように始められ、どのような時間構造をとるのだろうか。この問題を、本発表では、「拡張ジェスチャー(グランド・ジェスチャー)(細馬 2009)」(隣接ペアのターン間で継続して起こる一続きのジェスチャー単位)の概念を用いて考察する。
 まず、いくつかの事例に基づき、ノートに向かっていた身体がいかにノートから離れ、ジェスチャーによって関係を開始するか、逆に参与者の一部のノートに向かう行動が、いかにジェスチャー・シークエンスの終了をもたらすかを記述する。次に、拡張ジェスチャーによる身体動作の交換と改変の過程を見るために、入居者の身体について語り合う事例を取り上げる。これらの記述を元に、それぞれの介護者の経験がカンファレンスにおいてどのようにバージョンアップされるのかを考える。
「精神科診察における“糸口”としての例外報告」
串田秀也(大阪教育大学)
 現在、日本の精神科治療は薬物療法を中心としており、精神科外来診察の主たる目的はクスリを処方することである。とくに、本報告の分析対象である再診場面において、処置はおよそ、前回のクスリを①引き続き処方する、②増やす、③減らす、に大別される。だが、通院治療を受ける患者は、心身症状以外にさまざまな生活上・人間関係上の懸念/関心(concern)を持ち、それへのさまざまな対応(クスリ処方、助言、共感、説明など)を医師に求めている可能性がある。患者は、①~③の処置に直結しない懸念/関心を診察の中でいつどのように提示するべきか、また、医師はそれらをどのように見分け、重みづけし、対応すべきかという相互行為上の問題に構造的に直面しうる。
 本報告では、診察の開始直後に患者が行う症状の更新報告(updating)の中で、とくに「例外(exception)報告」と呼びうる発話形式に焦点を当てる。例外報告とは「だいたい安定しています。ただ、若干眠気が多いんですけど。」のように、最初のひとまとまりの更新報告に対する例外として、何らかの心身症状が控えめに付加される形式である。このような形で導入された心身症状に医師が注意を向け、患者がそれを掘り下げる機会を得るとき、それはその症状そのものとは別の懸念/関心(たとえば、夫婦関係についての心配、職場についての心配など)の開示へとつながっていくことがある。いくつかの連鎖パターンを視野に入れながら、例外報告が、「前回診察以降の症状の変化」という枠に収まらない関心/懸念を患者が慎重に導入するための、ひとつの系統的「糸口」になっているのではないかと論じてみたい。
「救急ホットライン会話における依頼行為の会話構造」
川島理恵(埼玉大学・東京医科大学)
 昨今の救急医療では、「搬送先選定困難事例」、一般に「たらい回し」と呼ばれるケースが社会問題化しつつある。病院前救急体制では、病院と消防が事前連絡で十分に情報を共有し、傷病者の搬送先が速やかに決定されることが必要であるとされている。本研究では、会話分析を用いて救急ホットライン会話における情報共有と依頼行為の会話構造を明らかにする。
 ホットライン会話の基部となる依頼行為が複雑化する起点がいくつか明らかになった。まず受け入れ可能かどうかの応答において曖昧な表現が使われた場合。そして決定権に関するやり取りが生じたりした場合に、全体的な会話構造が複雑になっていた。今回の発表では、こうした依頼行為における特徴を、会話のみでお互いの状況に対する認知環境を構築している参与者間でのaccountabilityの達成という観点から論じる。

↑ページ先頭へ


お問い合わせ

  • 研究大会に関する問い合わせは 串田秀也(串田) まで
  • 入会手続き等,EMCA研に関する問い合わせは エスノメソドロジー・会話分析研究会 事務局 (EMCA研事務局)まで

↑ページ先頭へ

2010年度 春の研究例会



概 要

 以下の要領で、エスノメソドロジー・会話分析研究会2011年春の研究例会を開催いたします。午後に予定しているシンポジウム「質問-応答連鎖と場面性」では、相互行為の参与者たちが、相互行為の形式的組織を用いながら、いかにして場面に固有の目的や課題を遂行しているのか、またそれを通じて、いかにしてその場面を作り上げているのかを、考えたいと思います。焦点の絞られた討論が可能になるように、相互行為の形式的組織を「質問-応答連鎖」に限定し、4人の発表者に4種類の場面の分析を提示していただき、この連鎖がどのようにそれぞれの場面に感応して用いられているかを比較しながら議論したいと考えています。

