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マイケル・リンチ『エスノメソドロジーと科学実践の社会学』 もっと学びたいひとのための文献情報 > 研究会会員の著作紹介

マイケル・リンチ(水川喜文・中村和生 監訳)
エスノメソドロジーと科学実践の社会学

目次と書誌

A5判/464頁
発行 2012年10月
定価 5565円(税込)
ISBN978-4-326-60244-5
勁草書房 | 訳者のページ |
本書は、社会学から生まれたエスノメソドロジーの誕生と展開を詳述した基本書である。入門的論点から、会話分析の興隆と陥穽、ウィトゲンシュタインに着想を得た独自の視点までも論じる。また、科学実践の社会学の先駆者ラトゥールらの「新しい」科学社会学との相違やエスノメソドロジーの向かうべき方向性も提示する。
■原著
Michael Lynch (1993) Scientific Practice and Ordinary Action: Ethnomethodology and Social Studies of Science , Cambridge University Press.
■訳者(監訳者以外):浦野 茂、前田 泰樹、高山 啓子、岡田 光弘、芦川 晋
1. 社会学と通分野的な批判的ディスコース
2. 断片的プログラムと複雑な織り合わせ
3. 本書の構成
第1章 エスノメソドロジー
1. ガーフィンケルによるエスノメソドロジーの考案
2. 初期の発想
3. エスノメソドロジーの中心となるテキストとその方針
説明可能性(アカウンタビリティ)
相互反映性(リフレクシビティ)
インデックス性
4. エスノメソドロジーの2 つの研究プログラム
ワークのエスノメソドロジー研究
会話分析
5. エスノメソドロジー批判
研究スタイルと専門的行動の問題
研究規模と文脈の問題
権力と解放への問い
意味と自己反省への問い
6. 結論
第2章 「古い」科学社会学の終焉
1. 「古い」科学社会学への批判
マンハイムの「修正」
マートンの自己例示的な科学社会学への攻撃
2. ストロングプログラムの知識社会学への統合
第3章 新しい科学知識の社会学の興隆
1. ストロングプログラムの方針
因果性
対称性と不偏性
再帰性
2. ストロングプログラムの子孫,きょうだい,親族
ストロングプログラムの継続
経験的相対主義プログラム
実験室研究
3. 相対主義研究と構築主義研究の危機
再帰的な転回
4. ポスト構築主義の潮流
5. ワークのエスノメソドロジー研究
第4章 現象学とプロト・エスノメソドロジー
1. 自然科学の現象学的系譜
2. ローカルに組織された諸活動
活動の諸構成
3. カウフマン,シュッツ,プロトエスノメソドロジー
エスノメソドロジー的無関心
トピックとリソース
4. プロトエスノメソドロジーを越えて?
補遺――線上の社会としての交通
第5章 ウィトゲンシュタイン、ルール、認識論のトピック
1. ウィトゲンシュタインと規則の懐疑主義
規則,行為,懐疑主義
ウィトゲンシュタインの懐疑主義批判
科学社会学や数学の社会学はありうるのか?
2. 定式化と実践的行為
3. 数学の社会学から数学の実践学ヘ
4. ウィトゲンシュタインの経験的拡張にむけて
第6章 分子社会学
1. 人間行動の自然観察科学
原始的自然科学
原始的科学を科学の神話として書き直す
2. 会話分析の専門化
第1段階――日常言語の自然哲学
第2段階――分析的学問
順番取り装置
自由主義的エコノミー
3. メンバーの直観と専門的分析
4. 言語行為に関する日常的なカテゴリーと分析的カテゴリー
5. 分析を置き換える
補遺――分子生物学とエスノメソドロジー
第7章 本質から個性原理へ──ワークのエスノメソドロジー研究
1. 見失われた何か
2. 本質的内容から反復可能な認識トピックへ
3. 教示された行為と生活世界ペア
4. 原始的な認識トピックの探求へ向かって
結論
1. ポスト分析的科学研究
2. 秩序だった,日常的なものとしての科学

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本書から: 日本語版序文(ii-ivページ)より

[本書]は、エスノメソドロジーと科学社会学の一般的な入門書として書かれました。しかし本書は、私が長い間研究してきたこれら2つの領域の紹介だけにとどまってはいません。私は、エスノメソドロジーと科学社会学を共に示しながら、エスノメソドロジーを用いて、しばしば等閑視される科学の社会的研究の視点を批判的に理解することを意図しました。エスノメソドロジーは、しばしば科学の社会的研究の先駆的研究とされます。しかし、私が本書で議論したとおり、エスノメソドロジーは、科学の社会的研究への批判的な視点を提供するものであり、科学社会学・科学史・科学哲学における「構築主義」や「実在論」の批判者が互いになしている終りなき議論では、ほとんど取り上げられることがないものです。
本書において私は、データ産出に対して経験的な(しかし経験主義的ではない)アプローチについて好意的に議論を展開しています。データの産出には、科学哲学と親しい関係を持つテーマが数多く含まれています。例えば、観察、表象、実験、測定、証明です。ガーフィンケルとウィトゲンシュタインに沿いながら、私はこのような用語と関連する認識論的、方法論的問題から離れ、それらをエスノグラフィー研究のトピックとして扱うことを提起しました。

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翻訳者に聞く ── 一問一答

本訳書を出版しようと思った動機やきっかけを教えてください.
本書がエスノメソドロジー、科学実践研究、およびその関連分野における基本書であることが翻訳の主要な動機です。そもそものきっかけは、1993年春、水川がマンチェスター大学のウェス・シャロック氏の元で訪問研究中に、シャロック氏を来訪したリンチ氏から、これまでの研究をまとめた著書を出版するという話を聞いたことにさかのぼります。
その2年後の1995年に、本書がアメリカ社会学会から「ロバート・K・マートン賞」を受賞したこと*が、翻訳作業に踏み出す後押しとなりました。(水川・中村)
* コーネル大学のリンチ氏のページ参照。
構想・翻訳期間はどれくらいですか?

