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エスノメソドロジー・会話分析研究会:2009年度の活動


2009年度 秋の研究大会



→短信:簡単な報告と写真を掲載しました [2009/12/13]

概要

下記の要領で,エスノメソドロジー・会話分析(EMCA)研究会の年次研究大会を開催する予定です.様々な分野から多くの方にご参集いただき,議論に加わっていただけますことを期待しております.

 なお,午後のシンポジウムでは,いわゆる「ワークの研究」に焦点を当てたいと考えております.ガーフィンケルによって始められたワークの研究は, その後のエスノメソドロジーにおいて受け継がれ,社会学自体における理論的概念を再検討する機会を与えてきただけでなく,さまざまな領域との関係を持ってきています.たとえば科学研究,組織研究,社会福祉研究,システムデザイン研究などです.社会学のみならず,隣接領域でのフィールドワーク研究への関心の高まりもあるなかで,改めていくつかの領域におけるワークの研究について概観しながら,その意義や今後の展望を検討する機会としたいと考えています. (担当世話人:前田泰樹,池谷のぞみ,西阪 仰)

■開催日: 2009年10月25日(日)
■会 場: 東海大学高輪校舎地図 4号館 421教室

プログラム

  • 9:50 開会
  • 9:55-12:30 自由報告の部
    1. 西阪 仰「定期健診における問題提示―位置とデザイン」 (9:55-10:30) [→要旨]
    2. 小宮 友根「被害者の意思を「正しく」認識すること」 (10:30-11:05) [→要旨]
      [休憩 15分]
    3. 権 賢貞(クォン・ヒョンジョン)「ある対象物を指示する語の置き換え」(11:20-11:55) [→要旨]
    4. 鈴木 理恵「会話者間の相対的評価バランスの維持」 (11:55-12:30) [→要旨]
  • 12:30-13:30 昼休み[新旧世話人は,世話人会]
  • 13:30-14:00 総会
  • 14:00-17:00 シンポジウム
      報告者:
    1. 川床 靖子(大東文化大学)「インスクリプションのデザインに埋め込まれたワークのポリティクス」 [→要旨]
    2. 中村 和生(明治学院大学)「概念分析的手法による科学的ワークの研究」 [→要旨]
    3. 池谷 のぞみ(Palo AltoResearch Center)「ワークのデザインとエスノメソドロジー」 [→要旨]

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自由報告 要旨

鈴木 理恵
発表タイトル:会話者間の相対的評価バランスの維持
発表概要
本発表では,日本語の自然発生的な日常会話において,特に会話者が自己或いは他者を評価する際に,会話の連鎖構造が会話者間(時にその評価対象人物との関係をも含む)の人間力学といかに密接に関連しているかを例証する.評価発話を通して会話者がどのような社会行為を行い,それに対して他の会話者がどのように反応しているのか,これらの行為が会話者間の社会的連帯感の維持達成にどのように貢献しているのかに注目しながら,会話データを文法,音声,語用,会話展開の側面から分析する.観察する抜粋例では,発話者の自己卑下的スタンスが発話者自身と聞き手との比較の上に成立している.発話者が自身の評価上のステータスをある特定の聞き手のそれよりも低く位置づけるのに対して,聞き手は評価対象項目に関して発話者を聞き手と同等あるいはそれ以上に評価する.そうすることで聞き手は
  1. 先の発話者によって設定された両者間の相対的評価上の位置づけに異を唱え,
  2. 両者間の相対的評価バランスを調整して,ひいては
  3. 両者間の社会的連帯感の維持を試みている.
権 賢貞(クォン・ヒョンジョン)
発表タイトル: 「ある対象物を指示する語の置き換え」
発表概要
本発表は,日本語教育および第二言語習得分野の研究が日本語非母語話者の学習を検証するために用いてきた実験的会話(絵を説明し合うタスクを行う過程を収録した会話)において,ある対象物を指し示す言葉をめぐる母語話者と非母語話者のやり取りをデータとして提示する.本発表が焦点を当てるのは,非母語話者がある対象物をXと指し示すことに対し,母語話者は何ら理解に問題がないことを示す.しかし,母語話者自身がその対象物を言及するときになって,XではなくYという別の語を用いる現象である.本発表では,母語話者が,語の置き換えを通して「Xという対象物をYと指示する」という新たなルールへの変更を試みていることを述べる.また,母語話者の新たなルールへの変更により産み出される相互行為上の諸問題について論じ,母語話者がそれら問題を解決するために用いる手立てを考察する.最後に,非母語話者が,母語話者の新たな言語ルールへの変更をどのように理解しているのかについて観察する.