(企画担当:平本毅・串田秀也)

  • 日時:2011年4月3日(日)11:00~17:30
  • 場所:関西学院大学大阪梅田キャンパス14階1405号室 [地図]
プログラム
  • 10:30 受付開始
  • 11:00~12:15 一般報告
    • 11:00~11:35 一般報告1(発表20分+討論15分)
      • 山本 真理「物語の聞き手によるセリフ発話」[→要旨
    • 11:40~12:15 一般報告2
      • 中恵 真理子「大学教育ボランティアの助言の達成のし方に見る授業内秩序」[→要旨
  • 12:15~13:30 昼食
  • 13:30~17:30 シンポジウム「質問-応答連鎖と場面性」(司会進行:串田 秀也)
    • 13:30~14:10 シンポ発表1(発表25分+討論15分)
      • 平本 毅「日常会話における 質問-応答 連鎖─とくに「応答の追及」により返される応答に着目して」[→要旨
    • 14:15~14:55 シンポ発表2
      • 増田 将伸「インタビュー・コーパスにおける 質問-応答 連鎖―「日常」を模した「制度」の中の相互行為」[→要旨
    • 14:55~15:10 小休憩
    • 15:10~15:50 シンポ発表3
      • 池田 佳子「TVのニュースインタビューにおける 質問-応答 連鎖の一考察─応答ターンのデザインに着目して」[→要旨
    • 15:55~16:35 シンポ発表4
      • 細田 由利&デビッド・アリン「教育場面における質問と応答の連鎖に関わる優先組織」[→要旨
    • 16:45~17:30 全体討論

一般報告: 〔報告要旨〕

報告1: 山本 真理
「物語の聞き手によるセリフ発話」
報告要旨:

 本研究では,過去の出来事が語られる場面において語り手や聞き手によってなされる,物語の登場人物になりきるような発話(「セリフ発話」)を扱う。これらの発話がどのように行われ,その発話を通して参与者たちが何をしようとしているのかを明らかにする。本発表ではそのうち物語の聞き手によって行われる発話に焦点を当てる。
 西阪(2008)は,物語が語られた直後の「演技している」と見ることのできる聞き手の振舞いの分析を行い,聞き手の発話は単に物語の語り手の情報が聞き手に伝わったことを示すだけではなく「物語が終わったという聞き手自身の理解」,「聞き手が語り手の物語をどう理解したか」,「語り手の物語をどのような話として聞くべきものかという物語全体にたいする自らの理解」を示すと言う。本発表では西阪の考察を踏まえた上で,「聞き手が物語の理解を示す」というときその理解は単に聞き手の皮膚下の理解を反映させているだけでなく,物語の語り手のその場の動きに敏感な形で組織されていることをデータに即して示していく。具体的には,聞き手がどの登場人物を選択しどのような発話を行うのかといったことはランダムに決定されていくのではなく,語り手の発話や身体的な動作によってある程度方向づけられている。これは聞き手が物語の登場人物になりきることができるほどに物語を理解していることを強く示しつつ,あくまでも聞き手が「聞き手」として相互行為に参加しており「語り手の物語を語る権利」を侵さないことを示すことができる有効な手段であると考えられる。

    【文献】
  • 西阪仰(2008)『分散する身体―エスノメソドロジー的相互行為分析の展開』勁草書房

↑プログラムへ

報告2: 中恵 真理子
「大学教育ボランティアの助言の達成のし方に見る授業内秩序」
報告要旨:

 徳島大学の全学向け教養教育の中には、市民から募った社会人ボランティアと学生、教員の3者で創る授業形態がある。このとりくみは平成20年度GP「地域社会人ボランティアを活用した教養教育~知の循環型社会の構築をめざして」として採択された。本データはこの取組の授業の一つ「名著講読-生き抜く力をつける(香川順子准教授担当)」をビデオ録画し、分析したものである。
 分析の視点は、社会人ボランティアが授業に参画することによって、授業内秩序がどのように産出されているかをミーハンの見出したI-R-E連鎖に着目して行うことである。すると、データによれば、特にEvaluationにおいて、社会人の評価を、教員が受け継ぎ、教員の評価の中に取り組む場面、あるいは社会人の評価に介入し、評価を中断させる場面、また、授業の一部分のトピックについてその全体の評価を教員が社会人に委譲して行うなど、I-R-E連鎖の多様な応用形態が見られた。
 今後生涯学習社会がすすめば、このような授業形態が小・中・高に限らず、大学でも増えてくるように思われる。そのような教育資源の一つとしても社会人ボランティアの参画する授業内秩序を考察したい。

