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小宮友根『実践の中のジェンダー──法システムの社会学的記述』もっと学びたいひとのための文献情報 > 研究会会員の著作紹介

小宮友根
実践の中のジェンダー──法システムの社会学的記述

書誌と目次

2011年 9月 刊行
定価 2940円(税込)
四六判 328頁
ISBN 978-4-7885-1254-2
新曜社 | 著作紹介ページ |
ジェンダーという言葉は、性と社会をめぐる議論では社会的な性差を指す言葉としてすっかり一般的な表現です。しかし性差が〈社会的〉だとはいったい何 を意味するのでしょうか。性差の原因が後天的・人為的だということでしょうか?  著者はこの一般的理解が陥る危険を示し、より豊かな現実の理解のため、社会の現場に戻る経験的な研究を促します。私たちの社会生活は、お互いに行為し理解しあうという〈意味〉をめぐるやりとりであり、「性現象の社会性」はこの社会生活の実際を適切に記述することでこそ明らかになるというのです。フェミニズムやシステム理論が予示した社会秩序の研究を、ジェンダーと法をめぐるトピックを実際に記述するなかで実現する清新な野心作です。


まえがき
1 「規範」としてのジェンダー
2 ジェンダー概念と社会批判
3 法的実践の中のジェンダー
T部 社会秩序の記述
第1章 性現象の「社会」性
1 はじめに
2 パフォーマティヴィティ概念の構成
3 パフォーマティヴィティ概念の困難
4 「構築」主義の「思考上の制約」
5 行為の記述と社会生活の編成
6 おわりに
第1章補論 行為とコンテクストの相互構成的関係
    あるいは間接的言語行為について
1 オースティンの「パフォーマティヴ」
2 デリダのオースティン批判
3 デリダのオースティン批判の問題点
4 コンテクストを作ること
第2章 社会システムの経験的記述
1 はじめに
2 社会秩序の概念化をめぐる問題
3 ルーマンの「社会システム」
4 ルーマンの「相互行為システム」
5 「対面状況」の社会システム論的記述
6 おわりに
第3章 社会秩序の記述と批判
1 はじめに
2 論争: 会話分析 vs. 批判的談話分析
3 ミクロ - マクロ問題
4 「価値判断」と記述の身分
5 おわりに
U部 法的実践の中のジェンダー
第4章 法的推論と常識的知識
1 はじめに
2 「法と社会」という思考法
3 実践としての法的推論
4 判決文の理解可能性
5 おわりに:全体社会のサブシステムとしての
       法システムの作動
第5章 強姦罪における性的自由
1 はじめに
2 強姦罪の正当性をめぐる争い
3 強姦罪の「古い」解釈
4 法的実践のなかの「被害者の意思」
5 おわりに
第6章 被害者の意思を認定する
1 はじめに
2 「判決文を書く」実践
3 「被害者の意思」を推論する方法
4 被害者の意思を認定する
5 おわりに
第7章 ポルノグラフィと「女性の被害」の経験
1 はじめに
2 反ポルノグラフィ公民権条例
3 「行為」か「表現」か
4 ポルノグラフィと「女性の被害」
5 おわりに:革命的カテゴリー
 
あとがき
文献
人名索引
事項索引

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本書から:

出版社のサイトで「まえがき」の一部が読めますので、ここでは「あとがき」の一部をご紹介します。]

 私たちが社会生活のなかで帯びるアイデンティティには無数の記述可能性があり、それゆえ、適切なやりとりをしていくためには、そのつど適切な記述が選ばれなければならない。だから、ある人のアイデンティティがいま何者として記述されるべきかについて理解を示すことはそのまま、いまその場面がどういう場面であり、自分たちが何をしているかについての理解を示すことになる。要するに、それは端的に、何かをやることである。そしてこのことは、私たちが性別を持つこと、つまり「男」であったり「女」であったりすることや、あるいは私たちが自由と平等という権利を持つ「個人」であることなどにとっても、本質的に変わりはない。すなわち、そうしたアイデンティティの理解が適切なものとなるのは、その選択が何らかの実践の中に埋め込まれているがゆえのことである。(pp. 286-287)