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小宮 友根
発表タイトル: 被害者の意思を「正しく」認識すること
発表概要
「正しい事実」の認識は,裁判(とりわけ刑事裁判)において裁判官が取り組む重要な課題のひとつである.ところで,成員カテゴリー化装置(MCD)という考えを展開する中でハーヴィ・サックスが指摘していたように,「正しい事実」の「正しさ」は,記述の認識可能性によって支えられている.したがってこの点から言えば,裁判官の課題は「認識可能に正しい可能な記述」を産出することである. 本報告では強姦事件の裁判の判決文を検討することで,そこで行為と行為者に与えられる記述が,いかに(本人の申告を否定するほど強く)行為者の心を「正しく」認識することに寄与しているかをあきらかにする.そして,MCDを用いて記述を産出する日常的実践が,法的事実を認定するという法的実践の構成要素にもなっていることから,強姦罪をめぐる独特の問題が生じていることを指摘する.そのうえで,人びとのアイデンティティを認識可能にする「装置」群の研究が,EM/CA研究の中で置かれるべき位置について,ひとつの示唆を与えたい.
西阪 仰
発表タイトル:「定期健診における問題提示―位置とデザイン」
発表概要
この報告では,「定期健診」での,医療受益者からの問題提示の組織について考察したい.西阪他『女性医療の会話分析』の7章は,いわば,現在進行中の活動に機会をえた「自己開始」問題提示の組織についての研究だった.それに対して,ここでは,医療専門家により開始されながらも,医療受益者のほうが主導権をとるような問題提示について考えたい.Stivers & Heritage (2001)が,一次医療における「検診」のなかで,医師の質問への返答のなかに,患者が問題提示を組み込む例を分析している.この報告では,42の妊婦健診のなかから,質問への答えに組み込まれた,妊婦による問題提示が,どのようにデザインされ,医療専門家にどう扱われるかを,会話分析の手法により考察する.妊婦の心配は,きわめて端的に表明されるが,それは医療専門家によってすぐに取り上げられることが少ない.この相互行為的な展開は,健診の全体構造と局所的な組織の両方向からの制約にもとづくものであることを,示したい.

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シンポジウム 報告要旨

中村和生(明治学院大学)
概念分析的手法による科学的ワークの研究
報告要旨
1972年サックスによって始められたとされるワークの研究は、その後ガーフィンケルたちによって主に自然科学の領域を対象として行われていった。本報告では、まず、第一に、ガーフィンケルの教えにおいてワークの研究とはいかなるものであったのかを最低限振り返っておく。その上で、第二に、そうした方針の下に行われた科学的ワークの研究を、とくに実験室研究とテクスト研究を中心に概観する。そして、第三に、「人工類(human kinds)のループ効果」(I.ハッキング)という発想を契機として行われた科学的ワークの研究の新たな展開として、概念分析的手法を用いた研究を取り上げる。そして、この展開の意義や貢献について若干の考察も試みたい。
川床靖子(大東文化大学)
インスクリプションのデザインに埋め込まれたワークのポリティクス
報告要旨
ワークの現場では数々のインスクリプションが産み出され、使用される。冷蔵倉庫の作業者は黒板の記述から過去と未来の荷の動きを読み作業を組み立てる。機械部品の製造過程では一つの作業標準書が異なる視点から参照され、人と技術とモノをリンクする。森林の自主管理組織で産出された帳簿類はメンバー相互の監視ひいては協同的活動の維持・構成の役割を果たす。ワークへの参加とはインスクリプションを作り使用する社会・技術的ネットワークの一員になることだ.他方、コピー機の修理実践では機械来歴表を含む様々なアーティファクトが指示、コントロール、葛藤を埋め込んでワークの現場に配置される。アーティファクトのデザインと使用が社会・歴史的葛藤の産物であり、かつ、管理システムのデザインと相互構成的関係にあることを示している。この発表では、介護保険制度を構成するインスクリプションを通して、この制度は誰が、何を、どのような観点からデザインするものか、このネットワークへの参加はどのような葛藤を内包するものかを見ていく。