構想は、1993年春にマンチェスターでリンチ氏から草稿を見せて頂いた時からということになります。
翻訳期間は、90年代半ばに日本での研究会で5年ほど検討した後、中断したものの、2005年頃から再開し、今に至るまで断続的に取り組んできました。(水川・中村)
翻訳作業中のエピソード(苦労した点・楽しかったこと・思いがけないことなど)があれば教えてください。
作業はその長さや内容という点から、苦労という言葉ではとても表現できないほど困難で、エピソードもここには書けないことばかりです。(水川)
90年代半ばに、大学院からオーバードクターにかけての5年以上、本書を毎週2、3時間、他のエスノメソドロジーの文献と合わせて4時間以上、共訳者を含めた方々と一緒に検討し続けたことは、今となっては自分の大きな糧となりました。(中村)
社会学的(EMCA的でも可)にみて、本書の一番の「売り」はなんだと思いますか?
本書は、エスノメソドロジーと科学実践の研究のほとんど全ての基本的議論をおさえています(例えば以下)
  • エスノメソドロジーに関わる基礎的発想とそれに対する伝統的社会学からの批判とさらなる反批判
  • ウィトゲンシュタイン的発想とその発展 ・科学の社会的研究の史的展開と、実践研究に基づいたその展開への批判と提案
  • 会話分析の陥穽
  • エスノメソドロジー研究の展開可能性などなど。
そのひとつひとつについての概説・解説などではなく、実際の議論・論争に直接関わったリンチ氏が自らの見解をまとめて示していることが売りだと思います。(水川・中村)
そうした著述の中で、会話分析という強力で安定した技法に対して、オルタナティヴとなるやり方を目指すエスノメソドロジーの態度が示されていることが一番の「売り」です。(中村)
EMCA初学者は、どこから読むのが分かりやすいと思いますか?
また、読むときに参考になる本や、読む際の留意点があれば、教えてください.
1章には、エスノメソドロジーの基本的な用語や議論が網羅されています。まずこれを読んだ上で、各人の関心によって、現象学との関係については4章を、ウィトゲンシュタインの議論に関しては5章を、会話分析に関する議論ついては6章を、ワークの研究や「認識トピック」については7章を、ご参照いただければと思います。
本書の難解な用語や議論のポイントを確認をするために、前田・水川・岡田編著『エスノメソドロジー』(新曜社)を参考にするのが効率的だと思います。(水川・中村)
言語学者に特に読んで欲しい箇所はありますか? その理由は?
6章は、会話分析について論じているため、言語学者にぜひ一読して欲しいです。言語学・社会言語学・言語教育やその関連分野において、録音・録画を用いた自然な会話を扱う研究として、会話分析が一般的なやり方として普及しつつありますが、それにどのような特徴があり、どのような問題点があるかについて明確に論じています。(水川・中村)
認知科学者に特に読んで欲しい箇所はありますか? その理由は?
認知科学者には、7章を読んで欲しいと思います。ここでは「観察」「表象」「計測」「証明」「発見」といった認知科学で一般的とされる概念について再考しています。これらの概念に関して、リンチの言う「認識トピック」へのアプローチの仕方を、エスノメソドロジーの視点から提案しています。(水川・中村)
人々の実践や活動を研究する人に特に読んで欲しい箇所はありますか? その理由は?
まず、1章を読んで、エスノメソドロジー研究の基本的な「こだわり」について知っていただけたらと思います。1章だけでもかなり充実した議論が収められています。
次に、6章を方法論的な議論として読むと、会話分析の技法の概略を知ることができ、またそこでの問題点も理解できるでしょう。
さらに7章に進めば、会話分析とは異なるエスノメソドロジー独自のやり方で社会実践・科学実践に差し迫るやり方を知ることができます。(水川・中村)
エスノメソドロジーに詳しい人に読んで欲しい箇所はありますか?その理由は?
7章には、本書で唱えている「認識トピック」探究の方針が、以下の部分などに総括して書かれています。
(前略)エスノメソドロジーにとって「インデックス性」は認識論上の問題ではまったくないことを思い出すと、科学という諸々の言語ゲームにおける認識トピックのインデックス的役割は曖昧さや決定不能性の源泉以上のものとなる。この役割は「インデックス的表現の合理的な特性」の探究のためのトピックとなる。
(第7章「本質から個性原理へ」 p353, 3段落目)
ここには、ガーフィンケルに由来するエスノメソドロジーのアイデアを継承した立場として「ポスト分析的エスノメソドロジー」の方向性が示されています。(中村)

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書評情報

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本書で扱われていること ── キーワード集

認識トピック、ポスト分析的エスノメソドロジー、基礎づけ主義(批判)、科学実践

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