    【文献】
  • Mehan,H、1979、Learning Lessons: Social Organization in the Classroom, Cambridge、 MA: Harvard University Press.
  • 秋葉昌樹、2010、「学校で過ごす」串田秀也/好井裕明編『エスノメソドロジーを学ぶ人の ために』第6章、世界思想社。

↑プログラムへ

シンポジウム「質問-応答連鎖と場面性」: 〔報告要旨〕

報告1: 平本 毅
「日常会話における質問-応答連鎖-とくに「応答の追及」により返される応答に着目して-」
報告要旨:

 日常会話において、ある発話に次ターンでの応答を予期させる「連鎖上の含み」が存在し、さらにその応答に当該の発話への同意/不同意や受諾/拒否が含まれることが期待されるとき、話し手はその応答の不在に代表される不同意あるいは拒否の前触れ、理解の不足に対して、何らかの手段で応答を追及することがある(以下「応答の追及」)(Pomerantz, 1984)。この「応答の追求」のうち本発表では、最初の発話に含まれていた意見や態度を変える(以下「置き換え型」)ものを扱う。これまでの「応答の追及」の研究では、「応答の追及」自体の形式やはたらきに焦点が当てられてきた。それにたいし本発表では、「応答の追及」への応答(以下「追求の結果返された応答」)の形式に着目したい。この位置で聞き手は、いくつかの相互行為上の課題に直面することになるだろう。第一に聞き手は、置き換えにより生じた話の広がりを回収し、その応答で連鎖を終了させる方向に向かわせることに志向するだろう。第二に聞き手は、話し手が「応答の追及」のいくつかのやり方のうち一つを選べるという条件において、じっさいになされた「応答の追及」の仕方が正しかったのかどうかを示すことになるだろう。第三に聞き手は、「応答の追及」がなんらかの意味で選好組織を組み込んだものであるなら、選好組織に志向しながら応答を返す必要があるだろう(平本, 2010)。本発表では、「追求の結果返された応答」を返す際に聞き手がこれらの課題をどのように解き、拡張された質問―応答連鎖を組織化していっているのかを明らかにしたい。

    【文献】
  • 平本毅(2010)「社会規範への多重的指向:社会規範への多重的指向:日本語会話における「選好の逆転」への反応の一形式」第83回日本社会学会大会報告資料
  • Pomerantz, A. (1984). Pursuing a response. In J. M. Atkinson & J. Heritage (Eds.), Structures of social action (pp. 152-163). Cambridge: Cambridge University Press.

↑プログラムへ

報告2: 増田 将伸
「インタビュー・コーパスにおける質問‐応答連鎖―「日常」を模した「制度」の中の相互行為―」
報告要旨:

 本発表では、言語研究の資源とするために作られた『日本語話し言葉コーパス(CSJ)』中の質問‐応答連鎖を取り上げる。CSJでは日常会話に指向して会話がなされるが、収録は実験的環境でなされており、インタビュー形式で進行する会話の質問者‐応答者の役割もほとんど固定的である。「日常」への指向性を持つ「制度」であるという点で、特徴的な会話であると言える。
 分析は主に疑問詞「どう」を含む質問についてなされる。(cf. 増田 2008)これを通じて、インタビューで連鎖を開始する際のプラクティスが議論される。具体的には以下の3点を取り扱う。(1) “How are you?” についてのSacks (1975) の議論と対比させながら、CSJの会話開始部の質問‐応答連鎖の特徴を概観する。(2) インタビューに特徴的なプラクティスとして、先行する発話や連鎖に対してコメントや要約を提示する定式化が挙げられる。(Heritage 1985, 好井 1999)前置きが付いた質問など、複数単位から成る質問の分析を通じて、CSJにおける定式化の様相を検討する。(3) 主に(2)においてCSJ内の2種類のインタビュー音声の比較を行い、相互行為の組織化と場面性の関わりについて検討する。