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池谷のぞみ(Palo Alto Research Center)
ワークのデザインとエスノメソドロジー
報告要旨
エスノメソドロジー(EM)研究者は、ワーク研究の研究を通じて、テクノロジーを含むさまざまなデザインの領域と関わってきている。特にシステムデザインの領域では、EM研究者がフィールドワークの結果を報告したり、その分析を提示してシステムデザイナーに活用してもらう、という「情報提供」のレベルにとどまらない。システムデザイナーが組み立てる抽象化の枠組みに対して、EM研究者が分析に基づいて提示する「実践において用いられる一般化された知識」を組み込んでいくという方向性も出されている。しかし、こうしたデザインに関わる動きは、システムデザインに限らない。いわゆる制度場面と呼ばれるような場面における活動などは、あらかじめ組織において「デザイン」されなければならない。EMがいかに「ワーク」のデザインと関わり得るのか、事例を交えながら報告する。

お問い合わせ

  • 研究大会に関する問い合わせは augnish(atmark)soc.meijigakuin.ac.jp (西阪) まで
  • 入会手続き等,EMCA研に関する問い合わせは エスノメソドロジー・会話分析研究会 事務局 (EMCA研事務局)まで

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2009年度 春の研究例会



→短信:簡単な報告と写真を掲載しました [2010/05/27]

概 要

法のエスノメソドロジーと会話分析:マックス・トラバース氏を招いて

 今回は、マックス・トラバース(Max Travers)氏の来日に併せて、「法」を巡る現象(法律、裁判、ルール、規範、法意識、法カテゴリー、法専門職・法制度内相互行為などを広く含む)に焦点を当てることにしました。
 午前は北村隆憲会員の協力を得て研究報告を設定しました。午後はエスノメソドロジーおよび会話分析の観点から法現象の研究を行うトラバース氏(マンチェスター大学より博士学位授与、現在 School of Sociology and Social Work, University of Tasmania, Australia において Senior Lecturer、英国でソリシター(事務弁護士)としての資格と経験も持つ)による2つの講演があります。どうぞふるってご参加ください。なお、トラバース氏の講演には逐次通訳がつく予定です。お問い合わせは、世話人 sewanin[atmark]emca.jp までお願いいたします。
※例会後に懇親会も予定しておりますので、ふるってご参加ください。(担当世話人:南保輔・前田泰樹・ 池谷のぞみ)

■日時: 平成22年3月26日(金) 10:00~17:00(参加費無料)
■会場: 成城大学3号館3階大会議室 [地図

【午前の部】研究報告(日本語/英語)