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著者に聞く ── 一問一答

本書をまとめようと思った動機やきっかけを教えてください
本書は私の博士論文を大幅に改稿したものです。なので、院生時代に自分が考えてきたことを、とにかく一つの形にまとめなければならないという義務感に終始突き動かされて執筆をしていました。
構想・執筆・編集期間はどれくらいですか?
修士課程に入学してから博士論文を提出するまで7年半、それから出版までさらに3年かかりました。自分でも辟易するくらい筆が遅く、編集者の方にはご迷惑をおかけしました。
編本書以前に執筆された著書(あるいは論文)との関係を教えてください。
基本的には、院生時代に書いてきた論文が本書におさめられています。ただ、論文とは別に、自分の研究を進める中で学んだことを書かせていただいたいくつかの教科書(『ブリッジブック社会学』『ワードマップ・エスノメソドロジー』)の文章は、社会学の中で本書のような研究が占める位置を示そうとしたものだと言えるかもしれません。
編集作業中のエピソード(苦労した点・楽しかったこと・思いがけないことなど)があれば教えてください
怠惰な根性によって粗雑に書かれた過去の自分の文章と向き合う作業は、とても苦痛でした(3年後には、今書いているものに同じような感想を持つに違いありません)。そんな中、本書の7章のもとになった論文について、研究者コミュニティの外で読書会を開催していただいたことは、思いがけず、また楽しい出来事でした。
執筆中のBGMや、気分転換の方法は?
音楽は、かけると集中できなくなってしまうたちなので、かけません。気分転換には、twitterでさまざまな人の言葉に触れることが役に立ちました。むしろツイートしながら気分転換に執筆をしていたことは秘密です。
執筆において特に影響を受けていると思う研究者(あるいは著作)は?
「影響を受けている」などと言うと怒られてしまいそうですが、私自身としては、江原由美子先生と西阪仰先生の研究には、自分の思考とうまく分離できないほど深く影響を受けていると思っています。お二人の教えを受けられたことは、私にとって非常に幸せな経験でした。またその上で私自身の研究をいかに進めていくかは、今後の大きな課題だと思っています。
社会学的にみて,本書の一番の「売り」はなんだと思いますか?
[1] ジュディス・バトラーやニクラス・ルーマンといった、きわめて重要で、実際多くの研究者が言及する理論家について、その理論が、社会学のおこなう経験的研究にとってどのような意義をもちうるのかを、わりと正面から考えていること
[2] そうした考えを、性犯罪の裁かれ方や、ポルノグラフィの不当性をめぐる議論のような、具体的主題の記述の中で展開することを試みていること
[3] 「エスノメソドロジー」という言葉は最後の最後まで出てこないので、「エスノメソドロジーってジャーゴンだらけで難しそうで何だかよくわからない」という人にとっても、ジェンダー研究や社会学方法論にとってEM/CAの持つ意義(と私が考えるもの)を理解してもらいやすいものになっているかもしれないこと
ジェンダー研究者に特に読んで欲しい箇所はありますか?その理由は?
1章、5章、6章、7章です。ジュディス・バトラーの「パフォーマティヴィティ」概念は、言及されることがとても多い概念であるにもかかわらず、「性現象の社会性」の研究にとってのその意義が明確に論じられることがあまりなかったという印象を持っています。1章では、行為やアイデンティティの理解可能性への注目という点にその概念の意義を見いだし、5〜7章ではその理解可能性の記述が、法の中のジェンダー問題の理解に寄与することを示そうと試みています。
法社会学者に特に読んで欲しい箇所はありますか?その理由は?
第II部です。第II部は全体として、「法と社会」という伝統的な思考法とは異なった形で、法現象の社会学的記述を目指す試みになっています。
ルーマニ屋さんに特に読んで欲しい箇所はありますか?その理由は?
2章です。2章は酒井泰斗さんと共同執筆した論文 がもとになっており、しばしば「現代思想」的消費がおこなわれてしまいがちなルーマン理論に対して、経験的な学としての社会学の中でその意義を問いたいという関心のもとに書かれています。
EMCAの初学者は、どこから読むのが分かりやすいと思いますか?
また、読むときに参考になる本や、読む際の留意点があれば、教えてください。
本書は「EM/CAの本」を作るつもりで書かれた本ではありません。私自身、今でこそEM/CAを自分の立場として自覚しているものの、本書の内容はむしろ、私がEM/CAに辿りつくまでの思考が形になったものだというほうが正確なのです。ですので、どの章から読み始めても、EM/CA的な考え方の「わかりやすさ」に違いはありません。むしろ、内容的に興味を持っていただける箇所から読んでいただいたほうが、本書の全体としての関心を理解していただくためにはよいと思います。
次に書きたいと思っていることはありますか?
現在は裁判員制度がもたらす帰結に関心を持ち、模擬裁判の相互行為分析に着手しています。本書で分析の対象としたのは判決文でしたが、法廷場面では、判決文とはまた違った、リアルタイムに進行していく相互行為に特有の秩序がいくつも重なり合い、絡み合いながら法的実践をかたちづくっています。その実践の構造を描くと同時に、その構造の中にあるジェンダー問題の輪郭を明確にする仕事をしていきたいと思っています。

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書評情報

受賞
ジェンダー法学会 第五回西尾学術奨励賞
書評
馬場靖雄,2013,「書評・小宮友根著『実践の中のジェンダー』『ソシオロジ』57(3).(著者によるリプライがついています)

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本書で扱われていること ── キーワード集

アイデンティティ(カテゴリー)、 意味、 記述、 経験を語る権利、 参与者の指向、 実践、 社会秩序(の統一性)、 性現象の社会性、 性的自由、 性別カテゴリー、 中傷効果、 パフォーマティヴィティ、 被害者の意思、 表現の自由、 法的実践、 理解可能性(行為やアイデンティティの)、 リマインダー(概念の用法の)

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