    【文献】
  • Heritage, John C. (1985) “Analyzing News Interviews: Aspects of the Production of Talk for an Overhearing Audience.” Teun van Dijk (ed.) Handbook of Discourse Analysis Vol.Ⅲ: Discourse and Dialogue. Academic Press. pp.95-117.
  • 増田将伸 (2008) 「「どう」系質問‐応答連鎖における相互行為の諸相」. エスノメソドロジー・会話分析研究会2007年度研究例会口頭発表.
  • Sacks, Harvey (1975) “Everyone Has to Lie.” Mary Sanches & Ben G. Blount (eds.) Sociological Dimensions of Language Use. Academic Press. pp. 57-79.
  • 好井裕明 (1999)「制度的状況の会話分析」. 好井裕明・山田富秋・西阪仰(編)『会話分析への招待』(第2版)世界思想社. pp.36-70.

↑プログラムへ

報告3: 池田 佳子
「TVのニュースインタビューにおける質問―応答連鎖の一考察-応答ターンのデザインに着目して-」
報告要旨:

 政治家はニュース番組などのインタビューでいわゆる「メディアうけ」を狙った、時に批判的・挑戦的な質問を受けることがある。昨今では、これらの質問をどのようにかわしていくか、政治家のコミュニケーション能力自体にその技術が必須とされるようになってきた。一方で「質問―応答」という連鎖の拘束力は強く、質問を「かわす」ことでその場の体裁を暫時的につくろったとしても、「(まともに)応答しなかった」という行動に対する評価が後から追っかけてくる。時には対話の最中に質問者(例えばインタビューであればインタビューイや司会)から一度は回避した答えについてしつこく譴責されることもある(Pomerantz, 1984他)。ある時には、ジャーナリストやメディアにその「逃げ腰」な態度が批判され、間接的に支持率の低下などの世論へのダメージを引き起こすこともある。完全に逃避しても、そして真っ向から回答しても損をしてしまう為、「抗いながらも回答をする」という回りくどい行動を強いられることになる(Clayman, 2001; Heritage & Clayman, 2002他)。本発表では、インタビューにおける「質問―応答」の連鎖場面を検証し、この「応答に埋め込まれた抵抗(resistance to answer)」が政治家の(言語)行為の実践にどのように顕れるのかを考察する。

    【文献】
  • Pomerantz, A. (1984). Pursuing a response. In J. M. Atkinson & J. Heritage (Eds.), Structures of social action (pp. 152-163). Cambridge: Cambridge University Press.
  • Clayman,S. (2001). Answers and Evasions. Language in Society 30(3): 403-442.
  • Clayman, S. & Heritage, J. (2002). The News Interview: Journalists and Public Figures on the Air. Cambridge: Cambridge University Press.

↑プログラムへ

報告4: 細田 由利&デビッド・アリン
「教育場面における質問と応答の連鎖に関わる優先組織」
報告要旨:

 本発表では小学校の英語授業における教師の質問に対する児童の返答を検証し、教育場面における質問と応答の連鎖に関わる2つの優先組織について論じる。
 質問―応答の連鎖では、現在の話者が次の話者の選択を行って質問すると選択された者に応答する権利と義務が与えられるとういう優先性が生じる(Sacks, 1987)。しかしながらStivers and Ribinson (2006)の最近の研究によれば、日常会話においては「選択された者が応答する」という優先性が「会話を前進させる」という優先性と衝突してしまった際には、会話の前進のほうが重視され、選択された者以外の会話参与者が選択された者のかわりに応答するということがあるようだ。
 今回データとして分析したのは全国の小学校における英語授業、総計22クラスである。それぞれのクラスにはクラス担任教諭、英語を得意とする外国人指導助手(ALT)、および20名から30名程度の児童が授業参加しており、また約半数のクラスには英語教育サポーターを勤める大学生が数名参加している。
 分析の結果、語学教室という社会組織特有とも思われる特徴が、上記の質問と応答の連鎖に関わる2つの優先組織に観察された。日常会話と異なり、語学教室の相互行為では、相互行為参与者達はいかなる場合も「選択された者が応答する」という優先性に志向を示し、それによって「会話を前進させる」という優先性は緩和されることがある、ということがわかった。

↑プログラムへ

↑ページ先頭へ→研究会の活動→入会のご案内