    (司会: 北村隆憲(東海大学))
  1. 中山和彦(神戸大学)
    協働決定としてのインフォームド・コンセントへ向けて-ALSとともに生きる人の経験を手がかりとして
    (Toward Informed Consent as a collaborative decision between clients and doctors: on the basis of the ethnomethodological inquiry into people's experiences living with ALS)[→要旨
  2. 山田恵子(神戸大学)
    法律相談における「法的合理性」の指示と共通リアリティの産出
    (Sharing Reality: Lawyer's Instruction of "Legal Rationality" and "Psychological Understanding" in Legal-Counseling)[→要旨
  3. 小宮友根(明治学院大学ほか非常勤講師)
    法的推論と常識的知識
    (Legal Reasoning and Commonsense Knowledge)[→要旨
  4. 米田憲市(鹿児島大学)
    「法」的なものとして特徴づけること - ローヤリング・スキル教育のビデオデータからの知見(仮)
    (Characterizing It As Legal:Some findings in Video Data of Lawyering Skill Education)[→要旨
  5. 樫村志郎(神戸大学)
    いかにして、人々は、法を用いて/用いずに、法に従うか?
    (How do people follow the law/rules with/without laws/rules?)[→要旨

【午後の部】講演:マックス・トラバース(通訳つき) 14:00~17:00

    (司会:池谷のぞみ(Palo Alto Research Center))
  • (前半)Ethnomethodology, conversation analysis and law
  • (後半)In search of court culture: How ethnographic methods explain juvenile detention rates in three Australian states

プログラム1: 研究報告と議論 〔報告要旨〕

報告1: 中山和彦
協働決定としてのインフォームド・コンセントへ向けて-ALSとともに生きる人の経験を手がかりとして
(Toward Informed Consent as a collaborative decision between clients and doctors: on the basis of the ethnomethodological inquiry into people's experiences living with ALS)
報告要旨:

 今日、医師は重大な医療行為について施術の適否を、患者の意思を考慮し決定するべきだと考えられている。これは、インフォームド・コンセント(以下、ICと略称する)と呼ばれる。実効的なICは、医師と患者の間の円滑なコミュニケーションを前提とする。しかし、今日の医師患者関係の様々な性質は、かかるコミュニケーションを困難にしている。本研究は、ある難病(ALS=筋萎縮性側索硬化症)における、4例の医師患者関係事例を、患者/患者家族への聞き取りに基づいて理解し、円滑なコミュニケーションを実現するための条件を探究するものである。
 本研究は、医師と患者の円滑なコミュニケーションを妨げる性質として、次の4点に注目する。(a)医師-患者関係は「権力的関係」と言われ、非対等性が見られる。(b)交換される情報に関しても、専門知の有無という点から「非対等性」が見られる。(c)さらに、交換される情報の内容について、「医療の高度化・複雑化」に由来して、複雑な治療に対する理解可能性を医療側が求める必要がある。(d)日常生活の様々な側面が医学的問題として捉えられることにより、「医療が日常生活に介入」している。
 ICは、実定法・法理論のほか、専門医学会が策定する治療ガイドラインにより、規範的に規定されている。本研究では、まず、それらの実定法・法理論、ソフトローたる治療ガイドラインによって、どれほど具体的に、医師患者間のコミュニケーションが規律されているかを一般的に検討する。それらの規律においては、患者の自己決定権を尊重しなければならないことなどが一般的には規定されているが、患者と医師のコミュニケーションを実践的に規律できるほどの明細性に欠けていると考えられる。
エスノメソドロジーの視角によれば、人々がかれら自身の関係についてもつ理解は、人々がそれぞれの場面において適切さをもつものである。この視角を参照しつつ、医師-病者(患者)関係におけるコミュニケーションのあり方を記述する。
病気や治療の定義は、医療相互行為の中で状況依存的に行われていること,病気の認識や治療の意義が医療相互行為の中で状況内在的に行われていること,そして,医療的意思決定は医療相互行為の中でのみ達成されることである。この視角から,(1)病気探索過程 医師と患者との治療関係に先立ち,患者自身や家族による病気への対処や診断の探索が行われていること,(2)制度的医療過程の可変性と状況依存性 医師と患者の相互行為の開始は,患者らによる病気探索のコンティンジェントな達成である。その後の相互行為の展開において、医学とともに,日常的状況が問題になる。このことから治療目的は,可変的ないし多様となる。病人は、制度に取り込まれることで、患者へと変容する。(3)告知 医師の診断を受けるという段階において、医師と患者の相互行為は、相互の了解と共同を達成するという関心に基づく組織化の条件や基盤として、意識されている。患者は、家族とどのように過ごしていきたいかに基づく判断を行っている。医師は、患者に選択を委ねるという、患者の日常性への配慮を示している。つまり、決定は、医学的な性質と生活重視的な性質のものの結合である。しかし、患者自身の日常的行為の自力遂行の困難と家族の介護の負担による通常生活の困難は、<家族と共にある日常性>を喪失させている。病者・患者の決定は、孤独に行われる。患者の決定が、十分な情報基盤の上で行えるように、情報提供の必要性が重要である。
 以上を踏まえ、医師-患者関係を適切に構築するためには「協働決定」の関係を本質とすることを主張する。このことは、医師に対して患者が積極的に発言する、あるいは発言を控えるという現象の観察に基づくものだ。診療場面において、医師と患者間では、交渉がなされ、責任の分配をしている。診療過程における決定は、病者と支援者との間の相互行為を含んだものである。これまでの考察から示唆されることは、病気の対処過程は、日常世界と制度的世界の二重性を有している。医師と専門支援者と患者・病者の関係は、潜在的に双方向的かつ協同的関係になる傾向がある。
 上記の考察から、インフォームド・コンセントの有効活用の要件として、3つ挙げる。(1)医師と患者において、双方が問題の可視化と共有すること。(2)協働決定としての自己決定が重要だ。過度な自己決定は、パターナリズムに回帰する危険性がある。(3)日常的世界と医療専門的世界の文脈の「配慮」による結合。つまり、患者は、<家族と共にある日常性>を希求する。この日常性回復のために<治療の対象としての病気>に関する専門知の必要性。このことを実現するためには、段階的インフォームド・コンセントが必要であり、専門医療的文脈の外にある日常性の文脈への影響をコントロールする必要性がある。

報告2: 山田恵子
法律相談における「法的合理性」の指示と共通リアリティの産出
(Sharing Reality: Lawyer's Instruction of "Legal Rationality" and "Psychological Understanding" in Legal-Counseling)
報告要旨:
 周知のように、わが国の法律相談研究は、弁護士による相談者の心理の排除、抑圧という理論的・経験的理解の下、法と心理の調整を、法学と臨床心理学(とりわけカウンセリング)の協働によって解決しようとしてきた。これらの研究にはいくつかの理論的・方法論的バージョンが存在するが、いずれも「法」と「心理」を相互に関連付ける当事者達の「実践的方法論」を看過してきた点で同一である。本報告では、ある法律相談場面の会話分析を通して、かかる方法論それ自体―法と心理の現実的連関という基礎的問題―に光を当ててみたい。具体的には、両当事者が「法」および「心理」を「資源」ないし「課題」とすることで、いかにして「法的合理性」の指示を達成し共通リアリティを産出しているかについて検討する。なお、本報告で扱う会話記録は、報告者が2006年の8月から11月にかけて東北地方の某法律事務所で参与観察を行ったさいに収集したデータの一部である。
報告3: 小宮友根
法的推論と常識的知識
(Legal Reasoning and Commonsense Knowledge)
報告要旨:
 一般的に言って、法的推論はきわめて専門性の高い実践である。法や判例、学説についての膨大な知識がなければ、目の前の事実にどの法をどう適用すべきかを決めることはできない。他方、法的推論においては常識的知識の運用も欠かすことの出来ない重要な要素である。法令を適用すべき「事実」がいかなるものであったかは、常識的知識の使用なくしては決して理解できない。  本報告では刑事裁判において常識的知識が法的推論の中でどのように用いられているかを検討することで、規則(法)と行為(犯罪事実)の相互反映的関係について考察する。一方で法は犯罪事実に適用されるのだが、他方で法の意味は犯罪事実の認定を通してそのつど明らかにされる。このことから、常識的知識が法システムにとって構成的なものであることを論じる。
報告4: 米田憲市
「法」的なものとして特徴づけること - ローヤリング・スキル教育のビデオデータからの知見(仮)
(Characterizing It As Legal:Some findings in Video Data of Lawyering Skill Education)
報告要旨:
I will report some of the members skills to find "legal" in the situation of Lawyering Skill Education and observing it. Last September, we conducted the experimental trial with the cooperation of our research project member and some students of the Legal Training and Research Institute. The class of Lawyering Skill Education including legal counseling practices and legal negotiation practices was carried out then. I organized it as trainer and we have observed and participate in it, and got Video Data. Using the results of analysis on this data, I will show some practice to illustrate "legal".
報告5: 樫村志郎
いかにして、人々は、法を用いて/用いずに、法に従うか?
(How do people follow the law/rules with/without laws/rules?)
報告要旨:

 本報告では,人々が法を用いて/それを用いずに、行う法追従について、一つの見方を提案する—その見方によれば、(A)人々が法に従って行為すること(法追従)と、(B)人々がそのこと(法追従)を記述したりそのことが法に合致している/いないと述べることは、一つの事実に異なった仕方で関わり合うことであると、主張される。また、通例的法社会学と法のエスノメソドロジー研究とは,後者が法社会学における説明の学問的基礎および法実践の社会的基礎とを,経験的かつ批判的に解明することにつながるという関係にあると主張される。この立場の要点を例を通じてあきらかにしたい.
 法の社会的側面にかかる通例的記述(通例的法記述)では,法の社会学的側面を理解するために,(1)法という主題を法にかかわる経験的事実として定義し,(2) 法にかかわる経験的事実の報告/記述を対象として,(3) 法という主題にかかわる一般的で経験的な言明体系にそれを位置づける,という作業を行ってきた,あるいは,そう行うべきだ,とみなされてきた.これに対して,1950年代後半から今日までのエスノメソドロジー研究の発展(参照,Garfinkel 2002)は,(1) 根底的にルールに依存しない社会学的説明を行う点,(2) ルールをその使用の中で解明しようとする点などから,その独特な社会学的立場を形成してきた(樫村 2009).このようなエスノメソドロジーの立場は,法社会学理論と競合する関係に立つのではなく,法社会学研究にあらたな主題と関心を付加するものである(樫村 2004a, 2004b).
 効率的議論のために,一組の行為からいくつかの例を提供する.それは,法学部学生が社会的ルールを観察するなかで,法に関する一般的知識をいかに用いるか(学生の社会学によるルール研究)である.つぎに掲げるのは,そうした例であって,ある法学部学生が,社会的ルールの「経験的観察」を行い,それに対応する「説明/理論化」を行った例である(同一人が同一場面で行ったものである).

(観察の例)

A「人々はエスカレーターに乗ると必ずより急ぐ人の為に片側をあけていた.一段に二人ずつ乗っている人はいない.みな行儀よく一段に一人ずつ乗り,急ぐ人はあけられた側を登っていく.しばらくすると列が途切れた.列が途切れてはまた人がエスカレーターに乗っていく.規則正しく,片側によって.片側をあける際は,必ず右側に寄るというわけではないらしい.ある列では右側に,違う列では左側とバラバラだ.・・・」 (対応する説明/理論化の例)
B「『人の流れを妨げない』,『エスカレーターの片側をあける』といったルールが互いに理解されている.人の流れを妨げないという事が互いに理解されており,相互調整がとられている.調整を可能にするメディアは言語ではなく,人の歩く方向や目標がその場で即座に理解できるものだ,という事情にかかわるものであることが分かる.・・」

 以上のような構造をもつ行為により,法社会学的観察者/説明者たる地位において,学生が何をしているか/何をしていないか.(「ルールが互いに理解されている」という部分は,説明ではなくて観察だと見たい人もいるだろう--それはなぜか,ということもここで問題になりうることの一つである.)なお,この例についてなされうる一つの観察は,観察者/説明者は,こうするなかで,法/社会的ルールに追従するという行動(法/ルール追従)のある側面を決して見ないということである.
 このような仕方で,法社会学理論の作業と法社会学的研究--法専門家が行うものであれ,法以外の各種専門家が行うものであれ,素人が行うものであれ--,社会学的事実として法を構成する諸事実,およびそれらの間の関係は,経験的社会的事象として,エスノメソドロジー研究の対象となる.エスノメソドロジー研究は,人々が秩序において何をするのか,とりわけ,法理解に関して人々が実際に何をするのかを問 う.
 また,これらの検討により,実体法(制定法や判例といった、書かれた法)や通例的法理解(たとえば、法社会学理論、法解釈学説)はいかにしてエスノメソドロジー研究に役立てられうるか(専門家の法社会学研究・法社会学理論・人々の法遵守行動とそれらの関係)も議論してみたい(参照,樫村 2002).

参考文献:
Garfinkel, Harold   2002Ethnomethodology's Program: Working Out Durkheim's Aphorism amazon (Legacies of Social Thought) Rowman & Littlefield.
樫村志郎 2009「局地的に生成される秩序としての法」(日本社会学会第82回大会「ハロルド・ガーフィンケルの業績の再評価」報告,2009年10月12日,立教大学)
----------2007「水平的秩序の法--グローバル性のもとでの法、政治、市民社会の再定義--」樫村志郎編『規範と交渉(法動態学叢書・水平的秩序 1)』 amazon法律文化社
----------2004a「法現象の分析」山崎敬一編『実践エスノメソドロジー入門』有斐閣.
----------2004b「エスノメソドロジーと法」和田仁孝・太田勝造・阿部昌樹編, 『法と社会へのアプローチ』 amazon日本評論社.
----------2002「実定法について─エスノメソドロジーの視角から─」佐藤進=斉藤修編集代表『現代民事法学の理論─西原道雄先生古稀記念─・下巻』 amazon信山社.
----------「2009年度・応用法社会学ホームページ」

ご紹介: トラバースの主要な編著書
  1. Theory And Method in Socio-legal Research amazon (Onati International Series in Law & Society), Hart Publishing, 2005. (Reza Banakarとの共編著)
  2. An Introduction to Law and Social Theory amazon, Oxford, Hart Publishing, 2002. (Reza Banakarとの共編著)
  3. Qualitative Research through Case Studies amazon, London, Sage, 2001
  4. The British Immigration Courts: A Study of Law and Politics amazon, Bristol, ThePolicy Press, 1999.
  5. The Reality of Law: Work and Talk in a Firm of Criminal Lawyers amazon, Aldershot, Ashgate, 1997.
  6. Law in Action: Ethnomethodological and Conversation Analytic Approaches to Law amazon, Aldershot, Ashgate, 1997. (John. Manzoとの共編)

 上記リスト6のトラバースとマンゾー共編文献は、これまでの法現象に関するエスノメソドロジー・会話分析的研究中の初期及び最近の業績を集めた論文集で、邦訳が現在進行中です(北村隆憲 監・訳、岡田光弘・池谷のぞみ・小宮友根訳『社会的実践としての法―エスノメソドロジー・会話分析アプローチによる“生ける法”の探求(仮題)』 新曜社、2010年)。
 また、上記5の文献からの2つの章と「法のEMCA」についての概説論文とが邦訳されています(以下のWEBサイトからダウンロード可能です:http://pubweb.cc.u-tokai.ac.jp/ken3282/北村情報/gyoseki.htm)。


お問い合わせ

  • 研究例会に関する問い合わせは、sewanin[atmark]emca.jp (EMCA研世話人)まで
  • 入会手続き等、EMCA研に関する問い合わせは エスノメソドロジー・会話分析研究会 事務局 (EMCA研事務局)まで

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